世間は狭いらしいので、いつでも鷲掴みすることにした

ゴンザレス

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1章

30――黒田――

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 肩で呼吸をする田淵を見て、素直に無理をさせてしまったと思った。
 
 向き合って事を終えるのが常な黒田は、田淵が気絶しかけながらエネルギー回復のために眠っていく様を見てきた。
 今回も無茶をさせてしまって心配が先行するのに、実際に抱き潰すまでできるのかはたはた疑問である。

 ただ、薬を盛ったことはあるので、自分のボーダーラインが分からなくなってしまった。

 一人脱衣所に向かい、シャワーを浴びる。

(あれ、そういえば、昨日風呂に入ってない気がする。ヒロキさんに申し訳ないことしたな)

 風呂から上がって、お湯で濡らしたタオルを持って自室へ戻る。
 まだ時間が空いていない自室からは、馨しい香りが漂っていて、再興奮しそうになる。
 ベッドには田淵のみだらな体臭となって染み付いていることだろう。
 
 そうして、身体を拭いてやる内に、今回は噛み痕がないことに目を瞬かせた。
 
 黒田の考えとは裏腹に、田淵が好きていてくれた事実が、黒田の安心した行動となっている。余裕があるわけではないが、噛み付くといった動物的なタガの外し方をしなかったのは、おそらく今日が初めてだ。

 「あんた、ホント急にどうしたんだよ。このままじゃ、俺――俺の思うようにヒロキさんのこと縛れなくなる」田淵に聞こえるはずもなく、言葉だけが空を切る。

 己の臆病さに気付かされたところで、着信が鳴る。刹那的に、この音は自分のスマホの音であることを確信して、通話に出た。
 そうして、捜索依頼を出していたことを思い出す。

「――すみません、その件はもう大丈夫です」

 「はい、見つけましたので。――何度も言ってるはずです。社長の座は興味ないです、と。俺は黒田から1抜けした身です。構わず躍進なさったらどうですか。俺相手に躍起にならなくてもいいでしょう」呆れ返ってみせるが、通話越しからも分かる喧騒にため息がでてしまった。

 黒田の人間は血の気が多くて敵わない、と。
 その血筋が色濃く自分の中にも流れていることに嫌悪を感じながら、通話を切った。

「さ、ご飯作って、細胞の作り直しと行こうか」

 昨日はどこぞの飯を食い、黒田以外の手によって血肉を作ったわけだ。また1からだが、このくらいの独占欲はご愛嬌のうちに入れてもらおう。
 田淵のでこに口づけを落として、部屋を出た。

 「あ、飛露喜って呼んでもらうのお願いしてみようかな」柔和な笑みを浮かべて、田淵が理性を外した時の名前呼びを再び想像する。

 
 
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