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シフォン

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 魔法陣は、地表でなくても描けるらしい。ただし生き物には直接は描けない。服などの上ならOK。つまり服を着ているならそこに描く事が出来ちゃう。
 そういう事でオレは、クロラに言われるままに魔法陣を描きモンスターを呼び出す事にした。

 「手の平の大きさで召喚!」

 手をこっそりレックスさんの服に向け唱える。
 魔法陣の大きさは、条件に付けなければ召喚されるモンスターによって異なるそうだ。今回、オレの手の平の大きさに指定した。そうすると、その大きさに収まるモンスターが召喚される。
 現れたのは、虫の様な感じ。

 「ひ~! レベル2返還」

 現れた虫の様なモンスターは、すぐさま消え去った。
 ふう。これもクロラの指示……じゃなかった助言。
 モンスターを召喚する事がレベルアップする近道らしい。返還しなければ、召喚できないのですぐさま返還したまで。うん。気持ち悪から返還したのではない。
 さあ、これを繰り返しレベルアップするぞう!

 オレは、無心で召喚と返還を繰り返した。

 ――レベルが三になりました。

 やったぁ。結構あっさり上がったな。

 「レベル2返還」

 さて、次はレベル3を召喚して……。

 「……さっきから何をやっているんだ?」

 ぶつぶつ言っているオレが気になったようで、レックスさんが聞く。

 「え? 気にしないでください」
 「まあいいが。もう少しで着くぞ」
 「はい!」

 見ればオレの目でも確認できるまでに近づいたようだ。

 『レベル上げは一時中断して、レベル3のモンスターを召喚しましょう』
 「あ、うん」
 『そうね。素早さアップでいきましょう』
 「わかった。手のひらサイズで、素早さアップ レベル3召喚」

 あぁ。虫じゃないのはわかっているけど、虫の様だからそれを装備すると思うと、ちょっと抵抗があるよな。あれ? これって!

 手の平にちょこんとお座りをしたのは、虫の様な見た目ではなかった。クロラと同じ黒い毛でとんがった三角の耳、ちょっと釣り目の金の瞳。細長い尻尾が四本。四本!?
 シルエットは猫。だけど尻尾の数が多いんだが。

 「それ全部本物?」

 猫が不思議そうに首を傾げた。あぁ、なんてかわいいんでしょう。
 手乗り猫が首を傾げているよ!!

 『もしかして尻尾の数かしら?』

 クロラがそう言うので、そうだとオレは頷く。

 『幻でもなんでもないわ。数が多いほど強いのよ。まあでもレベル3で召喚されてるからレベル3の能力しかないけどね』
 「え? そうなの?」
 『召喚されるモンスターは、自分のレベルまでの召喚に応じる事が出来るのよ。だからレベル1は、召喚する度に召喚されるモンスターが違うのが普通ね』
 「なるほど。だったらオレはクロラを引き当てたから、なんてラッキーなんだろう!」

 賢いし可愛いし。あぁ早くウサギに戻してモフりたい!

 『ありがとう、ご主人様。では前足、グローブになってもらいましょう』
 「うん。なってもらっていいかな? シフォン」
 『シフォン?』
 「そう。君の名前。尻尾が四本――四本シフォンって、ちょっと強引だけど。どう?」
 『嬉しい!! シフォン、張り切っちゃう!』
 『彼女が懐くなんて!』

 そう言ってシフォンが、僕の両手の装備になった。
 黒い毛で鋭い爪がついていて、に、肉球がある~!
 ぷに。

 「………」

 目の前にあるのに、直に触れない!

 「どうした? 何を泣いている?」

 ぐすんとすすり上げる音に気が付いて、レックスさんが驚いた。

 『ほおずりしても平気よ』

 え! いいの?

 「今度はどうした? いきなり元気になったな。まあ、泣いているよりはいいけど」

 ぷにゅ。
 あぁ、こんなに幸せでいいのだろうか。
 オレは目的地に着くまで、肉球を堪能するのだった。
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