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エピローグ
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しおりを挟む「あ、そうだ。えっと、黒瀬茉乃です」
名乗ってもらいながらいつまでも驚いている訳にはいかない。慌てて頭を下げるも「知ってるよー」なんて軽い声が飛んで来る。
「茉乃ちゃんって椛乃の秘書やってんでしょ?」
「あ、はい。そうです」
「この前のパーティーで会えるかなって思ってたんだけど、飛行機遅れて終わった頃に着いちゃって会えなかったんだよねぇ」
「この前いらしてたんですか?」
「そうそう。兄貴の誕生日のお祝いにサプライズで……って思ったんだけど出来なかったんだよね。まあ、こうやって茉乃ちゃんの顔見られたからOKかな!」
久世社長に似た顔で笑われるとまだ少し戸惑うけど、悪い人ではないのは分かる。椛乃社長ともこの軽い感じで友人関係を築いているのだろう。
だけど、そんな弟の存在を今は面白くないと思っているのか、久世社長の表情は相変わらず厳しい。一通り話を聞き終わった後、小さな溜息をつくと、ダイニングテーブルの上に置いてあったクラッチバッグに手を伸ばし、弟の胸に押し付けるように渡す。
「もう満足だろ。さっさと帰れ」
「えー、もうちょっとぐらいいいじゃん」
「ダメだ」
ぴしゃりとまるで部下を叱責するみたいな言い方。だけど燈真さんはまるで気にしてない様子で「はいはい」なんて肩を竦める。バッグを受け取ると“仕方なく”帰ることにしたみたいで、私を見てまた笑った。
「じゃあ、茉乃ちゃんまたね。兄貴のことよろしくお願いしまーす」
「あ、はい……!」
本当に親しみやすい感じが久世社長とは異なる魅力だ。それに、久世社長の弟だから当たり前かもしれないけど見た目も整っている。背は兄よりは少し背が低いけど、整った顔立ちに柔らかい笑顔。 海外育ちで英語も堪能――間違いなくモテるタイプだ。
「兄貴、週末食事忘れないでね」
「わかってる。また連絡する」
「おやすみ」と手を振ってきた燈真さんに手を振り返すべきか。少し悩んでいるうちに、その姿はもうリビングから消えていた。数十秒もしないうちに玄関のドアが閉まった音が今度こそ2人っきりの部屋に響くのと、恋人の呆れた溜息が耳を掠めたのはほぼ同時だった。
そして本来の静寂が戻る。
途端に部屋の空気が変わって、胸がほんの少しどきんと跳ねた。
「悪かったな」
「いえ……。けど驚きました。弟さん帰国してたんですね?」
「ああ、休暇を兼ねて来週までいるみたいだ」
久世社長から呼び出されて、それだけで嬉しかったのに、まさか弟さんと出会うことになるなんて、考えてもなかった。
まだ驚きを隠せないでいると、久世社長が説明を続けた。どうやら、今日突然予定が空いたからと会いに来たみたい。それで私が来るから帰れって言ったのに「一目見たい」と頑なに帰らなかった。……ってことはもう私と付き合ってること弟さんには言ってるんだ。
短い会話から週末に食事の約束もしてるみたいだし、兄弟仲はいいみたい。
「なんか意外です」
「なにがだ?」
「もう弟さんに私のこと言ってるんですね?」
「ああ」
短い返事ひとつで口元が緩んでしまった。私もようやく驚きから解放されたみたい。
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