呪縛の聖騎士、戻るために『女』として奮闘す?!

結城里音

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第25話(2章13話)女神の採択と神託者《託されしもの》の存在・Ⅲ

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 マリネシアの広域浄化から半日。住人たちの白潮病《はくしびょう》はすっかり良くなり、聖女たちが控えているキャンプには、多くの人が集まっていた。その手には、周辺で摂《と》れた作物や、それらで作られた食べ物を抱えきれないほどに持ち、集まっていた。
 シエラー教の枢機卿《すうききょう》ヴェルミアが相手をするとはいえ、詰めかけた人々の相手をするのに一苦労するほどだった。

「ヴェルミアさま。聖女様がおやすみなことは分かっておりますが……」
「我が家で採れた作物です。どうかお納めください」
「ありがとうございます。アレスティナさま!」
「あ、あぁ。伝えておく」

 アレスティナに感謝の言葉を残す住人は後を絶たず、中でも対の女神でもあるラントにも感謝の声が集まり、その尊顔を仰ぎたいといい始める人までいる始末。しかし、そのラントは今。相手をできるはずもなく……仕方なく……

「ら、ラント様は、今。お休みなんだ……」
「あれほど、膨大な力を使われたからな」

 ラントにお目通りを願いたい人も、さすがに(はい。そうですか)と引き下がる訳にもいかず、さりとて疲れているのを無理にというのもわかる。それでも、あの美しい姿が目に焼きついてしまった人にとっては、すこしだけでも会いたいというものだ。

「少しだけで良いのです。あの美しいお姿を……ひと目だけ」
「だ、だからなぁ……」
「そこをなんとか。できませんか? マリヴェイラ様を通して……」
「そう言われてもだな……」

 グイグイと詰め寄られてしまい、タジタジになってしまうヴェルミア。

「ラント様は、おやすみ中なのです。皆様……」

 その声に、集まっていた人々がどよめく。疲れていると言われていた聖女、アレスティナが顔を出していた。恭しく、訪れた人に頭を下げると、騒々しい場の空気が一気に静けさを増す。

「アレスティナ! どうして……出てきては……」
「いいの。みんなが会いたがっているんだもの。ごめんなさいね、ラント様は疲れていて、お休みになられているの。だから、ね」

 優しげに話すその様子に、会えないことで興奮していた人たちの熱も一気に冷め、冷静さを取り戻す。膝をついて頭《こうべ》を垂れるものも、現れ始め。それまでの騒々しさが嘘のように静まり返り、感激の声へと変わる。

「ありがとうございます。アレスティナ様…」
「我々は、あなた様とラント様のおかげで、このように生きながらえました」
「感謝してもしきれません。どうか、ラント様にも……」

 守ろうとするヴェルミアの手を押しのけるようにして、前に進み出たアレスティナに、頭《こうべ》を垂れる様子に、しっかりと答えていくアレスティナ。

「えぇ。わかりました。ラント様にお伝えしておきます」
「ありがとうございます! アレスティナ様! そうだな、みんな!」
「はい、はい! ありがとうございました!」

 駆けつけたひとたちに敬われながらも、挨拶をするアレスティナの姿は、ヴェルミアが見ていた怯えていたあの頃の姿とはガラリと変わっていた。その姿は、すっかり聖女として歩き出した姿だった。
 集まった人たちにひとりずつ丁寧に挨拶をする様子は、どこか(ラント)を思わせる仕草が所々に見え隠れしていた。

『まったく、感化されたなぁ……』

 腰に手を当てながら、感慨深く眺めるマリヴェイラ。
 しっかりと集まったひとが納得するまで寄り添うアレスティナは、しっかりと戻っていく人たちが見えなくなるまで見送っていた。

「ふぅっ……」

 落ち着いた様子で胸をなでおろした後、ニヤニヤとした不敵な笑みを見せるマリヴェイラの視線に気がつく。

「んんぅ……なによ……」

 ムスッと頬を膨らませながらも、見上げるようにヴェルミアを眺める。
 その愛らしい様子に笑みを浮かべながら、胸を張る。

「ラントの真似か?」
「っっ! そ、そんなこと。ないわ。私は……」
「まぁ、そういうことにしてやるよ。聖女として、一皮むけたようだし……」
「一皮? 怪我なんて……あっ」
「ふふっ、そういうところは、変わらないな」
「マリヴェイラぁぁ。もぅっ!」
「あはは…」

