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第一章 反逆への序章編
第20話 フロルの戦い
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《フロル視点》
――不思議と、私の心の中に恐怖の色はなかった。
私の目の前には確かに、威圧感を放つワイバーンがいる。
その鋭い眼光に睨まれれば、誰もが腰を抜かして震えてしまうほどの重圧。
けれど、それがまるでただの背景のように霞んで見える。
私の目は、ワイバーン相手に華麗に踊る、紫色の光を追っていた。
カイム=ローウェン。
不思議な人だ。
殺される運命だった私を助け出し、囚われの元《剣聖》を配下に従え、伝説級の怪物に臆せず挑んでいる。
出会ってまだ一日も経っていないのに、彼の姿から一時も目を離せない。
彼の描く物語を、誰よりも側で見ていたい。
胸を焦がすような彼への興味が、私の中で渦巻いている。
だから――
「私は、あなたの……カイムさんの右腕になってみせる。誰よりも近くで、誰よりもあなたのことを見ていたいから!」
私の生まれ持ったたった一つの魔力の才を、彼が見初めてくれたのなら、それは全て彼のために捧げよう。
彼の描く、未来のために。
生まれて初めて私の固有スキルを使うけど――上手くコントロールして見せる!
「固有スキル――《燦花》!」
刹那、私の周囲に桃色の花びらが生まれ、風にはためく。
主人よりいただいた国宝武器――《桃花褐》の柄を握り直し、大きく足を踏み出した。
「カイムさん! 私が行きます!」
「任せた! 無理は――」
「しません!」
無理はしない。
ようやく、心から側にいたい人と出会ったというのに、死んでたまるか。
カイムさんの横を通り過ぎ、闘技場の客席を駆け上る。
その勢いのまま、上空にいるワイバーンのなるべく近くへ――
そのとき、ワイバーンの二つの首がこちらへ向けられる。
間髪入れずに炎の塊が二つ、私の方へ飛んで来る。
「まずいっ!」
回避の方法を探っていた、そのときだ。
「構わず走るのじゃ!」
凜とした声がどこからともなく聞こえ、炎と私の間に黒影が割り込む。
炎を受け止めた黒影は瞬く間に消滅し、炎の塊も相殺された。
「今のは!」
駆け抜ける速度を緩めず、視線だけを斜め下にずらす。
どうやらリーナさんが、援護をしてくれたみたいだ。
この好機を、逃すわけにはいかない。
客席の一番上――もっともワイバーンに近い場所に上がった私は、刀を構える。
薄桃色の刀身に、光の花びらが集い、淡白く輝いていく。
固有スキル《燦花》で生み出した光の花びらは、言うなれば私の潤沢な魔力の塊。
私の身体の一部故に、好きな形に変えたり、手足のように操ったりできる。
どんな光属性の魔法よりも自由で、アイデアと扱い次第でなんでもできるスキルだ。
「《燦花》――花薙っ!!」
刀を振り抜いた瞬間、刃に集った光のエネルギーが、三日月状の斬撃となって飛ぶ。
光の刃は空気を裂いて飛翔し、ワイバーンの二つの首を根元からバッサリ切り落とした。
国宝武器というだけあって、恐ろしい威力だ。
少なくとも私の固有スキルを普通の刀に乗せて放っても、傷一つ付けられなかったはず。
さっきフェリスちゃんがワイバーンの攻撃を防ぐことができたのも、《蒼盾》のお陰だろう。
それくらい、本来の実力差は明白なのだ。
「やった! これで――」
自分の攻撃が通用した!
私、カイムさんの役に立ててる!
私は、その場でガッツポーズをする。
だから、油断してしまった。
胴体だけになったワイバーンの胸部に、真っ白な魔法陣が浮かび上がっているという事実に、気付くのが遅れた。
「離れるのじゃ! 桃娘!」
リーナさんの悲痛な叫びが聞こえる。
「そやつ、まだ生きておる! 白いレーザーを放つ気じゃ!」
「え?」
私の目の前に、無慈悲に輝く白い魔法陣が映る。
既に二度、同じ光を見ている私は、金縛りにあったようにその場から動けなくて――
「大丈夫だ。お前はそこにいろ」
刹那、柔らかくも張り詰めた声が響き渡る。
下を見れば、カイムさんが《紫炎》で象った大きな弓矢を構えていた。
――不思議と、私の心の中に恐怖の色はなかった。
私の目の前には確かに、威圧感を放つワイバーンがいる。
その鋭い眼光に睨まれれば、誰もが腰を抜かして震えてしまうほどの重圧。
けれど、それがまるでただの背景のように霞んで見える。
私の目は、ワイバーン相手に華麗に踊る、紫色の光を追っていた。
カイム=ローウェン。
不思議な人だ。
殺される運命だった私を助け出し、囚われの元《剣聖》を配下に従え、伝説級の怪物に臆せず挑んでいる。
出会ってまだ一日も経っていないのに、彼の姿から一時も目を離せない。
彼の描く物語を、誰よりも側で見ていたい。
胸を焦がすような彼への興味が、私の中で渦巻いている。
だから――
「私は、あなたの……カイムさんの右腕になってみせる。誰よりも近くで、誰よりもあなたのことを見ていたいから!」
私の生まれ持ったたった一つの魔力の才を、彼が見初めてくれたのなら、それは全て彼のために捧げよう。
彼の描く、未来のために。
生まれて初めて私の固有スキルを使うけど――上手くコントロールして見せる!
「固有スキル――《燦花》!」
刹那、私の周囲に桃色の花びらが生まれ、風にはためく。
主人よりいただいた国宝武器――《桃花褐》の柄を握り直し、大きく足を踏み出した。
「カイムさん! 私が行きます!」
「任せた! 無理は――」
「しません!」
無理はしない。
ようやく、心から側にいたい人と出会ったというのに、死んでたまるか。
カイムさんの横を通り過ぎ、闘技場の客席を駆け上る。
その勢いのまま、上空にいるワイバーンのなるべく近くへ――
そのとき、ワイバーンの二つの首がこちらへ向けられる。
間髪入れずに炎の塊が二つ、私の方へ飛んで来る。
「まずいっ!」
回避の方法を探っていた、そのときだ。
「構わず走るのじゃ!」
凜とした声がどこからともなく聞こえ、炎と私の間に黒影が割り込む。
炎を受け止めた黒影は瞬く間に消滅し、炎の塊も相殺された。
「今のは!」
駆け抜ける速度を緩めず、視線だけを斜め下にずらす。
どうやらリーナさんが、援護をしてくれたみたいだ。
この好機を、逃すわけにはいかない。
客席の一番上――もっともワイバーンに近い場所に上がった私は、刀を構える。
薄桃色の刀身に、光の花びらが集い、淡白く輝いていく。
固有スキル《燦花》で生み出した光の花びらは、言うなれば私の潤沢な魔力の塊。
私の身体の一部故に、好きな形に変えたり、手足のように操ったりできる。
どんな光属性の魔法よりも自由で、アイデアと扱い次第でなんでもできるスキルだ。
「《燦花》――花薙っ!!」
刀を振り抜いた瞬間、刃に集った光のエネルギーが、三日月状の斬撃となって飛ぶ。
光の刃は空気を裂いて飛翔し、ワイバーンの二つの首を根元からバッサリ切り落とした。
国宝武器というだけあって、恐ろしい威力だ。
少なくとも私の固有スキルを普通の刀に乗せて放っても、傷一つ付けられなかったはず。
さっきフェリスちゃんがワイバーンの攻撃を防ぐことができたのも、《蒼盾》のお陰だろう。
それくらい、本来の実力差は明白なのだ。
「やった! これで――」
自分の攻撃が通用した!
私、カイムさんの役に立ててる!
私は、その場でガッツポーズをする。
だから、油断してしまった。
胴体だけになったワイバーンの胸部に、真っ白な魔法陣が浮かび上がっているという事実に、気付くのが遅れた。
「離れるのじゃ! 桃娘!」
リーナさんの悲痛な叫びが聞こえる。
「そやつ、まだ生きておる! 白いレーザーを放つ気じゃ!」
「え?」
私の目の前に、無慈悲に輝く白い魔法陣が映る。
既に二度、同じ光を見ている私は、金縛りにあったようにその場から動けなくて――
「大丈夫だ。お前はそこにいろ」
刹那、柔らかくも張り詰めた声が響き渡る。
下を見れば、カイムさんが《紫炎》で象った大きな弓矢を構えていた。
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