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第八章 惑わす声

第八十七話

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 部屋に戻ったランフレッドは、ベットに倒れ込む。

 「はぁ。疲れた」

 気疲れだろう。ランフレッドもまた、本当の事を言えず辛かった。しかも、ティモシーを守れていない。

 「疲れたのなら少し寝たら?」
 「そうするかな」

 そのままランフレッドは目を瞑る。
 ティモシーは、ソファーに腰を下ろし、ボーっとしていた。何か不思議な感じだ。夜にランフレッドがいる。この頃はいなかった。
 スースーと寝息が聞こえて来た。もう寝たようだ。
 暫くしてドアをノックする音で、ティモシーはハッとして目を覚ます。うつらうつらとしていたようだ。
 寝ているランフレッドを起こさない様に、そっとドアを開けた。そこには見たことがない三十代ぐらいの男性が立っていた。わかるのは、兵士だという事ぐらいだ。
 少し紺っぽいグレーの短い髪に鋭い灰色の瞳。

 「ランフレッドはいるか? 時間になっても来ないから呼びに来たのだが……」
 「あ、そうなんだ。ちょっと待っててください」

 慌ててティモシーは、ランフレッドをゆすり起こす。

 「ランフレッド起きて! 交代みたいだよ」
 「うーん……」

 ハッとして、ガバッとランフレッドは体を起こす。

 「どうせ後、二時間ぐらいだ。俺がそのまま……」
 「いえ! 行きます! すみません。ホルファンスさん。ありがとうございました」

 ランフレッドは、慌てて部屋を出て行った。

 「慌ただしい奴だ」

 いつの間にか部屋の中に入り、腕と足を組んでホルファンスは壁に寄りかかっていた。
 ティモシーがジッと見るも、彼は部屋を出て行こうとしない。

 「何か用事でも?」
 「……彼は、君の前ではどんな感じ?」
 「え?」

 突然、突拍子もない質問にティモシーは驚く。

 (何を聞きだしたいんだ?)

 ティモシーは警戒して、ジッと彼を見た。

 「あぁ、そっか。俺はランフレッドが休憩中にルーファスの王子の護衛に当たっている一人のホルファンスと言う。宜しくな。しかしあいつもいいご身分だな。君、確か今年入った薬師だったよな?」
 「そうだけど……」

 何となく嫌な奴だと、少しムッとしてティモシーは答える。
 ホルファンスは、ソファーに座ったティモシーに近づいて来る。

 「デートは楽しかったか?」
 「デート?」

 ティモシーはそこでやっと、ホルファンスが自分の事を女だと思って会話を進めている事に気が付いた。仕事中にデートをしていたと言いたいのだと。

 「違う。俺の親が来たから……」
 「ふーん。一生を王子に捧げるみたいな事言っておきながら」

 そんな誓いを立てていたのかとティモシーは驚くが、一先ず置いておく。

 「何か誤解をしているようだけど、俺は……」
 「おい! あんたそこで何やってる!」

 ティモシーの言葉に被るように、ドアの方から大きな声が掛けられた。見ればダグが、ホルファンスを睨み付けている。

 「……いや別に。ご挨拶を」

 ホルファンスは、そう言うとダグがいるドアに向かう。

 「お邪魔しました」

 彼はそう言って、部屋を出て行く。ダグは慌ててドアを閉めた。

 「大丈夫か? ティモシー、言っただろう。ランフレッドさん以外の人にはドアを開けるなって。ドアが開いていて、中覗いて驚いた……」
 「あぁ……」

 そう言えば言われていたと思うも、ランフレッドに用事があり訪ねて来た。ただ、帰らずに勝手に入って来ただけだ。

 「あぁって、お前……」

 ダグが勘違いしていると、ティモシーもわかり一応言い訳をする。

 「いや、あの人はランフレッドさんを呼びに来た人。何か知らないけど、ランフレッドさんの事気に入らないみたいで……」
 「そうなのか? まあ、あの人も王子の護衛に付くのには若すぎるからな。よく思わない奴いるだろうけど……。取りあえず、気を付けろよ」

 ティモシーは頷いておく。しかし、気を付けろと言われてもと思うのであった。

 「ちゃんと戸締りして寝ろよ」
 「うん。わかった」

 ダグは、心配そうにしながらも部屋に戻って行った。
 結局いつもと同じ夜。

 「静かだな……。寝ようっと」

 ティモシーは、ベットに潜り込んだ――。
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