わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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19 知らない感情

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「ここの照明は少し強い。もう少し柔らかい感じが好ましい」
「これぐらいですか?」
「ああ、これぐらいの方がはっきりとロゴも見える」

 モデルたちのスタイリングが進む間、商品撮影は順調に進行していた。
 照明や角度、背景などを工夫して、より購買意欲を掻き立てられる写真を撮る。
 
 構図などは元々決めているが、実際撮ってみるとイメージと異なることが多い。だから細かく調整をしながら撮影をしていくのだが、久世社長が的確な指示を出してくれているお陰で撮影はスムーズだ。

「九重社長、どうでしょう?」
「うん、いい感じですね。こっちの方がコントラストも素敵です」

 久世社長の指示で撮り直した写真を椛乃社長も確認、何度も頷いてイメージと合っていることを伝える。
 
「じゃあ次こっちの角度から。照明は少し強めで、影が大きく出る感じが好ましい」
「なるほど。でしたら――」

 お馴染みの撮影スタッフも久世社長に逆らうことなく、テキパキと動く。無駄な動きは一切ない。これも手腕ってことかも。

「……ずるいよ」

 ぽつりと零れた言葉は嫌味っぽかったかもしれない。だけど小さな声だから誰にも聞こえてないはず。

 だってやっぱり――仕事をしている久世社長はちょっとかっこいい。そう思わせてくるなんてずるい。この前は優しくて、今日は理性的な冷徹カリスマ社長。そのギャップがまた私を混乱させる。

 心なしか女性のスタッフが久世社長を見る目だって、ちょっと浮ついている。「久世社長って相変わらず素敵」とさっき言っていたのはカメラアシスタントの女性だ。

「九重社長、見てもらえますか?」
「はい」
「これどうでしょう?」

 久世社長の呼びかけに椛乃社長が商品に近づく。社長2人で話し合いながらベストな場所や角度を探していて、ぱっと見、久世社長が全部決めているみたいに見える。だけどちゃんと椛乃社長も意見を言っているし、それを久世社長も受け入れている。

 全くタイプの違う2人の社長だけど、Yoruiについてはピッタリと意見が一致することも多い。性格が違うだけでビジネスに対する考え方などの根は似てるのかもしれない。

 私と秋月さんはそんな社長2人から離れて、スタジオの奥でその様子を見守っている。

「この感じだと予定より早くモデルとの撮影が始まりそうですね」
「ですね。秋月さんモデルじゃないのってもう慣れました? 数年前まで実際撮られる側だったじゃないですか」
「そうですね……最初は違和感がありましたけど、今はすっかり慣れましたよ」

 そんな話をしながら撮影を見守っていると、控室の扉が開く。出てきたのはスラリと手足の長くてスタイルのいい女性モデル。

 「すみません、女性モデルのチェックお願いします」

 スタイリストが社長達に声をかける。
 うわっ、相変わらず綺麗。そんな声が思わず零れた。

 Yoruiのイメージモデルを務めるモデルは芦原 紗英あしはらさえ。ファッション雑誌でも人気のモデル。身長173㎝にクールな面持ち。スーツスタイルがよく似合う。年齢は確か30歳ぐらい。
 
 モデルと言えば気取ってるイメージがあるけど、紗英さんはそんなことない。確かに少し気が強そうなところはあるけど、仕事が出来るって感じのオーラ。私は結構好き。昔から紗英さんの載ったファッション雑誌を買ってたし。

 スタイリストが用意した衣装に身を包み、計算されたメイクで今日も美しい紗英さん。高いヒールを履いているせいか、よりスタイルがよく見える。

 久世社長と並ぶと――すごくバランスがいい。

「……ん?」

 チクッと胸の辺りが一瞬痛んだ。

 視線の先では久世社長と椛乃社長が紗英さんのメイクや髪型をチェックしている。久世社長の身長は確か185㎝。紗英さんはヒールの影響で今180㎝近くあるかもしれない。久世社長と並んでもいい感じ。椛乃社長と並ぶのとは少し違う。なんだろう、背が近いせいか――その距離も近く見えた。

「ここの部分に何かひとつヘアアクセサリーが欲しい」

 すっと、久世社長の指先が紗英さんの髪に伸びた。肩より短い、ショートボブの髪を耳にかけるのを見ると、何故かピリッと背筋が痺れる。同時にまた心臓が変な風にぎゅって締め付けられた。

 なんだか変だ。こんなシーン、これまでも何度も見てきたのに。

「紗英さんと久世社長って並ぶと絵になりますよね」

 そんな声をカメラアシスタントの女性が零した。小さな声だった筈なのにやけに大きく聞こえた気がする。

 
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