 その頃。もうひとつのテントでは、ラントが囚われた中で、動きが摂れずに悶々としていた。さりとて、この場所を離れられない事情もあった。そのため、マリヴェイラの語気が鋭くなっていく。

「我々も、兵を動かしたいのです! 我々、レーネ教の聖女様なのです」

 腹立たしさにテーブルに手をついて立ち上がりながら、その腹立たしさを口にする。

「それを、深淵教会が連れ去るなど。もってのほか……」

 眼の前に開いてたマリネシアの区画地図と、並べられた深淵教会手下の手書きの似顔絵をクシャッとつぶしながら拳を握る。
 そんなマリヴェイラの様子を腕を組みながらも、うつむき加減に頭を下げながらも、ぼそっとひと言。

「なら、動かしたらいいだろう? 枢機卿《すうききょう》じゃないか。このあたりにいるのは私兵だろう? 使ったら良いじゃないか」
「くっ……」

 ドラクシオン王女で4女の付き添いのさなかに、ラントと知り合って付き添うことになったイレイナスは、スッと率直な思いを口にする。ただ、そのあまりにまっすぐすぎる言葉に、場の空気は一気に緊張感を増す。
 しかし、すぐに隣りに座るもうひとりの王女。グリエリが場を落ち着かせるために、話し始める。

「姉様、それはマリヴェイラ様も分かってますから……ね?」
「なら、とっとと動かせば良いんだ」
「姉様。言い過ぎです……」
「グリエリ。なら、お前ならどうする?」
「えっ?」
「護衛対象を取られた、そんな失態。お前ならどうする?」
「っっ……」

 何気ない王女たちのやり取りとその口ぶりに、思わず腹が立つマリヴェイラ。しかし、すぐに冷静さを取り戻す。彼女たちのやりとりは、意図的か、もしくはわざとなのか定かではないものの、間接的に俯瞰することができた。

『落ち着け、私……』
『そうだ、慌てて行動してはだめだ。いくらシエラー教の枢機卿がいても、手薄になる。なら、もっと別の方法があるはずだ。何かまだ、見落としていることが……』

 地図を眺め、多くの深淵教会の拠点と思しき場所をいくつか特定した。怪しい動きのある場所、地上だけではなく、地下施設も全て。しかし、どの可能性をとっても(何処かにいる)としか絞ることができなかった。
 さらに、今の状況で下手に兵を動かそうとすれば、このキャンプが手薄になる。手薄になったところを狙うのが定石なら、相手に隙を見せることにつながる。なら、ここから兵を割くこともできなければ、自分たちが動くわけにもいかない。

『なぜなら、ここには他国の王女様……』
『イレイナス様とグリエリ様。それに、ラント様のご友人とお仲間』
「セリア様にエリス様。そして、セリーネもいる。動かせるわけがない……」

 地図を眺めながら頭を悩ませていたマリヴェイラの耳に、この状態を抜けられる声が聞こえてくる。
 イレイナスに言われて考えていたグリエリは、ぼそっと口にする。

「んと……動けないなら、動くかなぁ……」
『えっ?』
「ん? それは、どういうことだ? グリエリ」

 にまっと不敵な笑みを浮かべながらも、ぼそっと口にする。

「グリエリなら、どうする?」
「うん。だって、取り返したいなら。乗り込むべきだよね? 動けない理由があるなら、説得すれば良いんだよ。手伝ってくださいって……」

 その率直なグリエリの様子に、腹を抱えて笑うイレイナス。

「ふふっ、あははははは」
「あぁっ。どうして笑うの。姉様!」
「いや、すまん。あまりに素直な答えだったからな!」
「もぅっ、からかうためだったんですか?」

 ムスッと頬を膨らませながら、腹を立てるグリエリ。そんな表情すら、全く気にすること無く、その頭を撫でる。

「……姉様」
「お前は、だから部下に好かれるんだ。なぁ? マリヴェイラ」
「自分だけで抱えるな。できないなら頼め。ここには、少なくとも王女と聖騎士がいるんだ。ただ守られてるばかりのあたしらじゃない。だろう? そっちも……」

