呪縛の聖騎士、戻るために『女』として奮闘す?!

結城里音

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第7話 魔盗と第4王女は試したい。

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あらすじ
 魔族領ドラクシオンには、魔王の娘4人がそれぞれ実権を握っている。ムードメーカーで防衛と一本槍を勤める、好戦的な三女、イレイナス。知的で空軍大将を務める眼鏡を愛用するマクスウェル。そして、妹想いの優しいお姉さんでありながらも陸軍総大将のセレフィナと、そうそうたる姉妹たちだった。
 そして、ムードメーカーであり楽しい物好きな四女。グリエリは皇国に脚を運んでいた。どうやら父であり魔王であり国王のマルケスの話しを盗み聞きしたことで、ラントに興味が芽生えたようだった。


***


 皇国内の街道。
 立派な石畳が敷き詰められて、周囲を商店が立ち並び活気に溢れているものの、ある一角だけは、人々の往来がパタリと止まっていた。まるで、そこだけ別空間のようにも思えるほどだったものの、街道には住人たちが観客のように集まっていた。
 “なんだなんだ”と見世物よろしく、あとを追うようにしてひとが集まってくる。その様子は、さながら闘技場かのようにも思えるが、その中心にいたラントはまったくその気がなかった。

『はぁぁ、どうしてこうも魔族は戦いたがるんだ......』
『オレだって、戦いたいわけじゃないんだけどなぁ......』
『防具や服も新調したばかりだし......』

 少し前から、チラチラとラントを目撃しては襲われた風を装ってみたり、わざと目の前で、魔族の盗賊。魔盗に追いかけられている風を演じたりと、実にしつこかった。しかも、その襲われている本人と襲う相手には決定的に“足りないもの”があった。
 通常、魔盗が商人などを襲う場合、それなりには敵意やなにかの見返りを期待して、行動をとるのが当たり前。しかし、ラントが相手をした3人はまったくそういう類がなかった。それはつまり、思いっきり“演じている”ことがバレバレだ。

「なぁ、譲ちゃんがラントなんだろ?」
「俺らと遊んでくれねぇか?」
「あなたの腕をみたいの。強いんでしょ? ねぇねぇ♪」

 キラキラと宝石のように輝く金色の髪を短く纏め、男たちはもとよりひと一倍“楽しそう”という感情がダダ漏れで、ラントをみやる。翡翠色の無邪気な様子はまるで子供そのものだが、内《うち》に秘めた魔力が膨大なのか漏れ出てしまっていた。

「うーん」
『この男たちふたりはともかくとして、彼女。すごい魔力だなぁ......』
『王族か? でも、こんな所に来るわけないし......?』
『ますます分からない......何をしたいんだ? そんな魔力持ってて......』

 いくらラントが女体化したとはいえ、その権限は皇国の聖騎士と同じだ。技術もそれなりに長《た》けてはいるものの、魔族を相手にすることなど平和になった最近ではまずありえない。
 かつての大戦の後に、負傷して捕虜になった双方の人種もそれぞれの領地にしっかりと返還され。どちらも痛み分けという形で国交を樹立することになり、今は復興真っ最中のはずだ。

『なぜここに?』
『もしも、それなりの貴族のお嬢さんだとしてだ、領地の復興があるだろうに...』

 考えを巡らせるラントの様子にしびれを切らした取り巻きの男達は、返事すら返さずに考え込み続けるすがたに、これみよがしに拳を振り上げる。

『ふんっ。どうせ、姉御が買いかぶってるだけだ』
『こんな、ひょろっちい譲ちゃんが俺たちより強えわけが......』
『ねぇっ!』

 ぶんっ!と空気を震わせるようにしてラントへと向けられた拳は、それまで考え込むだけで身動きひとつしなかった顔へと向けられる。

『何も、本気で殴るわけじゃねぇ。それに、腕がいいなら避けるなり止めるだろ?』

 相棒も同じように考えていたようで、繰り出された拳を止めようともしない。しかし、その拳が飛んでいったのは、相棒の方で......

「へっ......?」
「へっ?」

“ぶほっ”

「あ......」

 ゆっくりと相棒の頬に繰り出された拳が直撃する。
 すると、みごとな具合に吹き飛び、数メートルは軽く飛んでしまった。

「あ、あれっ?」
「おめぇ。俺に不満でもあんのか!」
「いや、ちげぇよ。俺は、アイツを殴ったはずだ!」
「いや、俺にあたってるだろ!」
「そうだけどよ!」
『あ、あれ? おかしい!』

 一方のラントはというと、相変わらず考えごとをしている。しかも腕を組んだままで。男たちは、また凝りずにラントに拳を振るうものの、やはりその拳は相棒へと向かう。

“ぶんっ!”
“ぐはっ!”

