いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、ラスボスを葬ってやります!

果 一

文字の大きさ
34 / 59
第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第34話 《友好舞踏会》開幕

しおりを挟む
《レント視点》

「しっかし、随分とまあ張り切ったパーティーだな」



 俺は、周りを見渡しつつ呟いた。



 ダンスホールの中央では、王国の人間と公国の人間が互いに手を取り合い、社交ダンスに興じている。

 流れている音楽は――曲名は知らないが、美しいワルツだ。



 この場に楽団らしき影は見えないから、おそらく一流の音楽団に演奏して貰ったものを、魔法でレコード化して流しているのだろう。

 

 三拍子のリズムが小気味よくテンポを刻み、それに合わせて男女が優雅に舞う。

 俺には社交ダンスの経験がないから、あの中には混じれないが――もしダンスが踊れたなら真っ先に飛び込んでいた。



 なにせ……合法で女子と抱き合えるのだから!

 こんなチャンスは、俺のようなあぶれ者には一切やって来ない!!



「とはいえ、マジでダンスのダの字も知らないから……無理して参加しても恥を搔くだけなんだよな」



 結論。

 俺は目の前に楽園エデンがあるにも関わらず、入場券を持っていない哀れな男である。

 体裁など気にせず突っ込む。



 そういう選択肢も無くはないが……男はいつだって格好付けていたいのである。



「そういや、カイムのヤツは……?」



 俺は、辺りを見まわす。

 さっきダンスホールの奥へ歩いて行ったのを見届けてから姿を見ていないが―――



「……いた」



 ダンスホールの端。

 丸テーブルに並べられた豪勢なご馳走を、片っ端から平らげている。

 まあ、あんな豪勢なご馳走めったに食べられるものじゃないから、気持ちはわかる。

 ただ――



「あれ、本当にカイムか?」



 なんというか、カイムにしてはやけに遠慮の無い食いつきだ。

 他の人が見ても特に気にしないだろうが、半年以上の付き合いを持つ俺だから気付いた、ほんの少しの違和感。



 俺は、反射的にカイムの方へ行こうとして――



『作戦開始はパーティー終了の午後五時。レーネ王女が閉会の言葉を言い終わった瞬間、私は状況を開始する。貴様ら雑兵は、次の指示があるまで動くな』



 頭の中に、直接流れ込む指示。

 不意に、寒気が背筋を駆け上る。

 反射的に振り返った俺の後ろには、正装に身を包んだツォーン様が立っていた。



 姿を気取られないためか、正装に不釣り合いなフードを目深にかぶり、頬には黒い線を描いている。

 そして、何よりおそろしいのが――こうして真後ろに立たれるまで、ツォーン様の気配を感じなかったことだ。



 思えば、この会場に来てから一度もツォーン様の姿を認識していなかった。

 まるで、大河に水が流れるがごとく。

 そこに平然とあるだけで、誰も意図して認識しない。



 《水龍》の異名を持つこの男は、水を思いのままに操る。

 そして――自身もまた、空気中に存在している水分がごとく、人の認識の外に身を置くことができるのだ。



 四天王一、暗殺に長けた男。

 そんな評判も流れている。



 俺は、ごくりと喉を鳴らし――



「なっ……!」



 次の瞬間、驚愕に目を見開いた。

 目を逸らしたわけじゃない。

 瞬きをしたわけでもない。

 

 ついさっきまで確かにそこにいたのに――いつの間にか、俺の前から姿を消していた。



「マジか……あれが、四天王」



 攻撃を放って見せたわけでもない。

 ただ、そこにいるだけで圧倒的な力の差を見せつけられた。

 俺は、狐に摘ままれたような気分のままカイムの方を向いて――



 カイムの背後に、ツォーン様が立っている……ような気がした。

 気がした。というのは当然、瞬きをした後には既に誰もいなかったからである。

 

 

△▼△▼△▼



 《リーナ視点》



 茂みに隠れて建物の様子を窺っていると、小童こわっぱから連絡が入った。



『リーナ、できたか?』

「ばっちりじゃ。今からおぬしに魔力波長のコードを送る」



 魔力波長のコードというのは、数時間前に小童から渡された水色の玉の、解析と数値化を行ったものだ。

 わしは、脳内の記憶メモリーに刻んだ数値化データを、小童の脳内に直接飛ばした。



『確認した。助かる』

「これしき造作も無いことよ。それよりおぬし、なぜさっきからエコーがかかっておるのじゃ?」

『え? ……ああ、今ちょっと近くに人がいるから、念話で話してるんだ』

「なるほどのう。相手方の状況開始は、昨夜会議で話したように、午後五時ジャストという認識でいいのじゃな?」

『ああ。たった今、確定情報が入った。ツォーン達が行動を起こすのは、王女が閉会の言葉を言い終えたそのタイミングだ』

「了解したのじゃ」

『ツォーンは俺が押さえる。事が起こった後の指揮はお前に一任するが、できるな?』

「相変わらず人使いの荒い男よのう? まあ良かろう。黒影を操れる以上、われ以上に現場指揮に長けた者は、この組織におらぬからな」

『ああ、頼りにしてる。任せたぞ』

「任せておけ」



 そう言って、わしは通信を切った。

 準備は上々。われらの組織が、忌まわしき《黒の皚鳥》の思い描くシナリオの全てを上書きする。



 この作戦は、われ等の華々しい門出となろう。

 ゆっくりと傾いていく西日を見ながら、わしは不敵に笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...