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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第30話 俺の腹心は愛が重い
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「ちょっ、おま……」
俺はビックリして取り乱す。
が、フロルはレントから顔が見えない位置に素早く横移動して、人差し指を自身の唇に当て、ウインクしてきた。
言うな。という仕草だ。
そのお陰で、ギリギリ我に返った俺は、口を噤む。
「カイム=ローウェン様にレント=ファウズ様ですね。ようこそ《友好舞踏会》へお越しくださいました。本日は心ゆくまでお楽しみくださいませ」
俺から離れたフロルは、レントと俺に対し礼をする。
スカートの端を摘まんで僅かに膝を折る、淑女の礼だ。
この任務に対する付け焼き刃の知識だろうが、まるで違和感がない。
元々奴隷であり、その以前も生きるか死ぬかの瀬戸際にいたからだろう。
なんだかんだ、飲み込みが早く、対応力も人一倍あるのだろう。
美しさ以外浮いている部分はなく、一人のメイドとして完璧に溶け込んでいた。
「いやいやど~も。あのお嬢さん、よかったら今度お食事でも――」
「おいレント。社交の場でどうどうとナンパするな。下品だ」
「つれないな~。ダチなら友人の恋を応援するのは義務だろ?」
「玉砕がわかりきってる恋を応援するメリットがない」
「うぉ~、はっきり言うなお前」
いつになくIQが下がっているレントをスルーし、俺はフロルに向き直った。
「あの。すいません。お手洗いはどこにあるか教えていただいても? 実はさっきから尿意が限界で、漏れそうなんですが」
「お前よく人のこと下品とか言えたな。もう少しマイルドな言い方あっただろ」
「私は別に気にしていないので、構いませんよ。よろしければ、私がご案内しますが?」
フロルは、苦笑しながらそう提案をする。
「いいんですか? すいません」
「あ、お前しれっと二人きりになりやがったな! ズルいぞカイム!」
「んなこと言われてもな。すいませんねメイドさん。連れがうるさくて」
「いえいえ、お気になさらず」
ギャアギャア喚き立てるレントを振りほどき、俺達はダンスホールを出た。
――。
「まさか、メイドに扮していたとはな。驚いた」
「これが一番手っ取り早いかと思ったから」
フロルは「驚かせてごめんね」と言いながら両手を合わせた。
今、俺達は長い廊下の一番奥――二階へ続く階段の下にいた。
ここならば、人目に付く心配は無い。
トイレに行くというのを口実に、俺は彼女と情報交換をする時間を設けた。
幸い、彼女もそれを察して付いてきてくれたようだ。
「首尾はどうだ?」
「上手く従業員に扮して、会場中を回ったから、大体の状況は把握してる。王国側の主賓は全員、それぞれの控え室に護衛付きで待機してるよ」
「そうか。よく調査してくれた」
上出来だ。
彼女には、先に会場に潜入して状況を把握するよう命令を与えていた。
十分にその役割を果たしてくれたようだ。
流石は、俺の腹心といったところか。
「予定通り、俺は彼女のところへ行く。正確な居場所と護衛の配置・人数はわかるか?」
「もちろん。正直、あなたに教えたくないって思ってる自分がいるけどね」
「? どうしてだ」
「だって、今回の主役は彼女ってことでしょ? 王子様に助けて貰うのは、私の専売特許なのに」
「ひょっとして嫉妬してる?」
「……さあ?」
フロルは、ぷいっとそっぽを向く。
ああこれは――この作戦の鍵となる彼女に、嫉妬しているとしか思えない。
「だとしたらお前はラッキーだな。俺は、庇護対象のお嬢さまとのラブロマンスより、戦いの中で絆を深め合った相棒との純愛ストーリーの方が好きだから」
「そっか。じゃあ、証拠として私の頭を撫でて」
「……へ?」
待て。
なんでそうなる!
あまりに脈絡のない要求に、俺はたじろいで――
「ねぇ、撫でてよ。彼女より私の方が大切なんでしょ」
「いや、まあ……そりゃなぁ」
俺は、一応周りに人がいないことを確認してからフロルの頭に手を置いた。
サラサラとした髪と、手触りの良いカチューシャが掌に触れる。
フロルは、気持ちよさそうに目を細め、されるがままにしていた。
しばらくの後、フロルは俺の手を掴み、そのまま自身の頬に持って行く。
シルクのようなほっぺたが、俺の手に触れた。
「~~っ!?」
前世で恋愛フラグなんて立ったことがない俺は、それはもうたじたじだった。
「ねぇ、カイムさん」
「は、はい!」
思わず声が上ずってしまった俺の手を離し、フロルは熱っぽく潤んだ瞳で俺を見上げた。
「私、あなたのことを他の誰よりも信じてるから。彼女を助けて、四天王を倒して、あなたの望む未来についていく。だから――今日だけは、王子様に助けられる彼女を、ヒロインとして認めてあげる」
「は、はぁ……」
「だから、どうか彼女を助けてね。主様」
「お、おう。もちろん」
俺は、とりあえず頷いておいた。
なんだろう。
フロルって実は、めっちゃ愛が重いタイプなんだろうか?