「だからぁ、なんでおめえは俺を殴るんだよ!」
「だから、ちげぇんだって!! 俺は、こいつを......」
「......お、お前。それって......」

 何度かやりとりをして気がついた男たち。見合うようにして続いた攻撃が交わされた上に仲間に飛ぶ不思議な状況に、全てがラントがしたであろう状況だった。しかも、それらをしっかり認識している子もいた。

『......驚いた』
『うちの子分たちは、気がついてないけど...当然』
『早すぎる......』

 取り巻きの男たちがラントの相手をしている間、その様子を見守る少女は小刻みに震えていた。しかし、その表情は“恐れ”と言うよりも、別の感情が渦巻いていた。

『ほんとうに人なの? 魔族側の人間じゃないの?』
『子分、相当強いはず。だって、うちの部隊のトップ2だよ?!』
『それを、こんなにあっさり、手駒に取るなんて......』

 目の当たりにした強さを目にしたことで、胸の奥が締め付けられる。しかも、手玉に取った子分は息が上がっているのにも関わらず、当の本人はまったくその様子すらなく涼しい子をしている。
 その圧倒的なまでの強者感と同時に美しい佇まいは、強い姉に憧れた幼い頃を呼び起こさせながらも、胸が躍ってしまった。そこがたとえかつての敵国であり人間の皇国だとしても関係なかった。

『こ、これは......』
『面白くなってきたぁぁぁ!!』

 グリエリ・ヴァルドレイ。19歳...
 金色の髪と翡翠色の瞳をもち、姉たちには負けないほどの見事でしなやかな体を持ちながらも、156cmと小柄な第4王女は“強い相手が大好き”だった。

『なにか、目を輝かせてるし......』
『オレ。戦いたく無いんだけどなぁ......』
『でも、この状況。断れる状況じゃないし......』
「はぁぁぁ......」

 基本的に体の大小《だいしょう》に関してはまったく関係がなかった。純粋な体術に長《た》けていたラントは、取り巻きの男たちの“力”を利用しただけに過ぎなかった。もちろん、女体化したことで男のときより力は無くなった。
 しかし、それらを補ってあまりあるほどの、柔軟な体を手にしていた。屈強な男の体では得ることのできない、ムチのようにしなやかで時に武器としても活躍する体は、魔法に頼らずとも男を手玉に取ることなど造作もない。ただ......

「まったく、おちおち考えこともできない。セリアは下がってていいから」
「はーい。ラントご指名だからね~」
「あぁ。そうみたいだし......」
『一応、使っておくかな? “身体強化、部分展開”』

 セリアはラントの力を十二分《じゅうにぶん》に知っているようで、少しだけ離れると目をつぶるほどに余裕を見せている。女体化する前からの付き合いなら、これくらいは余裕だろうと高をくくっているようにも見える。

『平気よ。ラントのことだし......』
『......そんなこと、思ってるんだろうなぁ......セリアのことだから......』
『ま、実際。余裕だけど......』

 前に進み出たラントの前には、魔族らしく見上げるほどの巨体が並び立つ。その様子はまさに壁のようだ。女体化して縮んだとはいえ、セリアよりは背は高く、恩師のガルドよりは背が小さい。

『ガルドさんもデカいからなぁ......ガルドさんくらい?』
『あのひと、2メートルは無いって言ってたからなぁ......それくらい?』

 筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》を地で行くような、浮き立つ筋張った筋肉と発達した手足は、簡単な石壁なら穴を明けてしまうのではと思うほど。丸太のように太く、そして堅牢だ。
 なまじ捕まれば、いともあっさり倒されてしまいそうなほどの強さと気迫を感じる。一方で相方も同じで、バシバシと平手と拳をぶつけ合って気合いを入れるかのように凄んでみせる。

「俺らをガッカリさせんじゃねぇぞ?」
「そうだ。そんな華奢な体と腕っぷしで、俺らに勝てると思ってんのか?」

 そんなふたりが腕組をすれば、更に迫力が増す。さながら腕と太ももが同じ太さナノではないかと思うほどに太く、着ている服が張り裂けそうなほどだ。
 しかし、向かい合っているラントはというと、ふたりの気迫に押されるどころか、むしろその見た目通りの仕草を見せる。

「さて、どうでしょう? お手合わせ。してくれますか?」

 その優雅で誇らしく、岩のように大きな男ふたりに迫られても、まったく持って怯む様子のなさは、“胆力”の二文字《ふたもじ》では足りないほどの余裕を放っていた。

“ピキッ!”
“ブチッ!!”