 イレイナスの言葉に合わせる様にして、セリアやエリスが首を縦にふる。そこに、もはや揺らいだ気持ちは無かった。

「はい、そうです! イレイナス様」
「うん! 守られてばかりの聖騎士じゃないからね」
「は、はい。私も、お供します!」
「皆さん……よろしいのですか?」

 困り果てていたマリヴェイラの目に映ったのは、もう。決意を固めた5人の姿で、目頭が熱くなっていく。

「あぁ、私達がただ守られてばかりなのは、癪に障るからな?」
「はい、マリヴェイラ枢機卿。私達が足枷になっているのなら、動きます!」
「……感謝します!」

 イレイナスやグリエリ、セリーネたちの決意を感じ取ったマリヴェイラ。

「ようやく重い腰を上げたか? マリヴェイラ……」
「ヴェルミア……それに、アレスティナ様も……」

 話がまとまった所に顔を出すと、ふたりも決意を固めたような顔をしていた。

「ラント様の所に向かわれるのですね! お供します!」
「それは……」
「私も聖女ですし! それに、ヴェルミアもいますから…!」
「おうっ!」
「……感謝します!」

 皆の視線を受けながらも、決意を新たにしたマリヴェイラだった。


◇◇◇

  
 地下聖堂の一角では、ラントが吊るされた状態で魔力《マナ》が体から溢れ出していた。沸き起こるように流れ出る魔力《マナ》は膨大で、床を水面のように流れていく。そのあまりの膨大な量に、あれほど称賛していた司祭や信者たちも驚きに染まる。

「ラント……」

 護衛聖騎士でもあるアリアンテも心配するような表情を見せるものの、その思いとは裏腹に、身につけていた指輪がほんのりと光を宿し始める。それらにあわせて司祭や信者たちの指輪もまばゆく光を放ち始めた。

「おぉぉっ! これは、なんと素晴らしい魔力《マナ》! そして、膨大……」
「先代様の数倍はあろうか!」
「これほどの者たちの指輪を、一度に満たしててもまだ、溢れ続けておる!」

 司祭の言葉を皮切りに、溢れんばかりの魔力《マナ》に満たされた指輪に目を輝かせる信者たちから、感激の声が上がる。一度、指輪を満たせば、ひとりで数人を相手にできるほどの力を得られる。

「おぉっ! もう満たされた! すげぇぇ!!」
「今度の聖女は最高だ! すぐに満たしてくれるぞ!」
「うひょー! 魔法が使い放題だ! たまんね~!」

 信者の中には、簡単な魔法を発動させて指輪の魔力を使っては、すぐにまたいっぱいになる様子に、目を輝かせる。その姿は、信者と言うよりも玩具《おもちゃ》を手に入れた子供のようにしか見えないほどだった。
 そんな者たちに、ラントから流れ出る魔力が利用され、使われている様子に腹立たしい気持ちになってしまうアリアンテ。しかし、同時にその剣を振り下ろしたのも、自分だった。

「私は、何を……」
「私のせいだ……!!」

 司祭に良いように利用され、魔力《マナ》を与えないのなら与えるようにさせる汚い手法に躍らされる日々。与えられたものをただ使うだけ、そこに意思など関係なく、ただ力を使うために指輪を使い、足りなくなったら力を求める。

『……いつから私は、力に溺れるようになったんだ』
『あれほど、聖女様を守ると…決めたではないか!』
『にもかかわらず、私は…何をしているんだ……』

 確かに足元を伝う魔力《マナ》の流れは、体を満たすように温かい。しかし、同時にそれは聖女の力を受け取っているだけのこと。その間、聖女は力を出し続ける。今も、吊るされたラントの体からは、溢れ続け床を満たす。
 しかし、それらは水のように溜まっていくのではなく、それぞれの指輪保持者に向かって流れていく。もちろん、アリアンテにも流れ、その指輪が光を放ち、温かな気持ちにさせる。

