皇国聖騎士♂うっかり宵闇の邪姫♀として世直し調停?〜幻影魔術で和平?〜

結城里音

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第一章 分身体

第4話 外れ魔術と分身体

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皇国こうこくを窮地まで貶めることになった魔術災害は、多くの魔道士によって制圧されることとなった。それ以来、皇国に設立されたのが魔術院まじゅついんで、同じく魔術強国でもある隣国セランディアの協力のもと設立された組織は、魔術を管理することになる。
免許登録制を用い、むやみに使わないこと、使う際は場所を限定することなど、主要なことを取り決めることとなっていた。そして、使える者はむやみに使えることを言いふらさないことが約束されることになった。

『......ハズレ魔術だから、言っても良いような気もするが......』

とっぷりと夜が更けた寝室で、ぼんやりと見慣れた天井を眺めながら手を向け、マナを手に集めていくとぼんやりと光を放つ。そのマナの光は見えるものと見えないものが存在し、それが普通でもあった。
最初こそ、ぼんやりと使える程度だったが、もともと持ち合わせているマナ量が多いレビンは、次第に使える魔術も増えていく。ただ、その膨大なマナは人によって特性が現れていた。
エリスであれば体術をサポートするもの、セリアは生まれながらにして魔術とは無縁。そして、レヴィンが唯一使えるようになったのが幻影魔術げんえいまじゅつだった。規定にのっとって魔術院に登録こそしたものの、使いみちはない。と免許の概要欄にまで書かれてしまう。

『まぁ、聖騎士せいきしとして、することもあるからな~』
『なにも、魔術にけなくても......』

聖騎士として、すでに安泰なレヴィンが今更、魔術を極めた所で騎士団として使える場所など限られている。得に使いみちがないと言われてしまった魔術など、無用の長物だった。さりとて、実際にあるのだから使わない手はない。
ベッドに体を預けると、その視線の先には皇国随一の繁華街、エスカテリアが存在する。煌々と夜の街を照らし出す繁華街は、活気を表す象徴でもあったが良い話題ばかりではなく、悪の温床でもあった。

「うーん。日中ならまだいいが、夜に俺が出歩くのもなぁ......」
『聖騎士が夜の街で豪遊!』
『なんて、洒落にならん』

聖騎士の地位を地に落としたいのなら、なりふり構わず行って調査をするというのもあるものの、その地位を手放すわけにはいかない。第一、聖騎士としての仕事もある。

「幻影魔術......」
「使ってみるか?」
「どんなことができるんだ?」
「どうせ外れだし......」

外れと言われるには、それなりの理由がある。レヴィンのように使いみちがそもそもないものや、使っても影響が少ないもの。使うのには膨大なマナを必要として、そもそも発動できないものなど多くの魔術がある。
 幻影魔術がその際たるもので、分身を作ったとてすぐに消滅してしまっては意味がなく、本体の変わりにもならない。そもそもの発動条件となる膨大なマナ保有量が必要で、それらを操作するマナすら必要になる。

「ま、できるんじゃない?」

元々が生まれながらにして魔術を発動させるためのマナを認知できる目を持っていたレヴィンは、それがもとで騎士団の団長となり、聖騎士として今の地位を手に入れたと言っても過言ではなかった。
虚空に手を伸ばしてぼんやりとイメージを広げていく。最初こそ、小さい傀儡くぐつのような人形を作ってみては、踊らせてみて楽しむ。

「なんだ。できるじゃないか!」
「この程度の人形なら......」
「......うーん」
『......デカくしてみるか......』

それは、単純な興味。
そんな興味に裏打ちされたレヴィンのひまを埋めるようにして、趣味のようにして人形の大きさをデカくしていく。それこそ、もうひとりの分身を作り出すように。

『うーん。どうせならセリアのような女性の体を......』

脳裏でイメージしたように、目の前の粘土人形が姿を変える。ただ、セリアをイメージしたこともあり、服も何も着ていない状態が現れてしまう。

「お、俺は何を考えてんだ‼」

慌てて想像したものをなかったことにして、思考を整えていく。

「うーん。どうせなら、俺を女性化したみたいなイメージで......」
「胸は大きく、黒髪赤目で......」

そうして印象を固めていくうちに、レヴィンを反転させたような女性体の分身が生成されていく。そして、セリアの所で感じた裸体だとまずいため、インナーやドレスといった最低限の衣装も生成させて着せさせることに成功する。
穏やかな月明かりが寝室に差し込むほどに、きめ細やかな肌が照らし出され、妖艶さすら醸し出されていた。レヴィンと同じ高身長で、白髪短髪を反転させた黒髪長髪の長い髪は、腰に届くほど。

「ん。なかなかだな!」

均整の取れた美しい体を、踊り子のようなスリットが入った大胆なドレスに身を包み、ツンと上を向く形の良い胸におしり。レヴィンの女版と言ってもいい出来だった。簡易的な人格魔術じんかくまじゅつを構成して、体を動かすための性格として作り上げていく。

「んんぅ......」
「どうだ? 体の具合は......」

簡易的な人格のもとに動きを始める分身体は、すでにもうひとりの女性としての活動を始めていく。どうやら、レヴィンからのマナを受け取って活動しているような状態だった。

「良いわね。マナの流れも伝わってくるわ」
「それに、十分なマナを保有しているから、しばらく供給されなくても維持できるわね」
「そうか、なら。良かった」

与えられた体を確認するように、屈伸や軽い体操をしてみせる。しなやかな動きは、まさにひとりの女性そのもので、人形から作ったとは思えないほどに精巧な姿になっていた。

「いいわね。で、なんて言う名前にするの?」
「名前?」

不意にどんな名前にするのかと聞かれて、戸惑ってしまうレヴィン。その様子に鋭く突っ込む分身体の人格。

「名前?って、考えてないの?」
「名前かぁ......」
「もぅ......」

腰に手を突いて悪態を付くようなふてぶてしさは、どこか図太さを彷彿とさせるものの、よくよく考えを巡らせると、レヴィンも同じような時期があった。

『......昔の俺って、こんな風に見えてたのか......』
『まぁ、女の姿だけましか......』

ブツブツとかつてのことを考えながらも、分身体の名前を考えていく。あれこれと考えていくうちに、ひとつの名前にたどり着く。

「決まった?」

月明かりが差し込む寝室で、どこかふてぶてしさを醸し出す、分身体の様子を眺めているレヴィンは、その澄んだ赤色の瞳に吸い込まれそうなほどにしっとりと潤んでいた。その姿に重ねて、ぼそっと名をつける。

「それじゃぁ、シェルヴィだな」
「シェルヴィ?」

戸惑った様子で考え込んでいるものの、考え込みながらも認識しているようだった。

「あぁ、シェルヴィ・アルスト。それが、これからの名前だ」
『シルヴィとも似てるし、まぁ。いいか......気に入ったようだし......』

シェルヴィの名前をしっかりと認証するようにして、うっすらと瞳が光を放つと分身体として、シェルヴィとしての活動を始めることになったのだったひとりの女性。シェルヴィとして行動が始まっていった。
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