風と共に現れし虎、風と共に消える。

チャンスに賭けろ

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第三章 ―村―

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 「どうする。まだ死体を増やしたいっていうなら、協力するにやぶさかでないぞ」
 
 無造作に告げた。

 「・・・・・おい、みんな、引き揚げるぞ」

 このなかで一番体格のいい、蛮刀を持った男が言った。
 この男がおそらくリーダー格なのだろう。

 「なにをぬかしやがる、仇を討たねえでいいのか?」

 「そうだ、目の前で仲間がひとり殺られたんだぞ!」

 「だから言ってる。おめえら、あいつの抜く瞬間を見たか?」
 
 誰も応えず、ただ沈黙がおりた。

 「技量に天と地の差がある。これじゃ無駄に死体を増やすだけだ」

 「気持ちはわかる。会話はひとりじゃできんからな」

 「ぬかしやがれ、月の出ない夜にゃ気をつけるんだな」

 「残念だが、俺は夜目もきくんだ。虎だからな」

「これですんだとはおもわねえことだ」 

 「ああ。用があるなら、俺に来い」

 ちっと舌打ちをすると、野盗どもは得物をおさめ、その場を去っていった。
  虎の刀が、びゅんと血を振りまいて、鞘におさまった。

「セシリア、よく無事だった」

 農夫は、少女の無事をよろこんだ。

 「お父さんこそ。無事だったのね、よかった。心配したわ。てっきりあいつらに捕まったのかと思って」

 「ああ。危うくあいつらに殺される処で、この人に助けてもらったのさ」

 「――この人だ、よろしく」

 虎は、にこりともせず言った。

「お名前をうかがってもよろしいですか?」

「虎と呼んでもらってさしつかえない」

 セシリアは無遠慮に虎をじろじろと見た。本当の名前ではないことは明白である。
 信頼に足る人物かどうか、値踏みをするような眼だった。

 「ふたりとも助けられたし、お礼を言っておくわ。ありがとう」

 「なに、困ったときはお互いさまだ。で、おれは宿に困っている。しばらく厄介になる」

 「えっ、うちの村に住むの?」

 「森に住むよりは楽しいだろう。特に屋根があればいう事はないな」

 「でも、決めるのは村長さんですよーだ」

 セシリアはべーっと小さな舌を出す。

「血の匂いをぷんぷんと漂わせているあなたが、許可をもらえるかどうかわからないわよ」

「話し合いで解決できればよかったがな。見解の相違というやつだ」
 
「見解の相違で殺し合いになったらたまらないわ」

 「まあ、お前さんがあいつらと一緒に手を取り合って、仲良く盗賊のアジトまで行きたがっているなら止めなかったが、そうは見えなかったものでな」

「当り前でしょ! そんな趣味はないわ!」 

 「そいつはよかった、初めて意見が一致したな」

 虎は意外と饒舌だった。どちらかといえば毒のこもった方の。
 セシリアは殺意にも似た眼差しを彼に向けたが、虎のほうは飄然としている。

 「まあまあ、さしあたって危機は去ったんだ。とりあえず村へ戻ろう」
 
 見かねたノギトが仲裁に入った。
 
「ふーん、だ」

 セシリアはそっぽを向いた。
 虎はそのあたりの下生えから細長い管をちぎり、それを口にくわえている。




 ひたすら街道を南進し、村へ続く西の小路へと歩をすすめること、さらに二時間。
 ようやく、村の姿が見えてきた。

 それは樹々を伐採し、拓いた村のようだった。
 村の名はフフォーレ。人口は百人とわずかの小さな村だ。
 太く大きな丸太をしっかりと組み合わせ、柵として村の全体を覆っている。
 村の西と東には、それぞれ大きな門があり、どちらにも見張り台が設置されている。野盗対策というのはあきらかだった。
 村の見張りは、はじめて見る虎の姿に、露骨に警戒心を抱いていた。
 まあ長剣を背負った初対面の剣士を警戒するのは、見張りとして当然のことともいえる。ただでさえこの村は、現在、危機的な状況にあるのだ。
 ノギトが、二人が助けられた経緯を語ると、見張りの男はようやく警戒を解いたようだ。
 感謝の言葉を口にするとともに、

