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2話
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「……コンビニのか」
「ああ、うん。ごめんね。今日は帰るのが遅くなってご飯作る余裕なかったから」
「スーツを着てるから、そうだろうとは思った」
「あー、そう? 最近仕事が忙しくてさ……それより何かわかった?」
瞬一は雛鳥に餌を与えるように、佐藤に食べ物を与えながら尋ねる。
「一応。製造社は特定できた。人工肌の素材からして、クラウン製だろうな。
この型は既に製造されていないが、幸いにもハードウェアの方に大した故障は見られないから、パーツの交換は必要ないな」
瞬一はほっとして、未だベッドに横たわっているロボットを見た。
アンドロイドの傷口は、特殊な素材でできた肌によって既に塞がっている。
「じゃあ問題はやっぱり頭ってこと?」
「ああ。恐らくは……」
佐藤がモニターの時計を一瞥する。
「星野、お前はもう帰れ」
「ええ、やだよ。こいつが目を覚ますまで見てたい」
「修復には上手くいったとしても1ヶ月はかかる。
それまでお前は会社にも行かずにここで見ているつもりか」
「それに」と。
ここで佐藤は初めてモニターから目を離し、瞬一を見つめた。
「隈ができてる。早く家に帰って寝ろ」
佐藤は瞬一の下瞼を親指で擦った。
瞬一は肩を跳ねさせ驚いてしまった。
「どうした?」
「……ううん。なんでもない」
きっと佐藤は、驚いた理由に気がついていないに違いない。
昔から鈍感な男だから。
そして隈の指摘をしたのも、心配しているわけではなく、睡眠不足による仕事の生産力の低下を示唆しているだけだ。
そうだとわかっている。
わかっているから、下手に感情を動かすことはしたくなかった。
無駄に喜んだり悲しんだり。
そういった感情の動きは佐藤の前では意味のないことを瞬一は理解している。
喜んではいけない。彼に触れられたことを。
「じゃあまた明日ご飯届けに来るから……おやすみ、佐藤」
「おやすみ」
だけど、"また明日"の約束ができたことを喜ぶことくらい、許してほしい。
"隈ができてる"
そう言った彼の声を思い出しながら、瞬一は無意識に下瞼を撫でた。
そんな自分に気がついて、瞬一の頬が赤く染まる。
「……佐藤の馬鹿」
これだから鈍感なやつは。そう呟いた声は想像以上に柔らかかった。
*
瞬一は仕事を早めに終わらせ、2人分の食事を作り終えると佐藤の部屋を訪れた。
「どう? 直りそう?」
「いいや。まだ時間がかかりそうだ」
佐藤は瞬一には目もくれず、一心不乱にモニターを眺め、時折指で何かを入力している。
見たところでわからないだろうけど、瞬一は後ろからそっと覗いてみた。
その拍子に瞬一の手がアンドロイドに当たり、その肌の温かさに瞬一は驚いた。
「大丈夫なの、これ」
「問題ない。どうやら体温恒常センサーが先に修復したらしい」
「へえ!」
そんなものがあるのか。
瞬一はアンドロイドの手を握りしめた。
ほんのりと温かい。
だけど瞬一よりも少し低い。
見た目はまだ未発達な子供だけど、身体設定は大人の平均に合わせられているのかもしれない。
元々アンドロイドは人間の仕事をサポートするために作られたというから、ある程度力持ちな方が役に立つのだろう。
瞬一がアンドロイドの手を握り締めると、握り返されはしないけれど、確かに人の手だと思わせるような柔らかな弾力が返ってくる。
ずっと前に作られた機械でありながら、人間と遜色のない見た目。
それどころか、人間よりも綺麗かもしれない。
綺麗。
それは見た目だけでなく、アンドロイドの存在自体に当てはめることのできる言葉だと思った。
体温の恒常。身体の不変。不変の美。
アンドロイドは、成長することもなく退化することもなく、美しさを保ち続ける。
どんなに綺麗で美しい記憶も、やがて時の流れには逆らえないというのに。
機械は時の流れに逆らい続ける。
続けることが可能だから、そこに綺麗なままでい続ける。
瞬一はそれを、とても美しく羨ましいものだと思った。
傷ひとつない掌に耳を寄せる。
そこから、心臓の鼓動のようなモーター音が聞こえた。
「ああ、うん。ごめんね。今日は帰るのが遅くなってご飯作る余裕なかったから」
「スーツを着てるから、そうだろうとは思った」
「あー、そう? 最近仕事が忙しくてさ……それより何かわかった?」
瞬一は雛鳥に餌を与えるように、佐藤に食べ物を与えながら尋ねる。
「一応。製造社は特定できた。人工肌の素材からして、クラウン製だろうな。
この型は既に製造されていないが、幸いにもハードウェアの方に大した故障は見られないから、パーツの交換は必要ないな」
瞬一はほっとして、未だベッドに横たわっているロボットを見た。
アンドロイドの傷口は、特殊な素材でできた肌によって既に塞がっている。
「じゃあ問題はやっぱり頭ってこと?」
「ああ。恐らくは……」
佐藤がモニターの時計を一瞥する。
「星野、お前はもう帰れ」
「ええ、やだよ。こいつが目を覚ますまで見てたい」
「修復には上手くいったとしても1ヶ月はかかる。
それまでお前は会社にも行かずにここで見ているつもりか」
「それに」と。
ここで佐藤は初めてモニターから目を離し、瞬一を見つめた。
「隈ができてる。早く家に帰って寝ろ」
佐藤は瞬一の下瞼を親指で擦った。
瞬一は肩を跳ねさせ驚いてしまった。
「どうした?」
「……ううん。なんでもない」
きっと佐藤は、驚いた理由に気がついていないに違いない。
昔から鈍感な男だから。
そして隈の指摘をしたのも、心配しているわけではなく、睡眠不足による仕事の生産力の低下を示唆しているだけだ。
そうだとわかっている。
わかっているから、下手に感情を動かすことはしたくなかった。
無駄に喜んだり悲しんだり。
そういった感情の動きは佐藤の前では意味のないことを瞬一は理解している。
喜んではいけない。彼に触れられたことを。
「じゃあまた明日ご飯届けに来るから……おやすみ、佐藤」
「おやすみ」
だけど、"また明日"の約束ができたことを喜ぶことくらい、許してほしい。
"隈ができてる"
そう言った彼の声を思い出しながら、瞬一は無意識に下瞼を撫でた。
そんな自分に気がついて、瞬一の頬が赤く染まる。
「……佐藤の馬鹿」
これだから鈍感なやつは。そう呟いた声は想像以上に柔らかかった。
*
瞬一は仕事を早めに終わらせ、2人分の食事を作り終えると佐藤の部屋を訪れた。
「どう? 直りそう?」
「いいや。まだ時間がかかりそうだ」
佐藤は瞬一には目もくれず、一心不乱にモニターを眺め、時折指で何かを入力している。
見たところでわからないだろうけど、瞬一は後ろからそっと覗いてみた。
その拍子に瞬一の手がアンドロイドに当たり、その肌の温かさに瞬一は驚いた。
「大丈夫なの、これ」
「問題ない。どうやら体温恒常センサーが先に修復したらしい」
「へえ!」
そんなものがあるのか。
瞬一はアンドロイドの手を握りしめた。
ほんのりと温かい。
だけど瞬一よりも少し低い。
見た目はまだ未発達な子供だけど、身体設定は大人の平均に合わせられているのかもしれない。
元々アンドロイドは人間の仕事をサポートするために作られたというから、ある程度力持ちな方が役に立つのだろう。
瞬一がアンドロイドの手を握り締めると、握り返されはしないけれど、確かに人の手だと思わせるような柔らかな弾力が返ってくる。
ずっと前に作られた機械でありながら、人間と遜色のない見た目。
それどころか、人間よりも綺麗かもしれない。
綺麗。
それは見た目だけでなく、アンドロイドの存在自体に当てはめることのできる言葉だと思った。
体温の恒常。身体の不変。不変の美。
アンドロイドは、成長することもなく退化することもなく、美しさを保ち続ける。
どんなに綺麗で美しい記憶も、やがて時の流れには逆らえないというのに。
機械は時の流れに逆らい続ける。
続けることが可能だから、そこに綺麗なままでい続ける。
瞬一はそれを、とても美しく羨ましいものだと思った。
傷ひとつない掌に耳を寄せる。
そこから、心臓の鼓動のようなモーター音が聞こえた。
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