「……私は、こんな力を受け取る資格など…ない」

 ガックリと膝をつき、手にしていた剣を落とすと肩を落としてしまうアリアンテ。

『まったく、コイツラは……』
『オレから出る魔力《マナ》を好き勝手に……』

 吊るされながらも、溢れ出てしまう魔力《マナ》の流れを感じながら、意識はかろうじて保っていた。司祭たちは相変わらず、回復した魔力《マナ》を喜ぶ子供のように、無邪気なようすだった。
 さらには、ラントの体に刻まれた呪いの紋章を(性紋《せいもん》)などと言われ、腹が立ってくる。それでも、この状況ではどうすることもできなかった。

「んんぅ……はぁぁぁ……」
『落ち着け、オレ』
『オレのことを好き勝手言われて腹が立つ……』
『だが……あの指輪。魔力《マナ》を貯めてるな……』
『つまり、そういうことか? マリスティアも貯められると言ってたから……』

 ラントの鋭い視線の先では、司祭が有り余る魔力《マナ》を一身に集め、目を輝かせる。

「おぉぉっ。なんと素晴らしい力。これで、多くのものを従えられる」
「これで、レーネ教のすべてを、我が手中に……」
「司祭……! その力は……」

 足元を満たしていたラントから溢れ出した魔力《マナ》を、一手に吸収した司祭は手にしていた他の指輪までもつけ始めると、その指輪にも魔力《マナ》を溜め始める。それは、もはやただ一人が使える魔力《マナ》の量ではなかった。

「司祭。それほどまでに、魔力《マナ》を溜められては、体が……」

 思わず口から出た言葉に驚くアリアンテ。

『……な、なぜ。私は、司祭の心配する言葉など……』
『司祭がこれまでしてきたことを考えれば……』
『しかし、私が今まで…真に仕《つか》えていたのは、司祭の方だというのか……?』

 アリアンテの戸惑いなど、全く気にする様子の無い司祭は、老いぼれの体だとしても関係なく、その溢れ出た膨大な魔力《マナ》を手にした指輪に溜め込んでいく。その量は魔族に匹敵するほどだ。

「ふはははは。これよ、この力ぞ。我が求めていたのは!」
「アリアンテ。我を心配するのか……聖女に心酔していたお主が。滑稽だな!」
「これで、我も枢機卿《すうききょう》。いや、それ以上の者。教皇と同じ力を得たのだ!!」
「がはははは!! この力で、すべてをこの手に……」

 床を伝っていた魔力《マナ》の流れが渦を巻く様にして、司祭へと集まると司祭を取り巻いていた信者たちはその力と権威にひざまずき、頭《こうべ》を垂れる。

「司祭様、とうとうこの時が……」
「今まで、聖女からの神託だけを頼りにしていましたが、これで……」
「あぁ、我を頼ると良い。聖女様は、我に力を与えてくださったのだ。この指に輝く多くの指輪がその証だ!」

 高らかに掲げる指の、おおよそ全てに魔力《マナ》を貯める輝石がつけられていた。その様子に、信者たちはこぞって頭を下げ、崇拝するような姿をとる。

「くっ!」
『何ということだ。我は今まで何を……』
『マリスティア様から賜った力を、我がものとしただけではなく……』
『ラント様の力までも、我が手にしようとするのか……!』
「……そんなことに、我は……気がつけなかった」

 悔しさに顔を歪ませながら、眉間にシワをよせるアリアンテ。その姿に、もう迷いは無かった。踵を返すと、ラントの元に向かうアリアンテは、改めてラントに願う。

「……ラント! 司祭を……司祭を止めて!!」
「このままじゃ、深淵教会に集まった者たちまで巻き添えになる! だから……!」
「助けて! ラント!!!!」

 その声が聖堂内に響く……

「んぅ……」
「…これは困ったのぉ。飼い犬に噛まれるというのは、こういうことか……」
「潮時かのう……」

 そういうと、その膨大な魔力の一端を使い、アリアンテの足元にあった剣。深影《しんえい》を浮かせると、飛ばす。魔力《マナ》の力と光を纏った深影は、まっすぐにラントにすがる後ろ姿へと飛ぶ。

