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19 知らない感情
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しおりを挟むその後も撮影は順調に進んだ。プロのモデル達はこちらの意図や指示をすぐに理解してくれて、商品が際立つ立ち姿や表情を次から次へと決め、シャッターが切られる度にポーズを変える。
写真を撮って確認、それから修正の流れを何度も繰り返しているが、その間私はずっと不思議な感覚に襲われている。
「この前モデル仲間とYoruiの話になったんですよ。みんな使ってみてよかったって言ってました」
「それはよかった」
「LUNARIAの商品最近男性モデルも使ってる人多いんです。昨日の撮影でもヘアメイクさんが持ってましたよ」
次の撮影に備えてセットが変わる間、紗英さんは久世社長と何かずっと話している。基本紗英さんが話題を振って、久世社長が答える形ではあるが、話が終わる様子はない。
紗英さんはYorui立ち上げ時からのイメージモデル。さらにはそれ以前から久世社長とは知り合いみたい。どこかのブランドのレセプションパーティーで知り合ってからもう4、5年の仲と聞いている。
だから2人が普通に会話をしているのは悪いことじゃない。私にとっても、撮影スタッフとしてもいつも見る光景だと思う。
なのに――。
「先月発売された雑誌のスタイリングはよかった。メイクもいつもと違う濃さが意外と似合っていた」
「ありがとうございます。あれB社の新作ですよ。発色良くて、カメラ映えもよかったです」
背の高い2人が向かい合う形で話を弾ませる。私のことは褒めてくれないのに、さっきから何回も紗英さんのことは褒めてる。
「――あ……」
見たくないのに、2人のやりとりを見ていると、ドキリとまた心臓が高鳴った。
久世社長の指先がまた紗英さんに伸びた。目元で光るグリッターアイシャドウを撫でるように肌に触れるのを見た瞬間、カーディガンの袖口をぎゅうっと掴む。
「ここ、もうちょっとラメ抑えてもらえるか?」
「はい」
ヘアメイクさんに指示を出して、紗英さんから一歩離れる。手が離れると、少しだけ気持ち楽になった。
なんか今日……いつも以上に久世社長のこと見ちゃう。
それに、いつもと同じ光景が違ってみれる。
あの冷徹で淡々とした久世社長が紗英さんと普通に話してるのが――何処か引っ掛かる。なんでかは分からない。
心臓がそわそわして、胸に黒い何かが渦巻いているような感覚。こんな感覚を覚えるのは随分久しぶり……だと思う。
「どう? いい感じですか?」
「ああ、こっちの方がいい」
メイク直しをさっと終えた紗英さんが久世社長に向かってポーズを決める。久世社長はじっと彼女を見て「いい」と短い返事で彼女を肯定した。
いいな。あんなに褒めてもらって。
そりゃ自分には自信がある。自分のことは可愛いと思っているし、身長は160㎝でスタイルだっていい。胸もあるし。けど――やっぱりプロのモデルには敵わない。
これまでいろんなモデルさ会ったことがあるけど、特にそんなこと思ったことはなかった。ファッションが好きな私にとってモデルさんは憧れ。自分と比べる対象じゃない――と思ってたのに。今日は比べてしまう。もっと着飾ってくればよかったと思うぐらいに。
いやだ……なんかこれって……。
久世社長と紗英さんが仲良いのが――気に食わないみたいじゃん。
それに気づいた瞬間、一気に頬に熱が集まって思わず顔を2人から背けた。
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