7 / 104
1章
7——黒田——
しおりを挟む
互いが無言で見つめるので気恥ずかしくなり、黒田から話を逸らす展開に自分自身ついていけなかった。
それから終始気まずい雰囲気のまま朝を迎えることになる。
黒田は学校から帰宅する際に、車からある衣類を一緒に持って帰る。これを持ち帰り忘れると、イベント発生案件だ。いくつかの分岐点を迎えることになるだろう。
目視で衣類の存在を確認してから、玄関ドアを開けた。「ただいま!!」。
「黒田君! おかえり!」雄弁になって出迎えてくれる田淵。どのような心境の変化があったのかは黒田の知るところではないが、いい方向であることだけは見てわかった。癒しを求めて自宅に帰る行為が「幸せ」だ。
そんな毎日を送っている黒田には、さらに嬉しいオプションがついてくるようになった。それは、田淵からの出迎えと、抱擁だ。本人曰く、「ハグはストレスを大幅に軽減してくれるから」らしい。
——まさにオアシス。
今日も甲斐甲斐しくハグをしてくれる。田淵のそれと同等のものを返して、ハグの意味を聞き出したい欲を抑えた。
本格的に黒田家に住み着いた田淵は、全ての費用を折半すると申し出て、それは頑なに引かなかった。あたかも、黒田が最初から費用を払わせないつもりであった事を事前に知っていたかのようだった。
なし崩しにできるのも限界があるらしい。
だが、それが功を奏したのか、田淵が他人の家に住んでいるという感覚が抜けてきたようで、リラックス状態の田淵を見ることができた。
これこそ、イージーモードだ。黒田の思うように田淵自ら歩み寄ってくれる。
「今日は話があるんだ」最近日課になったおかえりのハグを終え、田淵が真剣な面持ちで黒田に話しかけた。
「なに? きくよ」
「……黒田君。バイト掛け持ちまでして何にお金が必要なの?」
「え?」
素っ頓狂な声を上げてしまって情けないが、それよりも突拍子もないことを聞く田淵に思わず目が点になる。
「家賃とか光熱費とか、食費とか……費用は折半してるのに、未だに宅配の兄ちゃんと講師のバイトしてるみたいだから、気になって。もしかして、何か欲しいものがあったり、するのかな、て」
田淵はおずおずという。「もしそうなら——僕からプレゼントさせて欲しい……なんて」。
声を大にしていう事はないが、田淵は自分で得た金で得る物の意味を知っているらしく、黒田に控えめに言った。
そうして、黒田はこの間、講師アルバイトの存在を口走った事を後悔する。しかし、これで田淵が欲しいと言ってもいいかもしれない。
幾秒の沈黙を作り、黒田は答える。「そうそう、掛け持ちの件ね。本当にタイムリーな話なんだけど、出費が半分になった事だし、暇なんてヒロキさんがいるからそんな事ないし、講師のバイト一本に絞ろうかなって思って、ついさっき、辞めてきちゃったの」。
「だから、この制服は貸し出しでもないから、捨てちゃう」
「あれ」から一度も袖を通していない制服を田淵に見せて、弁解する。次回も前回同様に車に乗せておくつもりだったが、この際仕方がない。
「……そうなんだ」
田淵の反応が鈍いので、疑問符を投げかける。
「……あ、それで、欲しいものはないの? 助けてくれたお礼がずっとしたくて」
「え、お礼してくれるの?!」
食いつきが異常にいい黒田に、肩を揺らす。「う、うん。させて欲しい」。
「じゃあ……最近してくれるようになったこのハグの意味、教えて欲しいな」
今日は既に済ませたはずの抱擁を黒田から包んだ。
「ん?」固まる田淵を完全なる下心で詰め寄る。
「うん! させてほしい」
「じゃあ・・・・・・ハグの意味を教えてほしいな?」
「ん?」黒田は固まる田淵に完全なる下心で詰め寄った。
それから終始気まずい雰囲気のまま朝を迎えることになる。
黒田は学校から帰宅する際に、車からある衣類を一緒に持って帰る。これを持ち帰り忘れると、イベント発生案件だ。いくつかの分岐点を迎えることになるだろう。
目視で衣類の存在を確認してから、玄関ドアを開けた。「ただいま!!」。
「黒田君! おかえり!」雄弁になって出迎えてくれる田淵。どのような心境の変化があったのかは黒田の知るところではないが、いい方向であることだけは見てわかった。癒しを求めて自宅に帰る行為が「幸せ」だ。
そんな毎日を送っている黒田には、さらに嬉しいオプションがついてくるようになった。それは、田淵からの出迎えと、抱擁だ。本人曰く、「ハグはストレスを大幅に軽減してくれるから」らしい。
——まさにオアシス。
今日も甲斐甲斐しくハグをしてくれる。田淵のそれと同等のものを返して、ハグの意味を聞き出したい欲を抑えた。
本格的に黒田家に住み着いた田淵は、全ての費用を折半すると申し出て、それは頑なに引かなかった。あたかも、黒田が最初から費用を払わせないつもりであった事を事前に知っていたかのようだった。
なし崩しにできるのも限界があるらしい。
だが、それが功を奏したのか、田淵が他人の家に住んでいるという感覚が抜けてきたようで、リラックス状態の田淵を見ることができた。
これこそ、イージーモードだ。黒田の思うように田淵自ら歩み寄ってくれる。
「今日は話があるんだ」最近日課になったおかえりのハグを終え、田淵が真剣な面持ちで黒田に話しかけた。
「なに? きくよ」
「……黒田君。バイト掛け持ちまでして何にお金が必要なの?」
「え?」
素っ頓狂な声を上げてしまって情けないが、それよりも突拍子もないことを聞く田淵に思わず目が点になる。
「家賃とか光熱費とか、食費とか……費用は折半してるのに、未だに宅配の兄ちゃんと講師のバイトしてるみたいだから、気になって。もしかして、何か欲しいものがあったり、するのかな、て」
田淵はおずおずという。「もしそうなら——僕からプレゼントさせて欲しい……なんて」。
声を大にしていう事はないが、田淵は自分で得た金で得る物の意味を知っているらしく、黒田に控えめに言った。
そうして、黒田はこの間、講師アルバイトの存在を口走った事を後悔する。しかし、これで田淵が欲しいと言ってもいいかもしれない。
幾秒の沈黙を作り、黒田は答える。「そうそう、掛け持ちの件ね。本当にタイムリーな話なんだけど、出費が半分になった事だし、暇なんてヒロキさんがいるからそんな事ないし、講師のバイト一本に絞ろうかなって思って、ついさっき、辞めてきちゃったの」。
「だから、この制服は貸し出しでもないから、捨てちゃう」
「あれ」から一度も袖を通していない制服を田淵に見せて、弁解する。次回も前回同様に車に乗せておくつもりだったが、この際仕方がない。
「……そうなんだ」
田淵の反応が鈍いので、疑問符を投げかける。
「……あ、それで、欲しいものはないの? 助けてくれたお礼がずっとしたくて」
「え、お礼してくれるの?!」
食いつきが異常にいい黒田に、肩を揺らす。「う、うん。させて欲しい」。
「じゃあ……最近してくれるようになったこのハグの意味、教えて欲しいな」
今日は既に済ませたはずの抱擁を黒田から包んだ。
「ん?」固まる田淵を完全なる下心で詰め寄る。
「うん! させてほしい」
「じゃあ・・・・・・ハグの意味を教えてほしいな?」
「ん?」黒田は固まる田淵に完全なる下心で詰め寄った。
5
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる