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第二章
第八話
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腰まで伸びる紅の髪を持つ少女が、詠唱を開始する。
「我が眼前の敵を撃ち滅ぼせ! 『フレイム』!」
「おい馬鹿! やめろ、こんな狭い道でッ……」
いま彼女を含めた4人の冒険者パーティがいる場所は、迷宮1階層の一本道。
そんな中で炎の魔法を唱えた彼女を制止する声が飛ぶ。
が、時すでに遅し。詠唱に応えた魔力が、眼前の敵の足元に魔法陣となって収束した。
「爆ぜろ!」
術者である彼女の声に応えて、魔力は解き放たれる。
炎の渦へと。
「クソッ⁉」
その攻撃は、見事に目の前にいた二匹のゴブリンを包み込み、断末魔の声を上げさせた。
が、彼女の後ろにいた仲間からも、悲鳴が上がった。
なぜか。
彼女の放った『フレイム』によって生まれた爆風が、彼らにも襲い掛かったためである。
そして、彼女の持つ豊富な魔力量によって威力が増した魔法は、彼らと、そして術者の少女をも吹き飛ばした。
「いてて……。おい、無事か?」
「ああ、なんとかな。ったく、あんな狭い道で普通あんな魔法撃つか? 俺たちまで殺す気かよ」
軽く数メートル吹き飛ばされた場所で、冒険者が起き上がる。
頭を押さえているもの、装備の破損部を調べるものもいる。
「おいねーちゃん、分かってるのか⁉ あんな魔物如きに、あんな場所で、あんな魔法を撃つバカがどこにいる⁉ 危うく死にかけたじゃねーか!」
「ご、ごめんなさい……」
自分よりも背丈の高い男からの怒号を浴びて、少女は体を縮こまらせる。
「ったく、お前の今日の取り分はきっちり引かせてもらうからな」
「そんなッ⁉」
「ああ? なんか文句あんのか? お前のおかげで、こちとら被害を被ったんだよ。それを補うために取り分を引くんだ。なんか文句あるのか?」
「い、いぇ。すいませんでした」
「全く、本当に疫病神だな、この女」
「本当だぜ。今日は引き上げるぞ。この女がいたんじゃ、命がいくつあっても足りはしねぇ」
リーダーの男に続いて、仲間の男二人がその後に続く。
そしてその後ろを、少女は少し離れて続く。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
呟く声は、足音にかき消され、誰の耳にも届かない。
冒険を終えて、引かれた取り分を手に宿に戻ってきた少女は、ベッドに横になり溜息をついた。
「はぁ、どうしよう……」
今日の取り分は銅貨二枚。
この宿屋の一日の宿泊料が銅貨三枚。そこに食費やポーションなどを買えば、銅貨8枚ほどが掛かってしまう。
現状、赤字だ。
今はまだ、ここに来るときに貯めておいた貯金を切り崩して何とかやれているが、このままではお金が無くなって冒険者すら続けられなくなってしまう。
「私、疫病神なのかな?」
今日言われて、一番傷付いた一言だった。
ここに来るまで、少女は村で一番の魔法の使い手だとしてもてはやされていた。自分は天才だと、本気で信じていた。
そして、この力を使えば冒険者になって両親をもっと楽にさせてあげられる。
そんな希望を、抱いてきたというのに。
「はぁ。もうヤダ。会いたいよ。パパ、ママ」
既に心は折れかかっていた。
そんな時、とある人物の顔が浮かんだ。
「そういえば……」
その人物は、テストのときに少女の誘いを断った、同い年くらいの少年だった。
彼は、少女にこう言っていた。
『悪いな、俺はソロ希望なんだ。他を当たってくれ』と。
「私も、ソロで冒険すれば、取り分も引かれないし、何とかなるのかな?」
彼女の心は今、不安で満ちていた。
だから、少し冷静な判断ができない状態にあったのだろう。
「うん、やるしかないよね」
少女は自分を鼓舞し、決意する。
そして、宿屋の少しかび臭い枕を涙で濡らしながら、目を閉じる。