 そなあまりのエレガントで、強さをわかっていないようにも見えるラントの仕草に、さすがに腹が立ったようで、その堪忍袋の尾《かんにんぶくろのお》が切れた様子だった。

「はぁぁぁん。いい度胸じゃねぇか!」
「泣いて謝っても、許してやらねぇからな! 覚悟しろ!!」

 雄叫びのようにも聞こえる男ふたりの声を耳にしてもなお、ラントの素振りはまったくブレなかった。


***


 広まる歓声、踊る声に街道が賑わうほどに、さながら闘技場のような高揚した光景が広がる。大岩がふたつ並んだような巨体の男ふたりと、どこかのご令嬢が防具を新調したばかりにも見えるラントでは、まったく歯が立たないように見える。
 しかし、その素振りには怯える様子も、臆する様子すらなく。むしろ堂々とした佇まいで、その身なりから優雅さすら感じる。

「ラント! やっちまいな!」
「そんな、図体だけが取り柄みたいなやつ。とっととぶっ倒してやんな!」
『ちょっと、けしかけないでくださいよ......まったく......』
『ほら、怒ってるじゃないですか......』

 にらみ合いが続きながらも、居合わせた住人たちはラントの強さをそれなりに知っているため、絶妙なヤジが飛ぶ。そして、男たちも言われれば腹が立つわけで、ただでさえ苛立ちを隠せない中でのヤジを浴びる。

「うっせぇ! 外野は黙ってろ!!」

 その凄みで、先程までのヤジはパタりと止まってしまうほどだ。

『ほら、怒ってる......』
『......まぁ、そのほうが都合が良いんだけど......』

 男たちの周囲への威圧もあり、一点して静かになるとラントと男たち間を静かで緊迫した空気が流れる。

「どうした? 来ねぇのか?」
「それじゃぁ、こっちから行くぞ?」
「えぇ、どうぞ......」

 貴族の令嬢のように、恭しく頭《こうべ》を垂れたその時、間髪を入れずに男の拳がラントに向かって振り下ろされる。丸太のような腕が、ブンッ!と音を立てるような速さで振り下ろされるのだから、命中したとしても止まることできるはずもなくそのまま街道に大穴をあけてしまう。
 巨人が踏み抜いたような跡は、厚い石畳のブロックが数枚めくれるほどの破壊力だった。

「ははっ。まったく、最初からそんなに本気を出してどうすんだ」
「影も形もなくなるんじゃねぇか?」
「......あ、あぁ。そうだな。その通りだ......」
「おいおい、そんなにあっさり倒しちまっていいのかよ?」
「こりゃ、拍子抜けだな! ははっ!」

 渇いた笑みと共に、腰に手をあてて高笑いをする。しかし、叩きつけた方はそれどころではなかった。

「どうしたんだよ? 手でも抜けなくなったのか?」
「お前、強く叩きすぎだ。手がめり込んで......」

 相方がその手元を見た時だった。確かにホコリが舞ってしまい、薄っすらとしか見えないものの、石畳に拳がめり込んではいる。しかし、それを眺めているのが“もうひとり”いた。

「......もぅ、いくら強いからって、街道に穴を明けないでくださいよ......」
「直すのも、一苦労なんだから......」

 土埃が晴れてようやくはっきりと認識するラントの姿は、地面に刺さった男の拳をしゃがみこんで眺めていたのだ。

『ま、間違いねぇ。俺、この拳であてたはずだ! なのに、なんでそこに居る......!』

 しかも、男たちが驚くのも無理はなく、まるで最初からそこにいたかのように、ラントの服には一切乱れた様子が“なかった”のだから。
 ばこっと音を立てながらも拳を引き抜いた男は、一様に驚きながらも知らず存ぜぬで佇むその姿に、呆気に取られる。

「や、やべぇやつか? これ......」
「な、なにビビってんだよ。相手は人間だ。俺ら魔族より弱い奴らだ」
「多少、腕が立つからってまぐれだよ。まぐれ......」
「そ、そうだよな?」

 男たちがヒソヒソ話をする間も、屈伸をしたりなど攻撃をする素振りもない。

『もぅ、わかってくれないかなぁ......』
『せっかく用意してくれた防具に、傷を付けたくないんだけど......』

 ラントにとっては、どちらも恩師だ。
 一癖二癖もあるガルドとエルダ。そんなふたりが用意してくれたり、手助けしてくれたものを、無下にはしたくない。それに、基本的に戦うのは嫌いだった。しかし、腕に自身がある者ほど、ラントに向かってくる。

「ふふっ......」
『ラント、前にも似たようなことがあったわね...』
『今みたいに女の子になる前だったけど......』
「あっ! セリア。笑ってる!」
「ふふふっ。ごめん、前もあったなぁって」

 聖騎士団に入ろうとする者は地方からでも訪れる。むしろ腕っぷしが強いほど、より強いものになろうと、目指してくる。その度、ラントの練習相手になる。ただ、ほぼ全てを返り討ちにし、唯一残ったのが今の仲間。セリアとエリスのふたりだけだった。

「ラント、基本。優しいから、自分から手を出さないもの...」
「ほら、やらないと終わらないわよ?」
「えぇぇぇっ......だって、この防具。壊したくないんだけど......」
「子供かっ! ほら、早く! それに...壊れたら、直してもらえばいいでしょ?」
「そうだけど......はぁ」

 驚きに考えを巡らせる男たちをしりめに、まったくと言っていいほどに戦う気のないラント。上質な革製の一式防具はそれなりの代物で、だからこそ下手に動けば用意に壊れそうで戦いたくない。

「はぁぁ......」
『しかたない、受けるのは絶対だめだ...』
『やっぱり、あれか? スカートなんだけどなぁ......』

 仕方なく、男ふたりを相手にすることになるラント。ふっ、と一度力を抜いた後で気合いを入れると、気の抜けたような姿がから一気に緊迫した佇まいへと変わる。

「おぉっ? ようやくやる気になったのか?」
「えぇ、ちっともやめてくれそうにないので......」
『オレは戦いたいわけじゃないのに......』

 ムスッと頬を膨らませつつも、視線を反らせるラント。
 姑息にもその隙《す》きを狙っていたようで、同じように拳を繰り出す。

「こんな状況で......」
「視線をそらすなんてな!」
『こいつは、バカだ......!!』

 そうして降り出した瞬間、傍観していたふたりは同じ感想を持つことになった。

『バカね......』
『バカだ......』
『......誘われてるのに気づいてない』
『誘ってるのよ。ラントは......』

 人族と魔族と種族こそ別れているとはいえ、根本的な所は似ている。特に、弱点とも呼べる急所は人魔共通だ。特に“頭部”はその代表格だった。

“ぶんっ!!”

「おっ!」
『あぶなっ、相変わらずすごい勢いだ......』
『破壊力はすごいけど......まぁ、それだけ、だよね~』

 ムチのような体は、その場に倒れ込むようにして後ろにのけぞる。女体化し柔らかくなったからこそできるしなやかさを活かし、ほぼ立っていた場所に近い所に両手を付くと、その反動で両足が地面から離れる。
両足同時ではなく片足ずつだったものの、それが見事に蹴り上げを生む。男にとってはあまりに一瞬の刹那だったため、近づく脚に反応が追いつかない。

「は? 何が起こってる......俺の拳が交わされた? というかどこに......」
「って!?」
『脚がくる! やべぇ!! 交わせねぇ』

 その瞬間、男の目に留まるのはやはりあの場所だった。
 そして、その直後には、見事な蹴り上げを受けてしまった......。

“ガスッ!!”

「ぐふっ!!」

 ガクッと崩れ落ちるようにして、その場に座り込んでしまう。

「ちょっ!! 大丈夫か!?」
「あ、あぁ...」
「こいつ。......し、シロだ」
「し、シロって......」

 その言葉が、むしろもうひとりの男をややこしい思考に導いた。

『シロってことは、こいつ。今まで手を抜いてたってことか?』
『まて、なら。俺がアイツを殴ってた理由がわかる。俺、知らぬ間に......』

 そこまで思考が回ったときだった。それまで前にいたはずのラントが“いなかった”。慌てて周囲を見回すものの、完全に見失った。

「ど、どこだ! どこに居る......!」
「あ、姉御! ヤツは......」

 慌てて振り返って見るものの、その様子は完全にあきれていた。

「お前......」
「あ、姉御...ヤツは......」
「下だ、した」
「へっ?」

 改めて言われて視線を下げた所に、ようやく見つけたものの時すでに遅く、ニマッと愛らしい笑みを見たのが、男の最後だった......。

「あ......」
「ふふーん。えいっ!」

“ぴんっ!!”

「ふごっ!!」

 踏ん張っていながらも、相手を見失い無防備になっている男の懐《ふところ》に入っては、何もすることができない。まっすぐ差し出された拳からは、指を弾くようにしてピンッ!と鋭い刺激が急所を射抜く事になった。
 飛び跳ねるような反応と共に、その場に崩れ落ちてしまった男は、泡を吹いてしまった。

“どさっ!!”

 くるくるとラントを探していた男の動きに合わせて、視線から外れて動いていたことでふたりを従えていた小さい子の前まで進むことができていた。

「っと......」

 すっと立ち上がったその後ろには、男たちが卒倒している。その様子が強さを表していた。

『い、一体なにもの? 姉様たちの取り巻きよりは弱い、とは思うけど...』
『魔族の兵士なのよ? そんな男をふたりも......』
『しかも、涼しい顔。してる......』

 にじり寄る強者の姿に、縮こまってしまうものの。その実......

『......最高♪』

 期待しかしていなかった。

「もう、引いてくれるかな? えっと......」
「グリエリよ。人族に名乗るのなんて、初めてだけど......」
「強いあなたになら、明かしてあげる。これにも耐えられるかしら......?」
『グリエリ......? うーん。どっかで......』

 前かがみになりながらも首を傾げていた間に、目の前の彼女が禍々しいオーラを放ち始める。あまりの禍々しさに、魔力で動く街灯の光を放つ魔球《まきゅう》がバチバチと弾け始める。

「......えっ。なに、魔力? しかも、こんな膨大な......」
「驚いたわね。私の魔力にも耐えれるなんて、こんなヤツが人族の中にいるなんて」
「最高じゃない!! あははは!」

 高笑いをしながらも、更に濃厚な魔力を溢れさせる。それらは軽い災害レベルで、住人たちが耐えられるはずもない。

「ラント!! 早く、その子どうにかして!! みんなが耐えられない!!」
「あぁ! 頼むから抑えてくれ! ここには、魔力に耐性がない人が多いんだ!」

 ラントと男たちのやり取りに興奮した住人たちが大勢あつまり、さながら闘技場の様相を呈していた場所が、一気に窮地に陥る。耐えきれない者は倒れ込み、はたまた物陰に隠れるものまで現れる。まともに受けたら発狂しそうなほどの密度だ。
 しかし、ラントの強さに高揚してしまった少女は、目の前のことしか見えていないため何を言おうと止まりそうにない...。

「あははは。この程度の魔力で倒れるのに、どうしてあなたは立ってられるの?」
「そっちの女も大概だけど、あなたは例外! どんな強さなの?!」
『あぁぁ、たまんない!! これだから、人族の街は好きなのよ』
『たまに、こんなに強いやつがいるんだから♪』

 金色の髪が更に光り輝き、魔力が桁違いなことを印象づける。翡翠色の瞳も妖《あや》しく光だし、その強さを彷彿とさせるほどだ。

「くっ!」
『た、たしかに強いが......』
『思い出した! グリエリって......』
『......ドラクシオン第4王女か! どうしてこんな所にいるんだ!!』

 いくら魔力に耐性があるラントだとしても、その流れには抗い難い。それでも、踏ん張ればなんとか前に進める。その力を試すように溢れさせる彼女をなんとか止めないことには、街やひとがただならない状況になる。

『......仕方ない!!』

 目の前のことに夢中になっている彼女を切り替えるのには、それしか思いつかなかった。

「......いい加減、止めてくれっ!!」

 手を伸ばして少女の手を掴むと。ぐいっと抱き寄せて囁《ささや》く......。

「...良いから、止めろ!」

 それは命令にも似た言葉。それが、彼女の鼓膜を震わせるほどに、抱きかかえられている状態と合わさり、ピキッと電流が流れてしまった。

“ぽしゅっ”

 そして、次の瞬間。膨大に溢れていた魔力の流れが止まり。街道に静寂がもどる。

「......と、とまった?」
「なんだ、あの譲ちゃん。なにもんだ?」
「まさか、魔族か? どうして魔族がこんなところに居るんだ!」
「そうだそうだ!! 魔族は入国できないはずだろ! どうなってんだ!」

