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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第29話 少女は、思わぬ形で現れる

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 鮮烈に眼を焼く真っ赤な絨毯。

 これでもかと言うほどに高い天井には、大きなシャンデリアが吊されている。

 ダンスホールの奥には、二階へ続く大きな階段がある。オシャレなホテルでしか見ないような、中央の踊り場で二股に分かれているタイプの階段だ。



 ホール中央は社交ダンスのために広く何もないスペースを設けており、談笑をしたり食事をとるための丸テーブルは、窓際にずらりと並べられている。



 現在時刻は、11時前。

 舞踏会が始まるまで、残り一時間とちょっと。



 だと言うのに、両国の主要人物がちらほら見受けられる。まあ、公国側はほとんどダミーだろうが――



「おぉ、やっと来たか。カイム! おせ~ぞぉ!」



 先にボディチェックを終えて会場に入っていたレントが、俺を見つけてブンブンと手を振ってきた。

 頼むから、子どもの運動会でリレーを参観するパパみたいな反応やめてくれ。



 ほら。

 周りの人達が「社交の場だぞ。なんだあの品性のない奴等」って言いたげな冷たい眼で見てるじゃないか。



「社交の場だぞ。怪しまれるようなことするな」

「うぐっ。わ、わかってるぜそんなこと」



 嘘つけ。

 絶対わかってなかったろ。



 眼を泳がせて口笛を吹く仕草をするレントを見て、小さくため息をつく。



「なぁ、この警備の中で本当にテロが成功するのかよ」



 レントは、そっと耳打ちしてくる。



 彼の指摘するとおり、万が一がないように王国側は厳戒態勢だ。

 壁側に王国騎士団の面々がずらりと並び、目を光らせている。

 どんな小さな悪意も見逃さない。そんなギラついた意志が、たたずまいの中に見え隠れしていた。



「まあ、俺等みたいな素人が行動を起こしても無理だろうな。だが、実行するのはツォーン様だ。俺達は、その補佐をしつつ臨機応変に対応をするようにとの命令しか受けていない」

「いやだから、その補佐をしつつ臨機応変ってのが、難しくてわかんねぇんだよ」



 レントは、頭を抱えてため息をついた。

 なぜ、そういう曖昧な命令しか与えられなかったのか。

 それは、俺達がモブだからだ。



「補佐をして臨機応変に対応しろ」というのは、言い換えれば「自分一人でなんとかするから、命令があるまで何もするな」という意味になる。

 俺達は、最初から戦力として数えられていない。

 ツォーンにとって、俺達モブの存在意義はきっと――



「ま、難しいこと考えても仕方ねぇよな」



 レントは、考えるのはやめたと言わんばかりに、大きく伸びをする。

 だからそういう恥ずかしいリアクションをするな! こっちが恥ずかしいんだよ!

 内心ではそう思われていることなど露知らず、やはりコイツは普段と変わらないテンションで俺の肩に手を置いてきた。



「なぁカイム。気晴らしに恋バナしようぜ?」

「はぁ? 恋バナ?」

「おうともよ。こんなむさ苦しい作戦でも、目の保養にはなりそうだぜ」



 レントは、あごをしゃくって方向を示す。

 見やれば、パーティーの準備のためか、多くのメイド達が慌ただしく動いていた。



「メイドって実在したんだなぁ。俺、生きてて良かったぜ。我が人生に一片の悔い無し!」

「随分と安い人生だな、おい」



 血涙を流して歓喜するレントに、そうツッコミを入れる。

 まあ、メイド達を生で見ることが出来て眼福というのは、否定しない。



 ――ただ。

 フロルやフェリス、リーナなどのハイレベルな美少女を普段から見てるせいか、どうにも心が動かない。



 あいつらがおんなじ格好をすれば、この変態と同じ気持ちになれるだろうか?

 

 そういや、フロルと言えばあいつはどこにいるのだろうか?

 昨日の段階で、フロルにはこの会場に予め潜入しているように伝えていたのだが、まだ一度も見ていないな。



 そんなことをぼんやりと考えてると、レントが興奮冷めやらぬ様子で俺の肩を突いてきた。



「なんだよ」

「なあ、見ろよ。あそこの子。めっちゃ可愛くねぇか?」

「あそこの子?」



 俺は、レントの熱い視線の先を見つめる。

 慌ただしく準備をするメイド達の中に、一際目立つ人物がいた。



 先っぽが華やかな桃色に染まった、白く長い髪。

 情熱的な色の大きな瞳。

 艶やかな相貌に花を添えるカチューシャに加え、華奢な身体を包み込むメイド服がよく映える。



 間違い無く、この会場の誰よりも華がある少女だった。



「へー。あんな美人もいるもんだな」

「な! お前もそう思うだろ。できればお近づきになりたいぜ」

「そうだな~」



 テキトーに答えながら、俺の目はその少女を追っていた。

 もちろん、美人だからというのもあるが、それ以上に思ったことがある。

 あれ? この子どっかで見たような……



 そんなことを思っていた矢先、そのメイドが俺達の方を振り向いた。

 目と目があった瞬間、そのメイドは薄く微笑んでゆっくりとこちらに歩いてくる。



「お、おい! こっちに歩いてくるぜ」



 興奮した様子で鼻息を荒くするレントに対し、「そうだな」と塩対応をしておく。

 ゆっくりと近づいてくるメイド。

 遠くからなんとなく見えていた顔形が、近づくにつれはっきりとわかる。



「んなっ!」



 目の前にきたとき、俺はビックリして思わず大声を上げてしまいそうになった。

 正直、大声を上げるのを堪えたことを褒めて欲しい。

 だってそのメイドは、メイドに扮して潜入していたフロルだったのだから。
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