9 / 32
第二章
第八話
しおりを挟む
腰まで伸びる紅の髪を持つ少女が、詠唱を開始する。
「我が眼前の敵を撃ち滅ぼせ! 『フレイム』!」
「おい馬鹿! やめろ、こんな狭い道でッ……」
いま彼女を含めた4人の冒険者パーティがいる場所は、迷宮1階層の一本道。
そんな中で炎の魔法を唱えた彼女を制止する声が飛ぶ。
が、時すでに遅し。詠唱に応えた魔力が、眼前の敵の足元に魔法陣となって収束した。
「爆ぜろ!」
術者である彼女の声に応えて、魔力は解き放たれる。
炎の渦へと。
「クソッ⁉」
その攻撃は、見事に目の前にいた二匹のゴブリンを包み込み、断末魔の声を上げさせた。
が、彼女の後ろにいた仲間からも、悲鳴が上がった。
なぜか。
彼女の放った『フレイム』によって生まれた爆風が、彼らにも襲い掛かったためである。
そして、彼女の持つ豊富な魔力量によって威力が増した魔法は、彼らと、そして術者の少女をも吹き飛ばした。
「いてて……。おい、無事か?」
「ああ、なんとかな。ったく、あんな狭い道で普通あんな魔法撃つか? 俺たちまで殺す気かよ」
軽く数メートル吹き飛ばされた場所で、冒険者が起き上がる。
頭を押さえているもの、装備の破損部を調べるものもいる。
「おいねーちゃん、分かってるのか⁉ あんな魔物如きに、あんな場所で、あんな魔法を撃つバカがどこにいる⁉ 危うく死にかけたじゃねーか!」
「ご、ごめんなさい……」
自分よりも背丈の高い男からの怒号を浴びて、少女は体を縮こまらせる。
「ったく、お前の今日の取り分はきっちり引かせてもらうからな」
「そんなッ⁉」
「ああ? なんか文句あんのか? お前のおかげで、こちとら被害を被ったんだよ。それを補うために取り分を引くんだ。なんか文句あるのか?」
「い、いぇ。すいませんでした」
「全く、本当に疫病神だな、この女」
「本当だぜ。今日は引き上げるぞ。この女がいたんじゃ、命がいくつあっても足りはしねぇ」
リーダーの男に続いて、仲間の男二人がその後に続く。
そしてその後ろを、少女は少し離れて続く。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
呟く声は、足音にかき消され、誰の耳にも届かない。
冒険を終えて、引かれた取り分を手に宿に戻ってきた少女は、ベッドに横になり溜息をついた。
「はぁ、どうしよう……」
今日の取り分は銅貨二枚。
この宿屋の一日の宿泊料が銅貨三枚。そこに食費やポーションなどを買えば、銅貨8枚ほどが掛かってしまう。
現状、赤字だ。
今はまだ、ここに来るときに貯めておいた貯金を切り崩して何とかやれているが、このままではお金が無くなって冒険者すら続けられなくなってしまう。
「私、疫病神なのかな?」
今日言われて、一番傷付いた一言だった。
ここに来るまで、少女は村で一番の魔法の使い手だとしてもてはやされていた。自分は天才だと、本気で信じていた。
そして、この力を使えば冒険者になって両親をもっと楽にさせてあげられる。
そんな希望を、抱いてきたというのに。
「はぁ。もうヤダ。会いたいよ。パパ、ママ」
既に心は折れかかっていた。
そんな時、とある人物の顔が浮かんだ。
「そういえば……」
その人物は、テストのときに少女の誘いを断った、同い年くらいの少年だった。
彼は、少女にこう言っていた。
『悪いな、俺はソロ希望なんだ。他を当たってくれ』と。
「私も、ソロで冒険すれば、取り分も引かれないし、何とかなるのかな?」
彼女の心は今、不安で満ちていた。
だから、少し冷静な判断ができない状態にあったのだろう。
「うん、やるしかないよね」
少女は自分を鼓舞し、決意する。
そして、宿屋の少しかび臭い枕を涙で濡らしながら、目を閉じる。
想像していたよりも過酷な現実から目をそらすため。せめて夢の中でくらい、幸せでいたいと願って。
