世間は狭いらしいので、いつでも鷲掴みすることにした

ゴンザレス

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1章

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 田淵はたじろいだ。黒田が不快に思わない範囲で身をのけぞって。

「い、意味・・・・・・」
「そ。ストレス軽減はそうなんだけど、別の意味ないかなぁって」
「・・・・・・」

 たしかに、黒田の言う通り、あるにはある。それも、友人の範疇を越えたマイノリティの情動が――しかし、さっき見た黒田のバイトの制服で疑念が頭の片隅から侵食してくるのだ。

 以前から見たこと無い会社名で、しわの少ない新しそうな制服1着で着回しているようだ。おかしい。最低でも2ヶ月は勤務しているはずなのに、たった1着でなかなか古くならないのはどう考えてもおかしい。

 まだある。
 職業柄、バイトの兄ちゃんはどの時期でも汗をかく仕事である。それなのに、朝家を出たままの香りを保ったままなのだ。シャワーを浴びて帰宅すれば匂いくらい変化しているものだが、それもない。

 「今、何考えてるの?」黒田は顔を急接近させていう。

「別の意味、俺に教えてくれないの?」
「・・・・・・っ、本当に、ストレス軽減のためだよ」
「――そう」

 そっけない態度を初めて取られた。仕方のないことだと理解していながら、ぽっかりと穴が空いた感覚はしっかりと刻まれる。

「・・・・・・じゃあ、俺、今すごくストレス溜まってるからさ」

 バツが悪くなるがそれを許さない黒田は、尚も視線を田淵にぶつけたままだ。

 「俺にたくさんハグしてよ」同時に腕が伸びてきて、田淵を強く抱きしめた。田淵のものと同等で返されてきたものとは雲泥の差がある力。
 締め付けられるほど、やはり想いも強くなるのに、侵犯する疑問が素直に「うん」と同じだけの熱量で返すことが出来ない。

 長年培われたコミュ障は、基本的に人を信用しないきらいがあるので無理もない。

 それが助けてくれた黒田に対しても発動されている自分自身に、苛立ちを覚える。

 挨拶程度のハグを返す。

「・・・・・・お礼される立場なのに、俺ばっかり」
「っ!! ごめん!! ちょっと恥ずかしくて」
「最近はヒロキさんからしてくれたのに?」
「・・・・・・」
「ヒロキさん、今思ってること俺に話せる?」

 「きっと俺に何か疑問でもあるんでしょ?」ため息をつく。

(黒田君は何でもわかってくれるなぁ)

「・・・・・・バイト掛け持ち大変だろうなって思ってたんだけど、さ。黒田君の制服の会社名、僕知らないんだ。これだけネットを頼りに生きてきた人間だからさ、ある程度は網羅してるつもりではいるんだよ」
「・・・・・・そう。俺が知らないところで働いてたのが心配だった?」
「・・・・・・制服、1着のようだけど、ずっと綺麗・・・・・・」
「・・・・・・」
「それで、いつも汗臭くない」

 「ヒロキさん、汗臭い俺でも平気だった?」と黒田はジョークのようにして言ってみせるが、抱きしめられたままで表情が見えない。
 まるで、顔を見せまいとしているかのようだ。

「・・・・・・はぁ、なるほどね。バイトの嘘っていうより、宅配のバイトが嘘っていうところが引っかかる・・・・・・そりゃそうだよね。あんなことされたんだもん」
「――っ」
「ああ、思い出させちゃったね、ごめん」
「でもさ、よく考えてよ。たしかに疑問点は幾つかあったかもしれないけど、ヒロキさんへの嫌がらせを対処したの誰?」
「黒田、君」
「そう、俺なの」

 「それに、俺は理系の大学院生だよ? もし、嫌がらせが俺だったとしても、自作自演だなんて面倒で直接的なことしないよ。効率厨だもん」にへら、と笑った。

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