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B 魔術の時間です
しおりを挟むエー侯爵子息の悲劇はあっという間に広まり、午後の魔術学では、ひそひそと噂が飛び交い、
古老の教師の講義は疎かになっていた。
「えー、皆さんご静粛に。今から」
「B嬢!貴様っ!A嬢に何をした!」
黒髪の少女は、キョトンとして、怜悧な青年のキツい声を受け止めた。
「えー、ビイ君。今は講義の」
「そんなことはどうでもいい!」
授業の根本を否定され、教師は呆然と黙した。
「貴様!ちょっと魔術に長けるからと、いい気になって、Aにどんな術をかけたんだっ!」
ビイは魔術局の若き研究員。
その魔力から学生の身ではあるが、魔術局への出入りを許された存在である。
ただ。
その力のため、身内には疎まれ、恐れられ、かなり拗らせた性格である。
しかし、可愛い婚約者B嬢のおかげで、社会性を徐々に身につけていた。
だが、この頃は疎遠であり、アーディア嬢と第2王子達の輪の中にいることが多くなった。
「……エー様がA伯爵令嬢に、返り討ちにあったことですか?」
怒りの炎がちらつく双眼に、臆せずB嬢は可憐な仕草で、コテンと首を傾げた。
「ほら!矢張りな!
お前の術だろう!」
「そんなあー。A様はぁ、とっても賢い方ですものぉー。ご自分のハエさんはご自分でぶっ叩いちゃいます」
「お前の、ネチャネチャしたモノの言いは虫唾が走る」
「そんなあー。アーディアさんだって、ぶりぶりじゃないですかあ」
「アディのは天然だ。
彼女は無垢で天真爛漫。
そんな所が……って!そんな事はどうでもいい!」
授業そっちのけの修羅場に、
周囲は学食テラス再び!と、凝視していた。
「お前、アディの教科書を破っただろう!
晴れた日にアディを水浸しにもした!
廊下を急ぐ彼女をコケさせて!
挙句は、階段から突き落とした!」
「えーB、覚えがありませえん。
Bはぁ、A様とかCちゃんとかといつも一緒だしぃ」
「盗人猛々しいな。
魔術が得意なお前にアリバイなどない!」
バン!と、ビイの靴音が響く。
すたっと指をB嬢に突きつけ
「B!お前とはこれ以上我慢ならないっ!魔術局長に談判し、
お前との婚約は
破棄だ!」
(出ました!婚約破棄!)
(今度は通るか?)
ギャラリー達は悪い顔でワクワクしている。
「えー!破棄したら、Bどうなっちゃうの?」
「これだけの罪状があるんだ。退学だ。悪評故、嫁ぎ先も仕事先程も無いわ。
自分の非道を呪っていろ。」
「ひどおい!B泣いちゃう!」
「だから止めろ!そのぶりっ子!」
「だからーアーディアさんとBの何処が違うのーっ!」
室内にも関わらず、Bの背には白い虎が咆哮をあげ、ぶわっとブリザードが吹き荒れ始めた。
対するビイはシールドを張り、マントで上半身をかばうが、間に合わず吹雪の直撃に遭う。
「お、お前とアディはっ、違…!
大体アディの方が美人だし、声も美しい!そもそもお前なんか、つるぺたの棒みたいな身体のくせにっ!」
ぴきっ。
空気が、凍った。
「……あ。」
ゴゴゴゴゴ、と擬音がしそうな様体のB嬢に、全員目が離せない。
「……ったわね。
お、女の子に、ぜっ……たい、言っちゃいけないこと、
言ったわね!!」
B嬢の可愛い顔が、魔女のように、ニタリと歪む。
「……ってやる。」
「―何?」
「言ってやる!バラしてやる!みーんなっ!」
びBーっ!と、ビイは、あわあわしだしたが、勿論止まるわけが無い。
「こいつは!」
今度はB嬢のブーツが床を叩く。
「こいつなんか、厨2なんだからァ!!」
「うわあァァ!」
B嬢の口から、ビイの声が出てくる。
「『暗闇に俺は独り。
孤高の存在には、理解者など不要。ふっ。』
『ああ。また。俺の中の竜が!
魂を求めて!』
『俗人ばかりのこの世にあって、清冽に生きるには……俺は綺麗過ぎる。
苦いな。
貴様らに、ブラックコーヒーは似合わないだろう』」
止めて!やめてくれえ!!
ひいぃいっ!
茹でダコの様なビイの空中平泳ぎ状態を、周囲はぬるーい目で見ていた。
「ね!みんなあ!
こんなDQNな厨二病の童⚫野郎の癖に、なあにが、婚約破棄よっ!
あんたなんかあんたなんか!」
明日からフード被って眼帯して、
手首に包帯巻いて登校しろおおおっ!
ひえぇぇぇぇ!
ぜーぜー。
「いいっ!厨二病克服してから、戯言言いなさいっ!
Bが、Bが、
どれだけあんたをフォローしてるか
思い知るといいわっ!」
「……めんな、さい」
「聞こえませえん!」
「ごめんなさいーっ!」
「破棄はっ!」
ありませーん…
そして、教室の真ん中で、厨二病のDQNは、箱男になった。
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