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第五章 疑惑の彼

第五十五話

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 翌日の朝、ティモシーは作戦を決行する。っといっても大した作戦ではない。レオナールの部屋には行かずに、調合室に行くだけである。つまりは仕事をする。アリックは休むだろうが、ダグは来るかもしれない。そうすれば、ベネットもいるだろう。という思惑である。
 たった今、ランフレッドはルーファスの元に向かった。後は、見つからずに調合室に行くだけだ。
 ティモシーとランフレッドは、同じ部屋で三階。調合室には階を移動せずに向かえる。気を付けるなら、ブラッドリーだけだろう。
 そっと廊下を伺い、誰もいないのを確認する。

 (よし! 誰もいない)

 ティモシーは、足早に調合室に向かった。

 「ティモシー?」

 しかし、暫くして後ろから声が掛けられ、ティモシーはビクッとして振り向いた。そこには、ダグが立っていた。彼は驚いた顔をしている。

 (なんだ。ダグか……)

 「あ、えっと、おはようございます」
 「あぁ、おはよう。って、お前怪我はいいのか?」

 ティモシーは頷く。

 「俺はてっきり休みかと思った。しかし、あの人思ったよりスパルタだな……」

 あの人とは、ランフレッドを指すのだろう。

 「あ、えっと。実は王宮に泊まって……暇だから……」
 「あ、なるほど! ってお前、暇で仕事するのか……。俺なら、これ幸いと寝て過ごすけどな」

 っと、ダグはいつも通り笑う。ティモシーは、ふうっと安堵する。だが、今日に限ってまた声が掛かる。

 「おや? ダグだけじゃなくティモシーもいるのか……」

 微かに聞き取れた声に二人は振り向いた。その相手に驚く。ルーファスだったのである。

 「おはよう」
 「おはようございます」
 「おはようございます……」

 ダグは軽く頭を下げ、ティモシーはスッとダグの後ろに下がる。
 ティモシーは、やばいと思った。調合室につく前に見つかったと。だがよく見ると、ランフレッドはいなかった。

 「ティモシー。君はレオ殿の所に行ったのではなかったのか?」

 ルーファスもレオナールの所に行く事を知っていたのかとティモシーは焦る。

 「レオって確か……。うん? 殿?」

 『レオ』の名に聞き覚えがあるダグは、ルーファスが『殿』を付けて呼んだ事に疑問を持ち、ボソッと零す。

 「まあ、いいか。今日はベネットは休みだが? 二人共どうする事になっている?」
 「え! 休みなの!?」
 「うんじゃ、帰るかな……」

 ティモシーは驚くも、ダグの方はそれこそ幸いと、家に帰って寝る気なのだろう。

 「夕方まで馬車は出ない。今、ここも兵士が少ないからな」
 「マジかよ……」
 「連絡の行き違いがあったようだな。……では、暇だろう。どうだこれから、私の用事に付き合わないか?」

 ルーファスの突然の誘いに二人共キョトンとする。ティモシーはともかくとして、ダグに声が掛かるとは思っていなかった。ルーファスに招待を受けるほど接点などないからである。

 「あの……どちらに? お供のランフレッドさんは……」
 「居た! ルー……ファス王子! ここにお出ででしたか!」

 ダグの質問と被るように、遠くから声が響いた。言うまでもなく、ランフレッドである。

 (げ! とうとう来た!)

 「お探ししたのですよ! どうして部屋にいらっしゃ……って、ティモシー、お前! どうしてここにいる! レオ……ふがふが」
 「君は煩い!」

 ランフレッドの口を突然、ルーファスがパっと塞いだ。これには、塞がれた本人もそうだが、ティモシー達も驚いた。

 「これから三人で森に行くことになった」
 「はぁ? 森? いやいや、この状況下で森って……」

 ルーファスは、ランフレッドの口を塞いだ手を服にこすりつけながら言うと、ランフレッドは驚いた。ティモシー達も行き先が森でこちらも驚く。

 「ランフ、地に戻ってる。……森と言っても敷地内のそこだ。問題ない。暇そうだし見せてやろうかと思ってな」
 「違う日にして頂けませんか? 森の見回りの兵士も昨日の夜から街の見回りに当てております。危険です」
 「行きたいです!」

 ダグはランフレッドの意見に賛成して頷くが、ティモシーはルーファスの意見に賛成した。森に行けないと、レオナールの部屋行きが確定だからである。

 「大丈夫だ。剣も持って来た。それにこの頃警備が強化されて、うさぴょんが怯えて姿を現さない。今日なら見れるかもしれない」
 「………」
 「はい! 見たいです!」
 「……兎より自分の事を考えてくれよ」

 大賛成のティモシーだが、ランフレッドはボソッと呟き、大きなため息を漏らす。ダグは、少し眉をひそめるだけだった。

 「では、行くぞ」
 「はいはい」

 話は決まったとルーファスが歩き出すと、仕方なしにランフレッドは彼の後ろを歩く。ティモシーは意気揚々とダグは緊張気味に後をついて行った。
 四人はバルコニーの下にあるドアから広場に出て、そこから森に繋がる道に進んで行った。
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