37 / 90
36
しおりを挟む★アリーヤサイド
「静かね……」
いつもなら外から聞こえるレオナルドとリリアーナの笑い声も、山のような書類も、ひっきり無しに来ていた役人も、レオナルドに伝え忘れた事があると執務室を出ていった舞台俳優のような兄も今はいない。体も軽く気分もとても良い。こんな穏やかな日はいつぶりだろうか。
「本当ですね。オーランド様が少し居ないだけでこんなにも違うと寂しく感じますね」
「お兄様は外見も内面も煩すぎるものね」
オーランドは自分の一週間分を一日で話しているとアリーヤは本気で思う。良くもまぁ、あんなに口が回るなと毎度感心してしまう。
「オーランド様の外見を煩いと仰るのはお嬢様だけでしょうね」
ミリーが小さく笑いながら、今朝オーランドから貰った紅茶を淹れる。そういえばレオナルドの登場でこれを何処で購入したのか聞くのをすっかり忘れてしまった。
静かに口に含むと更に体が楽になる気がする。あくまで「気がする」だけなのだが、疲れている自分は美容に関係なくついつい飲んでしまう。
「お兄様の髪って光に当たるとそれだけで眩しいのだもの。それに最近は余計にキラキラしているし」
「『キラキラ』ですか?」
「ええ。表現が難しいけど無駄に光って見えるわ」
ミリーは「なるほど」と一つ納得したように頷き
「私にもそう言う方が1人だけいます」
「まぁ!どなた!?」
「恋人のマーチンです」
ミリーの言葉に、アリーヤは思わず淑女にあるまじき苦々しい顔をしてしまう。好きな人が光り輝いて見えるのは小説で読んだ事がある。体験はした事は無いが、ミリーの言いたい事は何となく分かる。自分がオーランドに恋をしているとでも言いたいのだろう。だが
「ミリー、私とお兄様は血の繋がった兄妹よ?」
「そうでしょうか?血が繋がっていようとオーランド様のような方が自分を気にかけて下さっていると分かれば、私は妹でもときめいたと思います」
「『そうでしょうか?』……って。」
ミリーは実の兄妹での恋愛を、まるで肯定するかのように言う。それには呆れはするものの、内心、ミリーの言葉にアリーヤは少しだけ安堵する。最近、特に調理場で会った時のオーランドには心臓が大きく跳ねた。昨日も執務室で倒れたあと、目が覚めた時オーランドが居てくれた事がどれ程心強かったか。
兄に依存しているような気がしていたが、オーランドの美貌は規格外だ。実の妹でも何らおかしくないと言われたようでほっとする。
「お兄様の事はいいわ。それよりマーチン?様?の事を教えて?」
「い、今は執務中では!?」
「その執務が無いのだもの。今までの分の休憩を纏めて取ってると思えば、ね?」
そう言われてしまうとミリーは断るに断れず、苦笑しては話す。街でミリーが変な男に声をかけられていた所を、マーチンが助けてくれた事が出会いだったらしい。そんな話は聞いた事がない、と言ったら心配かけたくなかったと言われてしまった。
ミリーは確かに外見こそ平凡だが、自分が男なら結婚したいと思う程に素敵な女性だ。ミリーに声をかけた男は腹立たしいが、見る目があると賞賛はしてやってもいいかなとアリーヤは思う。
その上、おかげでミリーには素敵な恋人が出来たのだ。恋のキューピッド役として役に立った。褒美として今回だけはリュクソン家からの礼は無しにしておこうと心の中で頷く。
「ミリーに声をかけた男は許せないけど……小説みたいでロマンチックね!」
「マーチンは実直で口下手な所もありますが、誕生日の時のように態度には一生懸命出してくれて……そこが少し可愛らしいんです」
「まぁ、強い騎士様を捕まえて可愛いだなんて!ふふ、彼に会ってミリーを助けてくれた事や、ミリーの恋人になってくれた事のお礼が言いたいわ」
「お嬢様ってば。私の母親みたいですね」
静かに微笑むミリーを見てアリーヤも笑みを返す。恋をすると女性は綺麗になるとは小説で読んだことがあったが、その通りなのだなと思う。彼女の周りだけ温かく輝いて見える。まるでオーランドのように。
(──!!!それってつまり……)
「お兄様にも、とうとう春が!?」
首を傾げるミリーに、恋する女性は綺麗で輝いて見える。それは男性にも言える事で、アリーヤがオーランドが輝いて見えたのは、つまりはオーランドが誰かに恋をしているからだと説明する。
「なるほど。一理ありますね。しかし、オーランド様に愛される女性は大変でしょうね」
「お兄様がおモテになるから嫉妬で大変と言うこと?」
「それもありますが……オーランド様の愛はとても重そうなので。下手をすれば公爵家の権力を使ってでも恋敵を排除しそうです」
さすがにそんな事は無いだろうと思うも、最近の恋愛小説には少し過激な愛情を持つヒーローが流行って居るらしいし、妄想するのは好きにさせておこう。
「お兄様がねぇ……そこまで一途には見えないわ」
「あら、お嬢様。女好きのヒーローが実は一途と言うのは恋愛小説の定番ものですよ」
ミリーがあまりにもくすくすと楽しそうに話すので、少し想像したら、夢の中のようにリリアーナを熱い瞳で見つめるオーランドを思い出して胸が痛む。
「何にでも例外はあるわ。お父様もお母様もお兄様には甘いから、誰を選んでも問題はないでしょうけど……」
自分も兄の選んだ人なら祝福したい。けれどリリアーナだけは絶対に嫌だ。リリアーナに取られるくらいなら自分がそばにいたい。が、それが叶わない事にまた胸が痛んだ気がした。
***
「……にしてもお兄様遅くないかしら?殿下を追いかけてから、もうかなり時間が経つわ」
どこかで女性を口説いてでもいるのだろうか。無い話ではない。秘書となった初日「大手を振って王宮で働く女性口説ける」と言っていたのは何を隠そう本人だ。
「それとも殿下と難しい話でもしているのかしら?」
嫌味を楽しそうに言うオーランドとそれにビクつくレオナルドは想像できても、二人が難しい話をしているのは想像できない。
(殿下はそもそもだし、お兄様もやる気が無いものね)
寧ろ二人がリリアーナを囲んで楽しそうに紅茶を飲んでいる想像ならできてしまった。ああ、ダメだ。気がつくと夢の中のリリアーナとオーランドの関係に引っ張られてしまう。
(そんな事はないわ!お兄様はリリアーナ様だけは嫌っていたもの!きっと殿下にまた要らない嫌味を言って懲らしめてるだけよ!)
アリーヤは必死にそう言い聞かせた。しかし、その慰めも虚しく、胸に得体の知れない不安が襲い、ガタンと席を立つ。
「お嬢様!?」
慌てて叫ぶミリーの声が聞こえるが、アリーヤは何も無い事を確かめたくて執務室を急いで出ていった。
1
あなたにおすすめの小説
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません
Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。
乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。
そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。
最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。
“既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう”
そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい…
何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます
さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。
パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。
そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。
そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる