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第一章 反逆への序章編

第22話 特訓の日々

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 ――九月十九日。
 


「どうだ、フェリス……キツくないか?」

「だ、大丈夫なのだ。もっと激しくしてくれてもいいのだ」

「わかった。い、痛かったら言ってくれ」

「……うん、なのだ」



 フェリスは、熱を帯びた頬を上気させながら答える。

 俺もまた、昂ぶる身体を沈めるように小さく深呼吸して――



「《火球フレア・ボール》ッ!」



 10メートル先で盾を構え地面を踏みしめているフェリスめがけて、俺は火炎魔法を放つ。

 火球、と言いつつそれはもうボールと呼べる大きさではない。

 

 小学校の運動会の大玉転がしで使う大玉より、一回りも二回りも大きい巨大な炎が、地面を焦がしながらフェリスへ肉薄する。



「み、《水鏡》!」



 フェリスは、水属性の魔法を起動し、水の膜を盾の表面に重ねる。

 俺の放った火球は水の盾に直撃。



 炎と水が真っ向からぶつかり合い、水が一瞬で膨張・気化した影響で水蒸気爆発が起こる。

 真っ白に煙る視界を、熱風が吹き飛ばしたあと、フェリスは盾を支えにしながらもなんとか二の足で立っていた。



「うん、やるじゃないか。今のはそこそこ本気で撃ったんだけど」

「まだまだ、なのだ……全然、受け止めきれないのだ」



 フェリスは悔しそうに眉を歪める。

 

 ここは、《解放の試練》の中に新たに造った鍛錬場だ。

 訓練と平行して、リーナの黒影に造らせた。

 ちなみに、《解放の試練》の中心部たる闘技場は、改築して城塞のようにしている。



 空の赤さも相まって、さながら決戦の舞台のような雰囲気を醸し出しているが――余程のことがない限り外界から隔離されたこの場所が戦場になることはないだろう。



 城塞っぽく改築したのは、「闘技場じゃ拠点っぽくないよね」と判断した俺の独断だ。

 まあ、俺の趣味に巻き込まれて日夜働かされているリーナの黒影には、本当に申し訳ないと思っている。

 ……本当だよ?



「カイムの攻撃を受け止めきれないようじゃ、僕は盾役職シールダー失格なのだ」

「そんなことないさ。俺のレベルは現状かなり上がってる。攻撃を受けて立っていられるだけ、成長してるってことだ」



 俺は、労うようにフェリスへ笑いかけた。

 俺の現状のレベルは452。

 体力は84000。魔力に関しては109900と、遂に10万を越えた。



 伝説級のバケモノであるワイバーンの格上喰いジャイアントキリングをして、一気にレベルが150近く上昇し、その後もモンスター討伐などを続けて今に至る。



 既に俺は、伝説級モンスターであるワイバーンを優に超える実力を手にしている。

 だから、フェリスに言ったことは世辞でもなんでもない。



「自信を持って、フェリス。お前は十分成長してる」



 俺はフェリスの元まで歩いて行くと、彼女の頬に手を添えた。

 それから、《回復リカバリー》を起動した。



 緑色の光がフェリスの身体を包み、鍛錬で負ったかすり傷や火傷がみるみるうちに治っていく。



「あ、ありがとうなのだ」



 フェリスははにかむと、暖かな光が包み込んでいる間だけ、頬に触れる俺の手に自身の手を重ねていた。



 ――。



「そういや、フロルは元気かな? かれこれ二週間帰ってきてないけど……」



 鍛錬を終え、鍛錬場の脇に設置したベンチに並んで座っていた俺は、フェリスに問うた。



「わからないのだ。でも、元気だと思うのだ」

「そっか。ならいいんだけど」



 俺は、なんとなく赤い空を仰いで答えた。



 フロルは、二週間前に拠点を出て行った。

 どうやら、自身が育った公国の貧民街に、古くからの友人達がいるらしい。

 彼女の話に寄れば、皆、貧しい暮らしや《黒の皚鳥》の存在を恨んでいるとのことだ。



 彼等に寄る辺を与える代わりに、俺達の組織に加わって貰えないか。

 その交渉をしに出掛けたのである。



「正直、公国の闇を恨んでいるからって、自分から反旗を翻すとは思えないけどなぁ」

「そんなことないと思うのだ」



 俺の独白に、フェリスがすかさず反応した。



「僕もフロルちゃんも、カイムのことをよく知っているのだ。どれだけ強いかも、どれだけ心が広いかも。部下っていうのは、魅力のない上司には付いていかないのだ。だから、誰よりもカイムのことを尊敬しているフロルちゃんが、直々に仲間をかき集めているということは、この組織の魅力が120%相手に伝わるってことなのだ」

「そう、なのかな……? よくわからないが」

「そうなのだ」



 フェリスは、一分の疑いもなく頷いた。

 と、そのときだ。



「そういうこと。あなたには人を導く力がある。だから、みんな、あなたに付いていくの」



 後ろから、聞き馴染んだ声が投げかけられる。

 振り向いた俺は、思わず「は!?」と素っ頓狂な声を上げた。



 いつの間にか戻ってきたのか、フロルがそこに立っている。

 そして――その背後に15歳前後の少年少女が30人ほど、ずらりと並んでいたのだ。
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