「用済みじゃ。さらばだ、アリアンテ。よく仕えた聖騎士じゃたよ……」
「なっ……!! ラント様……!」

 咄嗟に翻ったその体は、ラントをかばうように立ちふさがる。その身を貫かんとしていることを知らずに、最後まで(護衛聖騎士)としての務めを果たそうとしていた。

『ふっ、愚か者め。その刃《やいば》は、お主を狙っておるのだ。それすらも分からず、聖女様を庇《かば》うか。まぁ、これほどの魔力《マナ》を得られる存在は、稀有だが……』
「また、探せば良いのだ! 今の我には、この力がある。しばらくは持つだろうて……」
「その命を賭して、聖女様をかばってこの世を去るのだ! お主は真の英雄だの! アリアンテ!!」
「ラント……!!」

 円を描く様にして聖堂内を浮遊した深影は、狙いを定めラントとアリアンテの体を貫くように飛ぶ。シュッと風を斬るような刹那の風切り音と共に、その剣はふたりへと届く。

「ふっ……終わったか……」
「……さて、次の聖女という魔力《マナ》供給源を探さねばな。聖女と言う名の……」

 勝ち誇ったかのように信者たちの元へと振り返る司祭。そんな司祭が目の当たりにしたのは、驚きで目を丸くして眺める姿だった。

「ん? 我を崇めぬか。何を見ているのだ? すでに旅立ったであろう聖女様と護衛騎士殿を見て、何を……」

 そういい、振り返った光景に同じように目を丸くする。

「なんじゃ。あれは……」

 そこには、たしかに深影が突き刺さってはいた。しかし、その刃はふたりを射抜くことはなく、肌に触れる前に光の盾で防がれていた。そして、剣に宿っていた魔力《マナ》を帯びた光がラントへと戻るのと同時に、カランッと音を立てて床に落ちる。
 眼の前で起きたことに驚きを隠せない司祭だったものの、同時に。忘れていたことをが呼び起こされる。

「そうじゃったの。聖女、ラント様。いや、お主は。元・聖騎士で男じゃったの。まったく、分からぬものだ」
「齢《よわい》を重ねて、退屈をしておったが。これで、退屈せずに済むわ。のう? ラント『殿』!」

 いまいち起きていることが掴めないアリアンテだったが、すぐに後ろから金属が弾ける音がする。

パンッ!

「……へっ?」
「……司祭。今のオレは、『女』で『聖女』なんですよ?」
「それなのに『殿』をつけるのは、いかがなものでしょう?」

 先ほどまで縛られていたとは思えないほど、スッと台座から離れるラントは、その腕にアリアンテを抱えながら降りてくる。その姿は聖女と聖騎士が融合したかのような、誇りと自信に満ち溢れた姿でもあった。
 そのあまりの姿に目を丸くするアリアンテを、そっと脇に座らせると。ゆっくりと語りかける。

「ありがとう。庇ってくれて。おかげで……」
「オレの決意が固まった。行ってくる、アリアンテ」
「ら、ラント様……」

 コツコツとヒールの足音を響かせながら、もはや人と魔物が融合したような姿に成り果てた司祭の元へと向かう姿は、まさに凛々しい聖女のあり方だった。

  
◇◇◇

  
 ガタゴトと揺られる馬車の中には、さながら小さい国が出来上がったかのような重要人物が乗っていた。ドラクシオン王女ふたりに、聖騎士ふたりに若き女鍛冶師。そして、枢機卿《すうききょう》という錚々《そうそう》たる顔ぶれが揃っていた。
 ラントを探すという名目のもとで、キャンプをたたんだ枢機卿一行は、深淵教会のまだ判明していない総本部。ラントが囚われている場所を探しながら向かっていた。揺れる馬車の中で、マリネシアに点在する地下拠点を回り続けていた。