 「そういうことならば、村長に会ってくれ。悪いようにはしない」

 と言った。むろん虎に否やはない。
 ひとりでは不自由だろうと思い、ノギトが村の道案内を買って出ることにした。
 荷車はセシリアに置いてきてもらうことにする。
 
「そう遠くはない、ついてきてくれ」

 ノギトが簡潔に告げると、虎は無言で頷いた。 
 村長の家へと向かう道すがら、周囲の視線が気になった。それほど大きくはない村である。好奇の眼が虎に集中するのは仕方のないことであった。
 村に、旅人がまったくこないというわけではなかったが、それも過去の話である。
 いまは野盗対策で、通行もそれほど自由ではない。
 
 おりよく村長は在宅だった。かれは六十過ぎの白髪白髭の男であり、年齢の割には、仙人のように老けて見えた。
 この殺伐とした時代、この年齢まで無事に生き抜くことは、ほぼ奇跡にちかい。
 おだやかな人柄に加え、村の生き字引として、村人からの尊敬を受けている。
 ノギトはふたたび、この男が野盗を撃退し、ふたりを救ってくれた話をした。
 果たして彼は、大いによろこんでくれた。

「そんな凄腕がこの村にきてもらえるとは助かる。ここのところ、モンスターや『夕焼けの窃盗団』が活発化して、村人たちはおちおち薪も拾いに外出できないのだ」

 「ほほう、連中、そんな恥かしい名の盗賊団だったか」

 「名前はともかく、脅威にはちがいない。この村はレンクツド男爵の領土なのだが」

 「治安維持のための派兵はない、と」

「……うむ」

 村長はしぶい顔つきで頷いた。

 「私が思うに、この村は見捨てられたのだろう。小さい村ゆえ、税収も大して期待できない。それより貴重な兵士を、野盗との戦いで損傷させるほうが惜しい。そんなところだろう」

  村には領主から派遣された徴税官がいるが、頑丈そうな執務室にこもりきりで、ひたすら羽根ペンを動かしているだけだ。めったに村人の前にも姿を見せないという。
 村人がたびたび陳情に向うため、村の状況も把握しているはずだが、治安が回復しそうな気配はない。

 「よくあることらしい」と村長はいう。
 どこの領主も、経営は決して安泰ではない。
 領土の治安もろくに保てないほど、貧弱な財政基盤の領主もすくなくはないのだ。
 おそらくその徴税官も、なけなしの税を受け取ると、すぐに都市へ帰っていくのだろう。
 
 そんな村長の悲観論を耳にしても、虎は動じない。

 「そう悲観することはない。そのうちいい事もあるさ」
 
「―――だといいがね」

 村長は肩をすくめ、
 
「それはさておき、村人を助けてくれた礼として、ささやかな宴を催したいが―――」

 「ふむ、ことわる」

 「なぜだ」

 これは村長も意外だったらしく、目をまるくする。

 「それよりも、しばしこの村に滞在する許可をもらいたい」

 「それは別にかまわんが、なにか具体的な目的があるのかね」

 「物騒だというならば、傭兵は稼ぎ時さ」

 「相手は多勢だ。いかに腕が立つといっても、ひとりでは厳しかろう」

「なあに、生き死にの場数なら踏んでいる。やばくなったら、尻に帆をかけるだけさ」

「ふむ……戦力はひとりでも欲しい。断る理由はないかもしれんな」

 村長は、虎をじっと見て言う。
 信じるに足る人物か、観察している風である。
 ノギトから見た虎は、全体的に飄然とした男である、としか言えぬ。だが、底に揺るぎない芯らしきものがある。素性も知れぬ男だが、なにか惹きこまれるものを感じるのだ。
 
 虎は、村長に笑みを返し、

「そんなにじっと見るなよ。顔に穴が開いたらどうする」

 村長はふっと笑った。どうやらノギトと同じ結論に達したようだ。

 「わかった。滞在を許そう。他になにかあるかね」

 「用があれば言うといい。用心棒のまねごとぐらいはする」

 「それは助かる、よろしく頼む」
 
――交渉はこうして終わった。
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