「我が眼前の敵を撃ち滅ぼせ! 『フレイム』!」
「おい馬鹿! やめろ、こんな狭い道でッ……」
いま彼女を含めた4人の冒険者パーティがいる場所は、迷宮1階層の一本道。
そんな中で炎の魔法を唱えた彼女を制止する声が飛ぶ。
が、時すでに遅し。詠唱に応えた魔力が、眼前の敵の足元に魔法陣となって収束した。
「爆ぜろ!」
術者である彼女の声に応えて、魔力は解き放たれる。
炎の渦へと。
「クソッ⁉」
その攻撃は、見事に目の前にいた二匹のゴブリンを包み込み、断末魔の声を上げさせた。
が、彼女の後ろにいた仲間からも、悲鳴が上がった。
なぜか。
彼女の放った『フレイム』によって生まれた爆風が、彼らにも襲い掛かったためである。
そして、彼女の持つ豊富な魔力量によって威力が増した魔法は、彼らと、そして術者の少女をも吹き飛ばした。
「いてて……。おい、無事か?」
「ああ、なんとかな。ったく、あんな狭い道で普通あんな魔法撃つか? 俺たちまで殺す気かよ」
軽く数メートル吹き飛ばされた場所で、冒険者が起き上がる。
頭を押さえているもの、装備の破損部を調べるものもいる。
「おいねーちゃん、分かってるのか⁉ あんな魔物如きに、あんな場所で、あんな魔法を撃つバカがどこにいる⁉ 危うく死にかけたじゃねーか!」
「ご、ごめんなさい……」
自分よりも背丈の高い男からの怒号を浴びて、少女は体を縮こまらせる。
「ったく、お前の今日の取り分はきっちり引かせてもらうからな」
「そんなッ⁉」
「ああ? なんか文句あんのか? お前のおかげで、こちとら被害を被ったんだよ。それを補うために取り分を引くんだ。なんか文句あるのか?」
「い、いぇ。すいませんでした」
「全く、本当に疫病神だな、この女」
「本当だぜ。今日は引き上げるぞ。この女がいたんじゃ、命がいくつあっても足りはしねぇ」
リーダーの男に続いて、仲間の男二人がその後に続く。
そしてその後ろを、少女は少し離れて続く。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
呟く声は、足音にかき消され、誰の耳にも届かない。
冒険を終えて、引かれた取り分を手に宿に戻ってきた少女は、ベッドに横になり溜息をついた。
「はぁ、どうしよう……」
今日の取り分は銅貨二枚。
この宿屋の一日の宿泊料が銅貨三枚。そこに食費やポーションなどを買えば、銅貨8枚ほどが掛かってしまう。
現状、赤字だ。
今はまだ、ここに来るときに貯めておいた貯金を切り崩して何とかやれているが、このままではお金が無くなって冒険者すら続けられなくなってしまう。
「私、疫病神なのかな?」
今日言われて、一番傷付いた一言だった。
ここに来るまで、少女は村で一番の魔法の使い手だとしてもてはやされていた。自分は天才だと、本気で信じていた。
そして、この力を使えば冒険者になって両親をもっと楽にさせてあげられる。
そんな希望を、抱いてきたというのに。
「はぁ。もうヤダ。会いたいよ。パパ、ママ」
既に心は折れかかっていた。
そんな時、とある人物の顔が浮かんだ。
「そういえば……」
その人物は、テストのときに少女の誘いを断った、同い年くらいの少年だった。
彼は、少女にこう言っていた。
『悪いな、俺はソロ希望なんだ。他を当たってくれ』と。
「私も、ソロで冒険すれば、取り分も引かれないし、何とかなるのかな?」
彼女の心は今、不安で満ちていた。
だから、少し冷静な判断ができない状態にあったのだろう。
「うん、やるしかないよね」
少女は自分を鼓舞し、決意する。
そして、宿屋の少しかび臭い枕を涙で濡らしながら、目を閉じる。
想像していたよりも過酷な現実から目をそらすため。せめて夢の中でくらい、幸せでいたいと願って。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる