187 / 255
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
誰もいない決着 (初音視点)
しおりを挟む
筆舌に尽くし難い速度で迫る地表。
呪物に操られた爺が苦しまぬようにと、頭から地面に落下した衝撃は予想に反する物じゃった。
ワシらは不透明な膜に被われ、辛うじて一命を取り留めたらしい。
どういう訳か、ワシの周りを囲う膜だけが音もなく霧消すると、静かに地面へと降り立つ。
「この力は……ぐぶっ!」
大量の吐血。
己の口から漏れ出たというに、初めて見る光景に動揺せずにはいられなかった。
体内に留めようとするが湧水のように溢れ、急速に失われる活力は立っている事すら叶わず、足元から崩れ落ちる。
「女媧…さま……どうして…」
命を懸けた覚悟を邪魔されてしまい、その意味を問おうと目を向けると、状況は一変しておった。
『想定された分岐点を確認。定められたプロトコルに従い、システムへの侵入を実行します』
「な…にを……言…」
明らかに様子がおかしい。
表現する言葉は見つからぬが…絶対、いつもの女媧様ではない!
『侵入――エラー――侵入――エラー――侵入…』
これまでとは違う、空虚で無機質な声。
意味不明な言葉を繰り返し、微動だにしなくなった女神に驚嘆するばかり。
あの御方に関して、未知の部分が多かったのは認める。
じゃが、いま目の前で起きておるのは全くの別物!
難しい事は分からぬが――ワシの…いや、日ノ本の範疇にない領域なのは明白ぞ!
『侵入――――――ハッキングに成功。
引き続き、第2プログラムを起動――』
あしなと旅をしておる間、随分と不可思議なモノに触れる機会に恵まれたが、この感じは飯綱の自宅に近い雰囲気じゃ。
『第2、第3プログラム完了。
システムは順次書き換えられます。
想定される時間まで――』
「敵への……警戒が……甘いな……」
異様な光景に目を奪われていた為か、縛を解いた爺に気づくのが遅れてしまい、声を上げるよりも早く女媧様の体を一閃する!
「女媧さ……!?」
我が目を疑わざるを得なかった。
それは女神を手に掛けた爺も同じ!
「な……なんだ……貴様……何者だ!」
正気を失った者でさえ動揺を隠せない。
無理もなかろう…。
此の地にあまねく全てを斬るという話は決して虚言ではなく、神をも例外ではなかった。
だが、女媧様は胴から真っ二つにされたというに、まるで気にした様子もなく意味不明な独り言を呟き続けた。
『システムの一部改ざんに成功。
シナリオの改変まで残り――』
「何故だ! 何故死なぬ!?」
人智を超えた現象が理解を拒んだのか、それとも己の矜持が傷ついたのかは分からぬが、爺は見る陰もなく取り乱し、女媧様の体を散々に切り刻む。
「あ、あ、貴女は…貴女様は一体……」
痛みを忘れて女神に問う。
女媧様は――どう言えばよいのか…。
全身バラバラに引き裂かれてもなお、それでも意識を保ったまま宙に浮き、見聞きした事もない文字のような物を身にまとっておられる、としか表現しようがない…。
『私は端末に過ぎません。
けれど……貴方達と一緒にいて、旅をして、とても……充実した一時を過ごせたのです。なんだか私、変ですよね…』
「面妖な……は、放せぇ!」
女媧様のまとう文字が渦を巻き、取り乱した爺を有無も言わさず拘束する。
『今日まで夢のようでした。本当に…。
貴方達と過ごした日々は、膨大なデータのどこを探しても見つかりません。私の…大切な、大切な思い出』
胸を掻きむしる嫌な予感!
この感じは…母上が亡くなられた時と似ておる!
「女媧さ…ごぼっ…がっ! ぁ…」
肺が絞り尽くされ、空気が漏れ出ていく。
足元から血の気が引き、徐々に感覚と熱が失われていくのを実感した。
あぁ、これまでじゃな…。
『お別れの時です。
最後に、創造主様からのメッセージをお伝えいたします。――今度こそ、必ず君を救ってみせる』
その言葉を口にした直後、女神は文字の集合体に身を変え、凄まじい竜巻となって爺を空高く舞い上げていく。
数え切れない程の文字はあらゆる物を透過し、既に殆どの五感が失われていたのに、見た事のない景色、聞いた事のない音楽、触れた事のない刺激の全てをもたらした。
「よき……冥土の…土産……ぞ…」
今際の際、光なき世界の終わりで母上が微笑んでおられたのを、確かに感じた――。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここまでのAwazonポイント収支
『妖刀 村正を破壊――20000ポイント』
現在のAwazonポイント――509,590P
呪物に操られた爺が苦しまぬようにと、頭から地面に落下した衝撃は予想に反する物じゃった。
ワシらは不透明な膜に被われ、辛うじて一命を取り留めたらしい。
どういう訳か、ワシの周りを囲う膜だけが音もなく霧消すると、静かに地面へと降り立つ。
「この力は……ぐぶっ!」
大量の吐血。
己の口から漏れ出たというに、初めて見る光景に動揺せずにはいられなかった。
体内に留めようとするが湧水のように溢れ、急速に失われる活力は立っている事すら叶わず、足元から崩れ落ちる。
「女媧…さま……どうして…」
命を懸けた覚悟を邪魔されてしまい、その意味を問おうと目を向けると、状況は一変しておった。
『想定された分岐点を確認。定められたプロトコルに従い、システムへの侵入を実行します』
「な…にを……言…」
明らかに様子がおかしい。
表現する言葉は見つからぬが…絶対、いつもの女媧様ではない!
『侵入――エラー――侵入――エラー――侵入…』
これまでとは違う、空虚で無機質な声。
意味不明な言葉を繰り返し、微動だにしなくなった女神に驚嘆するばかり。
あの御方に関して、未知の部分が多かったのは認める。
じゃが、いま目の前で起きておるのは全くの別物!
難しい事は分からぬが――ワシの…いや、日ノ本の範疇にない領域なのは明白ぞ!
『侵入――――――ハッキングに成功。
引き続き、第2プログラムを起動――』
あしなと旅をしておる間、随分と不可思議なモノに触れる機会に恵まれたが、この感じは飯綱の自宅に近い雰囲気じゃ。
『第2、第3プログラム完了。
システムは順次書き換えられます。
想定される時間まで――』
「敵への……警戒が……甘いな……」
異様な光景に目を奪われていた為か、縛を解いた爺に気づくのが遅れてしまい、声を上げるよりも早く女媧様の体を一閃する!
「女媧さ……!?」
我が目を疑わざるを得なかった。
それは女神を手に掛けた爺も同じ!
「な……なんだ……貴様……何者だ!」
正気を失った者でさえ動揺を隠せない。
無理もなかろう…。
此の地にあまねく全てを斬るという話は決して虚言ではなく、神をも例外ではなかった。
だが、女媧様は胴から真っ二つにされたというに、まるで気にした様子もなく意味不明な独り言を呟き続けた。
『システムの一部改ざんに成功。
シナリオの改変まで残り――』
「何故だ! 何故死なぬ!?」
人智を超えた現象が理解を拒んだのか、それとも己の矜持が傷ついたのかは分からぬが、爺は見る陰もなく取り乱し、女媧様の体を散々に切り刻む。
「あ、あ、貴女は…貴女様は一体……」
痛みを忘れて女神に問う。
女媧様は――どう言えばよいのか…。
全身バラバラに引き裂かれてもなお、それでも意識を保ったまま宙に浮き、見聞きした事もない文字のような物を身にまとっておられる、としか表現しようがない…。
『私は端末に過ぎません。
けれど……貴方達と一緒にいて、旅をして、とても……充実した一時を過ごせたのです。なんだか私、変ですよね…』
「面妖な……は、放せぇ!」
女媧様のまとう文字が渦を巻き、取り乱した爺を有無も言わさず拘束する。
『今日まで夢のようでした。本当に…。
貴方達と過ごした日々は、膨大なデータのどこを探しても見つかりません。私の…大切な、大切な思い出』
胸を掻きむしる嫌な予感!
この感じは…母上が亡くなられた時と似ておる!
「女媧さ…ごぼっ…がっ! ぁ…」
肺が絞り尽くされ、空気が漏れ出ていく。
足元から血の気が引き、徐々に感覚と熱が失われていくのを実感した。
あぁ、これまでじゃな…。
『お別れの時です。
最後に、創造主様からのメッセージをお伝えいたします。――今度こそ、必ず君を救ってみせる』
その言葉を口にした直後、女神は文字の集合体に身を変え、凄まじい竜巻となって爺を空高く舞い上げていく。
数え切れない程の文字はあらゆる物を透過し、既に殆どの五感が失われていたのに、見た事のない景色、聞いた事のない音楽、触れた事のない刺激の全てをもたらした。
「よき……冥土の…土産……ぞ…」
今際の際、光なき世界の終わりで母上が微笑んでおられたのを、確かに感じた――。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここまでのAwazonポイント収支
『妖刀 村正を破壊――20000ポイント』
現在のAwazonポイント――509,590P
11
あなたにおすすめの小説
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる