いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、ラスボスを葬ってやります!

果 一

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第一章 反逆への序章編

第21話 必滅の技《紫炎弓箭》

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《カイム視点》

「よくやった。大トリは俺のターンだ、悪いけど譲ってもらうよ」



 紫色に燃えさかる弓幹ゆがらを左手で押さえ、右手で弦をひく。

 怪しく燃ゆるやじりの先は、上空にいるワイバーンの胴体へ向けられていて――



「喰らえ! 《紫炎弓箭しえんきゅうせん》っ!」



 右手を離した瞬間、紫色の矢が空へ駆け上がった。

 一瞬遅れて、衝撃波が渦を巻く。

 紫炎で象られた一閃は、ワイバーンめがけて一直線に昇っていき――



 鏃が胴体に触れた瞬間、ワイバーンの巨体が風船のように弾けた。

 ワイバーンの残滓ざんしと思われる黒色の粒子がゆっくりと舞い、だがそれも、ほんの瞬きの間に消え去る。



 紫炎に纏わせた状態異常の効果は、《概念消滅》。

 放った矢に触れた者は存在概念ごと消滅し、“この世界に最初からいなかった”ことになる、必滅の闇魔法。



 《紫炎弓箭》を受けたワイバーンは、抵抗する間もなく現世うつしよから消え去り、魂ごと抹消されているため常世とこよへも行けない。

 完全なる虚無が、消滅したワイバーンの成れの果てだ。



 故に。

 まるで、最初からこの場には何もなかったかのごとく、静寂が訪れた。



「す、凄い……これが、《紫苑の指輪》」



 俺は、改めて自分が手に入れたモノの恐ろしさを自覚した。

 こんなふざけた魔法が許されるのは、元がゲームだったから。

 が、俺が今いるこの世界は、現実として確かに存在している。



 この力は、あくまでラスボスを超えて生き残るためだけに使おう。

 右手の中指におさめた紫色の指輪を左手で握りしめ、俺はそう決意した。



△▼△▼△▼



「それで、これからどうするの?」

「そうだな……」



 フロルの質問に、俺は人差し指を顎に当てて少しの間思案する。



 一件落着した後、リングの中央に集まった俺達は、今後の方針を固める話し合いを始めた。

 これから先は、暗躍と特訓が主になる。

 王国と公国の戦いが始まるまでの約半年間、ひたすらラスボスに殺されないために準備を進めるのだ。



 そのためには――



「手始めに、絶対に見つからない拠点が必要だな。レイズに殺されないことが第一目標だけど、そのために力を付ければ確実に目を付けられる」



 ひっそりとレイズの目が届かない場所で暮らせば問題ない。

 誰しもそう思うかもしれないが、それは確実ではない。



 レイズを筆頭に、公国の裏で糸を引いている者達は、まるで盤面を俯瞰しているかのように公国内部の情勢を把握している。

 死んだはずのフロルやフェリス、空間から隔離された《解放の試練》に閉じ込められているはずのリーナが外で暮らせば、必ず騒ぎになるだろう。

 もっとも、リーナに関しては情報が秘匿され、存命しているのを知るのはごく一部の者だけであろうが。
 公国の外へ逃げようにも、公国軍が国境を塞いでいる。



 人目に付かない場所で暮らすことのハードルは高く、運良く暮らせたとしても追っ手が迫った場合、それを退けられる力を身につけていなければ殺される。



 やるなら、暗躍して力を付けてからの徹底抗戦。

 幸い、彼女たちも俺の目的を察して付いてきてくれた。



「俺達に必要なのは、レイズに目を付けられても、逆に返り討ちにさせられるだけの力と、謀反むほんを悟らせない拠点だ。ただ――」

「そんな拠点、すぐに見つかるとは思えないのだ」

「……だな」



 フェリスの指摘に、俺は肩を落とす。

 そう。

 公国内の動きがわかる《黒の皚鳥》相手に暗躍するのは、相当ハードルが高い。



 絶対に見つからない保障がある場所なんて、とてもじゃないが異空間くらいしか思いつかないのだ。

 俺は、早速計画に行き詰まり――



「少しよいかの?」



 そのとき、あぐらを搔いて話を聞いていたリーナが手を上げた。



「どうしたの?」

「おぬしは、絶対に見つからない拠点を探しているのじゃろう?」

「ああ、そうだけど――」

「あるじゃろう、ここに。絶対に見つかりようのない、異空間の牢獄が」



 リーナは、自身の座っているリングを指先でつつく。

 俺とフロル、フェリスは互いに顔を見合わせ、「あ」と声を上げた。



 灯台もと暗しとは、まさにこのこと。

 《解放の試練》は、その表向きの管轄をリーナに任せ、彼女が破られた際の保険としてワイバーンを眠らせていた。



 逆に、警備はそれだけしか仕組まれていない。

 異空間であるこの場所は、外界から状況を察知することができない。

 そもそも、その存在すら秘匿されている。

 故に、レイズから悟られることはないのである。



「グッドアイデアだ、リーナ!」



 俺はリーナの頭をわしゃっと撫でる。



「い、一々頭を撫でるでない無礼者! この程度、誰にでもわかるじゃろうて」



 リーナは俺の手を引っ剥がすと、ぷいっとそっぽを向いた。

 口ではいろいろ言っているが、赤くなった耳は隠せていない。

 

「よしっ、あとは力を付けるだけだ。戦争が起きるまであと半年。全員死ぬ気で特訓に励むぞ!」

「うん!」

「任せるのだ!」

「是非もない」



 天賦の才を持つ三人の少女達は、力強く頷いた。





 ――六月一三日。

 この日、《解放の試練》を拠点とした勢力が誕生した。

 ブルガス王国の騎士団、アリクレース公国の剣士団、裏で操る《黒の皚鳥》。

 その三つ巴が主となるゲームのシナリオをぶち壊す、第四の勢力がここに産声を上げた。



 まだ勢力としての名前も持たない小さな火種は、誰も知らないところで休む間もなく火力を上げ続け、やがて無視できない大火となるのだ。

 後に、俺達の勢力はラスボスを喰らうラスボスとして名を馳せる。



 カイムこと、《紫帝してい》。

 フロルこと、《桃薙ももなぎ》。

 フェリスこと、《蒼壁そうへき》。

 リーナこと、《黒波こくは》。



 その二つ名が、《黒の皚鳥》を筆頭とした各勢力を震撼させるのに、一年とかからない。
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