Face of the Surface

悟飯粒

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魔王との邂逅編

無血の交渉

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 俺が魔王であることは1日のうちに勇者領全域に知れ渡った。しかも、[カースクルセイドが侵攻してきた時に親玉である魔王を捕まえた]という内容でだ。なんということでしょう、勇者領の為に戦ってあげたのに槍玉にあげられてしまったのです。

 「これから裁判………てほど綺麗なものではないな。形だけでいえばそうだが、あっという間に死刑にされるだろう。簡単に言えば見せしめの殺人が今から行われるわけだ。」

 俺の監視を任されたグレンが、俺の前で椅子に座ってこれからの説明をしている。

 「勇者の俺が言うのも変な話だが、なんでこっちの世界に来た。わざわざ殺されにくるようなもんだぞ。現実世界に逃げとけば死ぬことはないんだからな。」
 「………意外ですね、俺の身を案じてくれるなんて。」
 「魔王だろうとなんだろうと、何も考えずに死にに行こうとしてる人間を止めたくなるのは善人の性だろ?俺はこう見えてお人好しなんだ。」

 こういう発言を聞くと、この人のことを「いい人だ。」って褒められなくなるんだよなぁ。

 「忠告ありがとうございます。ただ、何も考えずにこの世界に来たわけじゃあないですよ。死ぬのは構わないが、死に方ってのがある。………俺はそれを追い求めにきた。」
 「ふーーん、そうか………まぁなんだ、俺はお前を助けてやるつもりはないが、いいことを教えてやる。」

 グレンは他の誰にも聞こえないように、俺の耳元で囁いた。

 「公判の時、南南西の方角にイリナがいる。」

 そして顔を離すと、また椅子に座り首を回した。

 「何かかますんなら、そのことだけ注意しろ。」
 「…………ありがとうございます。」
 「やめろって、人として当たり前のことをしただけだ。」

 グレンは席を立ち、ここから離れていった。さーてと、どうしたものか。考えがあるように振る舞ったが、グレンの言う通り、実は特に何も考えてないんだよなぁ。話がこじれたら逃げ出すことしか考えてないし……最悪、この会場にいる全員ぶっ飛ばすか?…………そうなる可能性も考慮しておくか。

 「こい!飯田狩虎!」

 勇者の人に呼ばれて俺は檻から出された。さて、お立ち台といきますか。


 勇者に言われるがままに階段を上がっていくと地上に出た。そして一気に耳に入ってくるのは罵声と暴言。俺を取り囲むように作られた観客席から勇者達が叫んでいるのだ。超巨大なスタジアム、東京ドーム2~3個分の大きさはあるだろうそんなだだっ広い場所に、俺1人だけが棒立ちで周りを見ている。

 「今から炎帝:飯田狩虎いいだかこの公判を始める!」

 さらに加熱するブーイング。裁判長らしき人物の会話を流し聞きながら、俺は目を閉じると情報を整理する。俺をわざわざこの場所に連れてきたってことは、きっと対策として何かがあるのだろう。魔力無効の障壁とか?あと王様も来ている可能性が高い。勇者も大量に待機しているだろうし………本格的に武力行使の為のシミュレーションをしよう。イリナが南南西にいるのならば、そこをゴールとして…………

 「よって飯田狩虎を死刑とする!」

 ちょっと待って判決下すの早すぎない!?まだ2分ぐらいしか経ってないよ!?裁判長の声とともに、観衆の声が更に大きくなり、それはまるで地響きのようにこの場所を揺らす!

 「あーーちょっと待ってくれ、俺が言いた」「御託はいらない!即刻死刑だ!」「…………一言だけ、ね?」「執行官よ!すぐに準備せよ!」「ひとこ」「5秒後に実行する!!」

ドゴッッッ!!!!

 裁判長が座っている席の隣の壁が吹き飛んだ。俺が小さめの炎の球をぶち当てたからだ。

 「一言だけ言わせてくれないですかね。」

 俺の攻撃によって観衆が一斉に静かになった。………なるほど?騒いではいたが、まだ俺に恐れ慄いてはいるのだな。今の攻撃で静かになったのが良い証拠だ。変な熱に当てられているだけなのなら、十分に交渉の余地はある。

 「俺を仲間に引き入れたらメチャクチャ最高だと思いません?」

 俺は裁判長ではなく、これをどこかで聞いているだろう王様と慶次さんに向けて話す。

 「カースクルセイドは力をつけて、反面、3日前の戦いで大勢の勇者が死んで勇者領は弱体化。勇者領は今、戦力が欲しいはずだ。それも戦況を一気にひっくり返せるようなとびきり強力な戦力を。…………います?勇者に。魔王以上に優れた新しい戦力。」

 俺は周りを舐めるように見つめる。威嚇するためでもあるし、観察するためでもある。

 「俺は別に死んでも良いんです。ただ、今俺が殺されて、イリナを含めた勇者領がカースクルセイドによって滅ぼされるのは、草葉の陰で見るにも見難い。涅槃に入っても寝つきが悪いというもの。…………俺があんたらを勝たせてやる。その後だったらいくらでも殺されてやるよ。」

 俺は南南西を見た。あまりにも人が多すぎてイリナがいるのかどうかわからないが、グレンがそこにいるというのだ。それを信じてメッセージを、「殺しに来いよ。」と、視線で送ろう。

 それに呼応するように、雷が俺の視線の先で落ちた。なるほど、殺しに来てくれるか。

 「どう?良い提案でしょ。………王様っ。」

 魔剣が震える方向に炎を放つと、巨大な剣が出現し炎を切り裂いた!そして剣が消えると、王様が笑いながらこっちに歩いてくる。

 「ガッハッハッハッハッ!!やはり面白いのぉ狩虎ちゃんは!!だから言っただろうが慶次よ、殺すには惜しいと!!」

 王様が腰に差している特別な一振りを引き抜くと一瞬で距離を詰めた!!そして交錯する王様の剣と俺の魔剣!!その衝撃はこの空間を駆け巡り、観衆の席を叩く!!

 「………狩虎ちゃん、負けたふりをしろ。」「………了解。」

 俺は派手に負ける為に、直径2kmの巨大な火球を作り出し王様に放つ!!それを王様が切り裂くと、その爆発を背に俺の右腕を切り裂いた!!

 「安心しろ皆の衆!!たとえ魔王が我らに仇なそうとも勇者の王であるワシが奴を倒すことは容易!!………今ここで宣言しよう!!我々勇者は今から魔王:炎帝を使役することとする!!これは実に名誉なことであるぞ!!ガッハッハッハッハッ!!」

 王様の口上で観衆が盛り上がっていく。いいぞ、もっとかましてやれ。勇者達が優越感に浸りその気になればこの話は通しやすくなる。こういうのは気分屋でカリスマのあるこの変態クソジジイの得意分野だ。

 「私は反対です!王様!」

 しかし、盛り上がってきた勢いをへし折るように女性が叫んだ。そして彼女はこの広場に躍り出ると、王様に歩み寄る。

 「例え王様が倒せたとしても、奴が謀反を起こせば相当な被害が出るのは明白です!それに魔王ですよ!?魔族の王をそう簡単に信じて良いわけがありません!もっと慎重に物事を考えてください!」

 もの凄くちゃんとした発言だ。付け入る隙がない。まぁ俺は王様に切られた痛みで反論どころではないのだけれども。

 「しかしだなぁユピテルちゃん。狩虎ちゃんが言ってるのもまた事実じゃ。これから先、カースクルセイドはドンドン強くなるぞー。何か策があるのならばそちらに変えるが………ないじゃろ?」
 「そ、それはそうですが…………」

 …………いくなら今か。

 俺は痛みを我慢して炎を放った!!それは天高くまで伸びる炎の柱となって、先が見えない高さまで伸張し爆発する!!その爆発の規模はあまりにも大きく、このスタジアムの上空を炎で覆った!!

 「俺ならば魔族だろうと勇者だろうと、敵を全て排除することができる。俺を、この力を無条件で手に入れる機会なんてこの先、何億年経とうが訪れることはないと保証してやる。…………リスクじゃなくてリターンに目を向けてみたらどうだ。」
 「くっ……………」

 しかしユピテルさんは頷かない。気持ちはわかるが、ここはなんとしてでも俺の意見を通さなきゃいけないんだ。ここで交渉が失敗したら、俺は武力行使しなきゃいけなくなる。血を流すのは俺だけにさせてくれ。

 「…………最大の譲歩だ。これだけはしたくなかったが、あんたを納得させる為なら仕方ないか。」

 俺は懐から黒色の装置とリモコンを取り出すと、ユピテルさんに投げた。

 「これは魔力制御装置だ。つけた人間の魔力を段階的に制限することができる。…………しかし最大の特徴は、遠隔でボタンを押すだけでその者の命を奪うことだ。」

 リモコンのボタンを押すだけで、装置をつけた人間を殺すことができる優れものだ。奴隷調教用の代物だが、自分の家を漁っていたら偶然見つけた。

 「このリモコンをあんたにくれてやる。もし俺が変な素振りを見せたらそれで俺を殺せば良い。簡単だろ?ボタンを押すだけなんだぜ。」

 この情報でユピテルさんの表情が曇る。揺れてるな。生殺与奪の権利を握っておけば大丈夫だと理性が囁いている。頼む、理屈で考えるタイプならこれで折れてくれ!

 「…………わかりました、あなたを信じたわけではないですが、ここまで材料が出揃えば認めてはあげましょう。貴方を御することは簡単で、勇者領に大きく貢献するのだと。」

 折れた!なんとか折れてくれたぞ!

 「しかし!最後に………私にどんな忠誠をも誓うという証拠を見せて欲しいのです。」
 「…………言え、すぐにやってやる。」
 「残りの腕を切り落とし」

ザンッ!

 俺は自身の腕を炎で一瞬で切り裂いた。断面は炎で焼かれ、肉が焼けた焦げ臭いが辺りに広がる。

 「っつ………これでいいか。」
 「……………わかりました。」

 唖然とした表情から一瞬で真顔に戻ると、ユピテルさんはこの場から離れた。

 「それでは決まりだ!これから魔王、飯田狩虎は我らの力として隷属することを決定する!」

 …………なんとか、誰も傷つけずに済んだな。俺は痛みを我慢しながら、また地下へと運ばれた。
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