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第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
主従の誓い (初音視点)
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所持していた紐で裂けた前腕を繋ぎ止め、形ばかりの手当てを施すが想像以上の痛みに加え、指先の感覚が殆ど感じられぬ。
あわよくば妖刀を破壊して、爺の意識が戻るやもしれぬと思うたが…。
「お前……鬼属か……相手に……不足なし!」
「父上がお前を守役とした理由、ようやく得心を得たわ。これ程の腕前ならば、並大抵の刺客では相手にならん」
恐らく、今の彼奴は斬る事に迷いがない。
何であろうと、誰であろうと、自分の意思とは無関係に強者を求めて彷徨い、全てを斬り伏せる「鬼夜叉《おにやしゃ》、『撫斬り八兵衛』と化しておる。
「少し……気を入れて……斬ると……しよう」
爺は昔から冗談など言わぬ。
今まで本気ではなかったと言うのなら、それは紛れもない事実なのであろう。
堅物の性格がこうも憎らしいとは――。
「いざ……!」
宵闇に繰り出される無数の突きは、それ自体が地獄の淵から伸びる死者の手招きに等しい。
真正面から受ければ命がいくつあろうと足りぬ!
「いい加減、目を覚ませ!」
後ろに飛んで距離を取り、残った右手で宙に拳を放つ!
クノイチを破った時と同等の攻撃を複数回に渡って打ち込むが、いずれも秘剣 荒波返しを破れずに無効化されてしまう。
「ふ、ふふっ……ははは!」
初めて笑いよった。
剣を振るう姿は鬼気迫りながらも、実に嬉々とした顔をしておるのう。
爺が心に秘めておったのは我が父、九鬼 澄隆への従属ではなく、純粋に強者との戦いを望んでいたのだと理解する。
じゃが、理解の代償は余りに大きく、重い。
「つっ…うぅ!」
一見して緩慢に思える動作から、激流の如く転身した突きは瞬く間すらなく、使い物にならない左腕を捨てて防御したにも関わらず、両肩と腹を深く抉られた。
相対する前から分かっておった。
全ての攻撃を避けるなど到底不可能。
ならば――!
「ッッッッらぁああああ!」
あしなは――あしななら、こうしたはずじゃ!
地面に渾身の一撃を与えると地表の砂は消し飛び、地中の岩盤をも砕いて巨大な穴を開けた!
周囲1町(約半径55m)を一瞬で巻き込んだ力はやがて内部崩壊を起こし、膨大な圧力に反発して砕いた岩盤を空へと押し上げる!
「……! ……小賢しや……窮したか」
恐ろしや…。
彼奴は舞い上がる岩盤に平然と留まり、驚異的な体幹と精神力で些かも動じてはおらぬ。
なんと…恐ろしくも頼もしい守役よ!
岩盤の陰を利用して死角を狙い、一気に蹴り出して体全体を加速させた。
これが正真正銘、最後の攻撃じゃ!
「爺ぃいいい!!
20年に及ぶ忠勤、大儀であった!」
「そこか……!」
声に反応した瞬間、切っ先を立てて向ける。
まさしく思惑通りぞ!
「ワシの勝ちじゃああああ!!」
両手を一杯に広げて爺の胸に飛び込む。
高速で迫るワシの胸を妖刀が貫き、ぶつかった勢いのまま足場である岩盤から2人もろとも、地上へ向かって落下していく。
どれ程の達人であろうとも、この高さから受け身も取れず激突すれば――。
「き、貴様! ……最初から……死ぬ気か!」
「もう、家族を傷つけとう…ないの……でな…」
刀を引き抜かせぬよう全力で両腕を締め上げ、視界の端に映る地上を見やる。
「ギンレイに…万治郎…そして、あしな。
もうすぐ…帰るので……夕餉の支度を……」
あわよくば妖刀を破壊して、爺の意識が戻るやもしれぬと思うたが…。
「お前……鬼属か……相手に……不足なし!」
「父上がお前を守役とした理由、ようやく得心を得たわ。これ程の腕前ならば、並大抵の刺客では相手にならん」
恐らく、今の彼奴は斬る事に迷いがない。
何であろうと、誰であろうと、自分の意思とは無関係に強者を求めて彷徨い、全てを斬り伏せる「鬼夜叉《おにやしゃ》、『撫斬り八兵衛』と化しておる。
「少し……気を入れて……斬ると……しよう」
爺は昔から冗談など言わぬ。
今まで本気ではなかったと言うのなら、それは紛れもない事実なのであろう。
堅物の性格がこうも憎らしいとは――。
「いざ……!」
宵闇に繰り出される無数の突きは、それ自体が地獄の淵から伸びる死者の手招きに等しい。
真正面から受ければ命がいくつあろうと足りぬ!
「いい加減、目を覚ませ!」
後ろに飛んで距離を取り、残った右手で宙に拳を放つ!
クノイチを破った時と同等の攻撃を複数回に渡って打ち込むが、いずれも秘剣 荒波返しを破れずに無効化されてしまう。
「ふ、ふふっ……ははは!」
初めて笑いよった。
剣を振るう姿は鬼気迫りながらも、実に嬉々とした顔をしておるのう。
爺が心に秘めておったのは我が父、九鬼 澄隆への従属ではなく、純粋に強者との戦いを望んでいたのだと理解する。
じゃが、理解の代償は余りに大きく、重い。
「つっ…うぅ!」
一見して緩慢に思える動作から、激流の如く転身した突きは瞬く間すらなく、使い物にならない左腕を捨てて防御したにも関わらず、両肩と腹を深く抉られた。
相対する前から分かっておった。
全ての攻撃を避けるなど到底不可能。
ならば――!
「ッッッッらぁああああ!」
あしなは――あしななら、こうしたはずじゃ!
地面に渾身の一撃を与えると地表の砂は消し飛び、地中の岩盤をも砕いて巨大な穴を開けた!
周囲1町(約半径55m)を一瞬で巻き込んだ力はやがて内部崩壊を起こし、膨大な圧力に反発して砕いた岩盤を空へと押し上げる!
「……! ……小賢しや……窮したか」
恐ろしや…。
彼奴は舞い上がる岩盤に平然と留まり、驚異的な体幹と精神力で些かも動じてはおらぬ。
なんと…恐ろしくも頼もしい守役よ!
岩盤の陰を利用して死角を狙い、一気に蹴り出して体全体を加速させた。
これが正真正銘、最後の攻撃じゃ!
「爺ぃいいい!!
20年に及ぶ忠勤、大儀であった!」
「そこか……!」
声に反応した瞬間、切っ先を立てて向ける。
まさしく思惑通りぞ!
「ワシの勝ちじゃああああ!!」
両手を一杯に広げて爺の胸に飛び込む。
高速で迫るワシの胸を妖刀が貫き、ぶつかった勢いのまま足場である岩盤から2人もろとも、地上へ向かって落下していく。
どれ程の達人であろうとも、この高さから受け身も取れず激突すれば――。
「き、貴様! ……最初から……死ぬ気か!」
「もう、家族を傷つけとう…ないの……でな…」
刀を引き抜かせぬよう全力で両腕を締め上げ、視界の端に映る地上を見やる。
「ギンレイに…万治郎…そして、あしな。
もうすぐ…帰るので……夕餉の支度を……」
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