想像していたよりも過酷な現実から目をそらすため。せめて夢の中でくらい、幸せでいたいと願って。
「我が眼前の敵を撃ち滅ぼせ! 『フレイム』!」
「おい馬鹿! やめろ、こんな狭い道でッ……」
いま彼女を含めた4人の冒険者パーティがいる場所は、迷宮1階層の一本道。
そんな中で炎の魔法を唱えた彼女を制止する声が飛ぶ。
が、時すでに遅し。詠唱に応えた魔力が、眼前の敵の足元に魔法陣となって収束した。
「爆ぜろ!」
術者である彼女の声に応えて、魔力は解き放たれる。
炎の渦へと。
「クソッ⁉」
その攻撃は、見事に目の前にいた二匹のゴブリンを包み込み、断末魔の声を上げさせた。
が、彼女の後ろにいた仲間からも、悲鳴が上がった。
なぜか。
彼女の放った『フレイム』によって生まれた爆風が、彼らにも襲い掛かったためである。
そして、彼女の持つ豊富な魔力量によって威力が増した魔法は、彼らと、そして術者の少女をも吹き飛ばした。
「いてて……。おい、無事か?」
「ああ、なんとかな。ったく、あんな狭い道で普通あんな魔法撃つか? 俺たちまで殺す気かよ」
軽く数メートル吹き飛ばされた場所で、冒険者が起き上がる。
頭を押さえているもの、装備の破損部を調べるものもいる。
「おいねーちゃん、分かってるのか⁉ あんな魔物如きに、あんな場所で、あんな魔法を撃つバカがどこにいる⁉ 危うく死にかけたじゃねーか!」
「ご、ごめんなさい……」
自分よりも背丈の高い男からの怒号を浴びて、少女は体を縮こまらせる。
「ったく、お前の今日の取り分はきっちり引かせてもらうからな」
「そんなッ⁉」
「ああ? なんか文句あんのか? お前のおかげで、こちとら被害を被ったんだよ。それを補うために取り分を引くんだ。なんか文句あるのか?」
「い、いぇ。すいませんでした」
「全く、本当に疫病神だな、この女」
「本当だぜ。今日は引き上げるぞ。この女がいたんじゃ、命がいくつあっても足りはしねぇ」
リーダーの男に続いて、仲間の男二人がその後に続く。
そしてその後ろを、少女は少し離れて続く。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
呟く声は、足音にかき消され、誰の耳にも届かない。
冒険を終えて、引かれた取り分を手に宿に戻ってきた少女は、ベッドに横になり溜息をついた。
「はぁ、どうしよう……」
今日の取り分は銅貨二枚。
この宿屋の一日の宿泊料が銅貨三枚。そこに食費やポーションなどを買えば、銅貨8枚ほどが掛かってしまう。
現状、赤字だ。
今はまだ、ここに来るときに貯めておいた貯金を切り崩して何とかやれているが、このままではお金が無くなって冒険者すら続けられなくなってしまう。
「私、疫病神なのかな?」
今日言われて、一番傷付いた一言だった。
ここに来るまで、少女は村で一番の魔法の使い手だとしてもてはやされていた。自分は天才だと、本気で信じていた。
そして、この力を使えば冒険者になって両親をもっと楽にさせてあげられる。
そんな希望を、抱いてきたというのに。
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既に心は折れかかっていた。
そんな時、とある人物の顔が浮かんだ。
「そういえば……」
その人物は、テストのときに少女の誘いを断った、同い年くらいの少年だった。
彼は、少女にこう言っていた。
『悪いな、俺はソロ希望なんだ。他を当たってくれ』と。
「私も、ソロで冒険すれば、取り分も引かれないし、何とかなるのかな?」
彼女の心は今、不安で満ちていた。
だから、少し冷静な判断ができない状態にあったのだろう。
「うん、やるしかないよね」
少女は自分を鼓舞し、決意する。
そして、宿屋の少しかび臭い枕を涙で濡らしながら、目を閉じる。
想像していたよりも過酷な現実から目をそらすため。せめて夢の中でくらい、幸せでいたいと願って。
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