「まだ見つからんのか!」
「すみません! 深淵教会の地下聖堂は多く……」
「くっ!」
『こちらは、王女様も連れているのだ。そんなに多くは回れない!』

 馬車の外で騎士たちに檄を飛ばすマリヴェイラの様子を眺めながら、馬車に残ったイレイナスとグリエリ。生まれも育ちもドラクシオン育ちで、幼い頃から(魔力《マナ》)に満ち溢れた場所で暮らしていた。
 そんなイレイナスは、眉間にシワを寄せながら険しい顔をする。それは、グリエリも同じで、あまりに異質に感じるほどだった。

「どうしたの? イレイナスにグリエリ……」
「えぇ、姉様もわかりますよね? この感じ……」
「あぁ、何処かのバカが魔力《マナ》を集めてやがる。こんな、魔力《マナ》も薄い場所で、そんな力を使ったら、バレるのがわからないのか?」
「それとも、それすら分からないからバカなのか?」
「えっ? それってどういう……」

 王女ふたりが同じような反応をしたことで、ただごとではないと感じたセリアは、入り口のそばに座っていたセリーネに伝言を頼む。

「セリーネちゃん。外にいるマリヴェイラさんを呼んでくれる?」
「はい! マリヴェイラさん! ちょっと……」

 馬車からの呼び声に、騎士たちの相手をしていたマリヴェイラのシワの寄った顔も、幾分和らいだもののそれでもまだ、はっきりとはしていなかった。

「なんですか? セリーネ……」
「はい、あの。王女様のふたりが、おかしいと」
「えっ! それは、ぜひ!」

 慌てる様にして、グリエリとイレイナスの前に小さな地図を広げると、一様にふたりの指は同じ場所を指していた。

「ここだ。おまえもそう思うよな? グリエリ……」
「はい、お姉様。明らかに魔力《マナ》が集まってます。おかしいくらいに」
「なるほど……この場所は、中央広場の地下……」
「しまった。あんな、公の場に拠点を設けるなど!」

 盲点を突かれたことに頭を抱える。そして、矢継ぎ早にイレイナスが口添えをする。

「あぁ、おそらく。ここが病の発生源だ」
「なんですって!」
「見せてもらったが、白潮病《はくしびょう》の発生源は水路を伝って広がるんだ……」
「はい、その発生源を結ぶと、そこには必ず、水路があるんです。しかも、それなりに太い」
「マリヴェイラ卿。つまり、これは。水路を使った反乱です」
「っっっっ!!!!」

 すべてが後手に回っていた。
 お祭りを開けば、必然的にそこに人が集まる。人を隠すのなら、人の中。神殿を隠すのなら神殿の中が最適だった。

「で、では。ラント様も、ここに……」
「あぁ、その可能性は高いが、魔力《マナ》が濃すぎる……」
「はい。付け焼き刃で魔力《マナ》を集めているようで、うっ。酔いそう……」
「イレイナス様にグリエリ様。ふたりのご尽力に感謝を!」

 ふたりからの報告を受けたマリヴェイラと、彼女から伝え聞いたヴェルミアが並び立つ様にして目的地の場所へと向かう支度をする。

「何だと! こんな街中でか!」
「えぇ、イレイナス様とグリエリ様が、おかしい魔力《マナ》の集束を感じると……」
「おそらく、その動力源として…ラント様は……」

 その言葉に、拳を握りつぶさんばかりに強く握るヴェルミア。

「くそっ! 聖女を何だと思ってんだ!!」
「ラント……」
「アレスティナ、助けるぞ! ラントを……恩返しだ!」
「はいっ!」
「マリヴェイラも行くぞ!」
「えぇ、そうしましょ!」

 王女ふたりを乗せた馬車へと戻ると、手綱をもつ騎士に目的地を伝え、王女様の具合が芳しくないことを伝えると、ヴェルミア卿の乗る馬車に続いて目的地へと向かった。

『くっ、聖女を何だと思ってんだ! 燃料じゃねぇぞ!』
『ラント……お願い、間に合って!!』

 それぞれの思いを抱えながら、一路。目的の中央広場へとむかったのだった。
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