そういや、レイズにあっさり騙され心酔していたっけ。
人を信じやすく、かつ信じた人には心の全てを捧げて貢ぐタイプか。
これはあれだ。ワルい男とくっついたら、取り返しがつかないくらい不幸になるやつだ。
俺がもっとしっかりしなければ。
思わぬところで、リーダーとしての責任の重さを実感させられたのであった。
俺はビックリして取り乱す。
が、フロルはレントから顔が見えない位置に素早く横移動して、人差し指を自身の唇に当て、ウインクしてきた。
言うな。という仕草だ。
そのお陰で、ギリギリ我に返った俺は、口を噤む。
「カイム=ローウェン様にレント=ファウズ様ですね。ようこそ《友好舞踏会》へお越しくださいました。本日は心ゆくまでお楽しみくださいませ」
俺から離れたフロルは、レントと俺に対し礼をする。
スカートの端を摘まんで僅かに膝を折る、淑女の礼だ。
この任務に対する付け焼き刃の知識だろうが、まるで違和感がない。
元々奴隷であり、その以前も生きるか死ぬかの瀬戸際にいたからだろう。
なんだかんだ、飲み込みが早く、対応力も人一倍あるのだろう。
美しさ以外浮いている部分はなく、一人のメイドとして完璧に溶け込んでいた。
「いやいやど~も。あのお嬢さん、よかったら今度お食事でも――」
「おいレント。社交の場でどうどうとナンパするな。下品だ」
「つれないな~。ダチなら友人の恋を応援するのは義務だろ?」
「玉砕がわかりきってる恋を応援するメリットがない」
「うぉ~、はっきり言うなお前」
いつになくIQが下がっているレントをスルーし、俺はフロルに向き直った。
「あの。すいません。お手洗いはどこにあるか教えていただいても? 実はさっきから尿意が限界で、漏れそうなんですが」
「お前よく人のこと下品とか言えたな。もう少しマイルドな言い方あっただろ」
「私は別に気にしていないので、構いませんよ。よろしければ、私がご案内しますが?」
フロルは、苦笑しながらそう提案をする。
「いいんですか? すいません」
「あ、お前しれっと二人きりになりやがったな! ズルいぞカイム!」
「んなこと言われてもな。すいませんねメイドさん。連れがうるさくて」
「いえいえ、お気になさらず」
ギャアギャア喚き立てるレントを振りほどき、俺達はダンスホールを出た。
――。
「まさか、メイドに扮していたとはな。驚いた」
「これが一番手っ取り早いかと思ったから」
フロルは「驚かせてごめんね」と言いながら両手を合わせた。
今、俺達は長い廊下の一番奥――二階へ続く階段の下にいた。
ここならば、人目に付く心配は無い。
トイレに行くというのを口実に、俺は彼女と情報交換をする時間を設けた。
幸い、彼女もそれを察して付いてきてくれたようだ。
「首尾はどうだ?」
「上手く従業員に扮して、会場中を回ったから、大体の状況は把握してる。王国側の主賓は全員、それぞれの控え室に護衛付きで待機してるよ」
「そうか。よく調査してくれた」
上出来だ。
彼女には、先に会場に潜入して状況を把握するよう命令を与えていた。
十分にその役割を果たしてくれたようだ。
流石は、俺の腹心といったところか。
「予定通り、俺は彼女のところへ行く。正確な居場所と護衛の配置・人数はわかるか?」
「もちろん。正直、あなたに教えたくないって思ってる自分がいるけどね」
「? どうしてだ」
「だって、今回の主役は彼女ってことでしょ? 王子様に助けて貰うのは、私の専売特許なのに」
「ひょっとして嫉妬してる?」
「……さあ?」
フロルは、ぷいっとそっぽを向く。
ああこれは――この作戦の鍵となる彼女に、嫉妬しているとしか思えない。
「だとしたらお前はラッキーだな。俺は、庇護対象のお嬢さまとのラブロマンスより、戦いの中で絆を深め合った相棒との純愛ストーリーの方が好きだから」
「そっか。じゃあ、証拠として私の頭を撫でて」
「……へ?」
待て。
なんでそうなる!
あまりに脈絡のない要求に、俺はたじろいで――
「ねぇ、撫でてよ。彼女より私の方が大切なんでしょ」
「いや、まあ……そりゃなぁ」
俺は、一応周りに人がいないことを確認してからフロルの頭に手を置いた。
サラサラとした髪と、手触りの良いカチューシャが掌に触れる。
フロルは、気持ちよさそうに目を細め、されるがままにしていた。
しばらくの後、フロルは俺の手を掴み、そのまま自身の頬に持って行く。
シルクのようなほっぺたが、俺の手に触れた。
「~~っ!?」
前世で恋愛フラグなんて立ったことがない俺は、それはもうたじたじだった。
「ねぇ、カイムさん」
「は、はい!」
思わず声が上ずってしまった俺の手を離し、フロルは熱っぽく潤んだ瞳で俺を見上げた。
「私、あなたのことを他の誰よりも信じてるから。彼女を助けて、四天王を倒して、あなたの望む未来についていく。だから――今日だけは、王子様に助けられる彼女を、ヒロインとして認めてあげる」
「は、はぁ……」
「だから、どうか彼女を助けてね。主様」
「お、おう。もちろん」
俺は、とりあえず頷いておいた。
なんだろう。
フロルって実は、めっちゃ愛が重いタイプなんだろうか?
そういや、レイズにあっさり騙され心酔していたっけ。
人を信じやすく、かつ信じた人には心の全てを捧げて貢ぐタイプか。
これはあれだ。ワルい男とくっついたら、取り返しがつかないくらい不幸になるやつだ。
俺がもっとしっかりしなければ。
思わぬところで、リーダーとしての責任の重さを実感させられたのであった。
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