いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、ラスボスを葬ってやります!

果 一

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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第33話 カイムの様子が何かおかしい

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《レント視点》

「お、やっと帰って来たか。おせぇぞ」



 午前十一時十五分。

 やけに長いトイレから帰ってきたカイムに、俺は駆け寄った。



「随分と時間がかかったじゃねぇか。ひょっとして、小じゃなくて大きい方か?」



 俺は、いつものノリでカイムに接する。

 周りにいるお偉いさん達が眉をひそめるのが見て取れるが、そんなこと気にしない。

 

「……」



 カイムは、黙ったまま首を縦に振る。

 

「? おいおい随分と塩対応だな。てっきりまた突っ込まれるんじゃないかと覚悟してたんだが」

「……」

「そういや、あの可愛いメイドはどうした? トイレまで案内して貰ったんだろ? まだ帰って来てねぇようだが……」

「…………」



 カイムはやはり無言。

 ここまでシカトされると、親友としては少しイラッとくるというものだ。



「おい。何か答えろよ。この距離で無視はねぇだろーが」



 俺はカイムの方に詰め寄り、睨みつける。

 だが、カイムはまるで臆した様子もなく、涼しげな表情のまま四つ折りにした紙を手渡してきた。



「……なんだこれ」



 俺は、渡された紙を開く。

 そこに書かれていたのは。



【じきこのパーティーも始まる。余計な話はするなというツォーン様の指示だ。悪いが、私語は謹んでくれ】

「っ!」



 俺は、カイムの方を見る。

 カイムは「そういうことだ」とでも言うように小さく頷くと、俺の横を通り過ぎてダンスホールの奥へ行ってしまった。



「なんだあいつ。それくらい、口答で伝えてくれたっていいだろうがよ」



 俺は、開いた紙をくしゃくしゃに丸めて、ポケットに突っ込むのだった。



△▼△▼△▼



 ――パーティー開始まで、残り数分。



 なぜかさっきまでいた桃色のメイドがいないことだけは気になったが、その他は特に気になることもなく、粛々とパーティーの準備が進んだ。



 ダンスホールの端にずらりと並んだ丸テーブルに、見たこともないような料理がずらりと並び、壁に掛けられたろうそくが火の魔法によって一斉に灯る。



 王国側の重鎮も公国側の重鎮に扮した《黒の皚鳥》構成員も、次々ダンスホールに姿を見せ、広いダンスホールが多くの人間で埋まっていく。

 

 王国と公国の参加者の人数は、合わせてざっと60人。

 それプラス、王国側は騎士団の面々が護衛としていたるところに待機している。

 ここから見えるだけで、少なくとも20人。

 もちろん、俺達公国側に何の護衛もいないというのはおかしいので、うちの組織の息がかかっているであろう剣士団の面々が総勢25人。



 さらに、忙しそうにホールと外を行き来しているメイド達が10人ほど。



 60人くらい+20人くらい+25人+10人ほど、は……計算が面倒くさいから、たくさんということでいいだろう。

 とにかく、それだけの数が広いダンスホールに集結している。



 いよいよ、《友好舞踏会エクセレント・パーティー》が始まるんだ。

 その実感が湧いてきたとき、にわかに辺りが騒がしくなった。



「あれは、レーネ王女!」

「いつ見てもお美しい」

「お付きの女性は……勇者アリスか!」



 会場全体から歓声が沸き上がる。

 見れば、二股に分かれた大きな階段の先――二階の豪奢な観覧席に続く扉から、二人の美女が姿を現していた。



 一人は、長い金髪と海より深い青の瞳を持つ少女。

 華奢な身体を包む薄青色のドレスが、彼女の気品ある美しさを引き立てている。

 資料で見たことがある。

 彼女が、ブルガス王国の第一王女だ。



 そしてもう一人、彼女の横に並ぶ背高の女性がいた。

 薄緑色の髪と、理知的な瞳を持つ彼女は――たぶん勇者アリスだ。

 たまにカイムが、勇者アリスは主人公で~などとわけのわからない話をしていたから、名前だけは知っている。

 勇者というからには大層強いのだろう。



 そんな二人が、護衛と見られる騎士団の男達二人を引き連れ、二階の特別席に到着した。

 そして――王女の登場で湧いた会場内へ向け、レーネ王女は「皆さん、ご静粛に」と幼くも覇気のある声色で呼びかけた。



 瞬間、水を打ったように会場全体がしんと静まりかえる。

 自身に向けられる視線を一身に集め、レーネ王女は言葉を続けた。



「本日は、《友好舞踏会エクセレント・パーティー》にお集まりいただき、ありがとうございます。我等がブルガス王国と貴公らアリクレース公国。その両国が手を取り合う架け橋とならんことを、私は心より願っています」



 ――とそのとき。



 ボーン、ボーン、ボーン。

 壁に掛けた振り子時計が、重厚な音を奏でる。

 正午十二時。《友好舞踏会エクセレント・パーティー》開催の時間だ。



「心ゆくまで楽しみましょう。ここに、《友好舞踏会エクセレント・パーティー》の開催を、宣言します」



 王女が一礼したとたん、会場中に拍手が響き渡る。

 鳴り止まない拍手と、時計の音が荘厳に響く中、遂に《友好舞踏会エクセレント・パーティー》は幕を開けた。

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