 先程までの歓声とはかわり、怒号へと変わってしまう。その様子にセリアも対応するものの、後手にまわる。

「静かにして......くれないか?」
「っっ!! うっ...」

 中心にいたラント言葉ひとつで、飛び交う怒号は一気に尻窄みになる。

「この子も、オレを試してたようなんだ。だから...」
「矛《ほこ》を収めてくれないか? 頼みます」

 ぴしっと群衆に向けて頭《こうべ》を垂れる様子は誠実にうつり、若干のヤジは飛ぶものの、一気に静かになる。

「だ、だってよ? ここは人族の国だろ? どうしているんだ......」
「それなんだけど、この子、どうやら人間が好きらしいんだよ。な?」
「......うぅっ」

 それまで膨大な魔力を放ち、イキイキしていたグリエリだったが、すっかり魅了されてしまい、シュンっと肩を落としている。

「......う、うん。だから、人間に化けてた」

 その素直な告白も、住人たちからすればたまったもんじゃない。

「はぁ? 俺らを騙してたのか!」

 慌てて仲介に入ることで、事なきを得るものの。こうなってしまっては第4王女だろうと関係ない、ただの魔族の少女になってしまう。

「まぁまぁ。それだって、ひとに興味を持ってくれたってことでしょ?」
「そ、そりゃまぁ......」
「おじさんだって、商品が売れるなら魔族にだって売りたいでしょ?」
「それは、まぁ。ったく、ラントの魔族好きも極まったなぁ。たしかにそうだよ」
「売れるのに越したことはねぇからな。ったく......」

 誰も好き好んで争いたいやつなどいない。まぁ、一部を除いてだが。それでも、ラントは争いはしたくない。

『もぅ、あんな辛いことは嫌だからな...』
『辛い思いをするのは、オレだけでいい......』

 人と魔族。どちらにも意見があるのは知ってる。知ってるからこそ、争いたくない。

「随分丸くなったわね? ラント......」
「前は、言い争いまで嫌ってたじゃない......」

 ニマッと笑みをこぼしながらも、ラントにすり寄るセリア。彼女にも頭が上がらない。

「う、うるせぇ。あの時から育ったんだよ。オレだって...」
「ふふっ。そういうことにしてあげるわ」

 事態がまとまったこともあり、群衆は自然と解散するような形で、いつもの喧騒が戻ってくる。街道で伸びた大男も、住人総出で抱えられて道の脇に寄せられる。ラントたちも少女を連れて街道脇に寄るものの、男があけた大穴はそのままのため、馬車はそれを避けるしかなかった。

「まったく、これ。どうするんだ?」
「まぁ、補修任務が出るだろうし、魔球《まきゅう》も変えないといけないもの」
「そうだな」

 電気の代わりに発達した、魔力を動力源に光を放つ鉱石で作られた街灯。それらは微細な魔力によって外の光の強さに応じて、光るようになっていたものの、彼女の膨大な魔力でほとんどが弾けてしまった。

「これから、どうするんだ?」

 そう考えていたラントの背中を、ぎゅっと抱きしめたグリエリ。

「んんぅ? どうした? 君なら、しっかりとドラクシオンに帰して......」

 いくらしでかしたこととは言え、彼女の好奇心がそうさせただけで成長すればどうとでもなる。なら、勾留するよりなら帰したほうがいい。しかし、その腕は離れなかった。

「......結婚して! 私のお姉さまになって!!」
「......ん? んんんんっ?!」

 グリエリの唐突な告白と、居合わせたセリアは吹き出すようにお腹を抱えて笑ってしまった。

「ぶふっ! あはははは!」
「わ、笑い事じゃない! セリア」
「だって。ラント、相当気に入られたのね」
「そう言っても、相手は......」
『ドラクシオンの第4王女だよ? そんな簡単に......』

 背中に抱きついていたグリエリと向かい合うようにするも、腰に手を回したその細い腕は離すことはなく、抱きついたままだ。

「結婚していただけるまで、離しません!」
「はぁぁ?!」
「あははは!」
「だから、笑い事じゃないって! もぉっ!!」

 すっかり参ってしまったラントは、未だに離そうとはしないグリエリに戸惑いながら、がっくりと肩を落としてしまったのだった。
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精霊に「やれ」と言えば動く。この世界の全員がそう信じている。 レイドだけが違った。範囲を絞り、条件を決め、段階的に聞く。それだけで最弱の蛇は誰より正確に答える。——誰にも理解されず、追放された。 たどり着いた鉱山町で、国が雇った上位精霊が鉱脈探査に失敗し続けていた。高性能の鷹が毎回違う答えを返す。 原因は鷹じゃない。聞き方だ。 レイドは蛇一体で名乗り出る。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

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高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

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