ようこそ、宿屋「お天気うさぎ」へ

果 一

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1泊目 優しい嘘はお嫌いですか?

第15話 空は今日もうさぎ晴れ

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《七海視点》

「……で。結局、告白の結果はどうなったんです?」

 悟くんの思い人が乗った列車が地平線の彼方に消えた頃。
私は駅のホームの一番端に立っている悟くんの元へ歩き、問いかけた。
 悟くんは、列車が消えていった方を見たまま、

「返事は保留にしてもらってる。まあ、ゆい姉からしたら、俺はずっと血の繋がってない弟みたいな感じだっただろうし」
「……それで、いいんですか?」

 野暮なのはわかっているけれど、私は思わずそう問いかけていた。
 好きだと伝えたなら、好きと答えて欲しい。それは、好きになった人が持つべき権利だ。
 なら、悟くんだって、本当は――

「いいんだよ」

 不意に振り向いた悟くんの表情に、私は一瞬気圧される。
 昨夜、宿へやってきたときと同一人物とは思えないくらい、晴れやかな顔をしていて――

「これまでゆい姉がくれた分、ゆい姉を支えて、好きになって貰うよ。今の何もできない俺じゃ、ゆい姉には釣り合わないし」
「そうですか」

 その迷いのない答えに、私はこれ以上のことを言う必要はないと悟り、一歩身を引く。
 と、悟くんのほうがまだ何か言いたげに私の方を見ていた。

「どうされました? 私をじっと見て」
「いや、その……別に」
「流石に1人の女性に告白したあとに別の女性を意識するのはどうかと思いますよ?」
「俺だってそこまでクズじゃないよ!?」

 慌ててツッコんだ悟くんは、「ただ……」と語気を弱める。

「俺1人じゃ、たぶんゆい姉に会えないままだったと思うから……その。背中を押してくれて、ありがとうございました」

 悟くんは恥ずかしそうに頬を掻きつつ、頭を下げる。

「いえ、これが私達の仕事ですからお気になさらず」

 私は、一歩引いたところで私と悟くんのやり取りを見ているオーナーをちらりと振り返りつつ、そう答える。
 これが、宿屋「お天気うさぎ」の仕事だ。

 お客様の、心を晴れやかにする。
 そのための宿。
 だから――

「また、何か思い悩んだときは、是非当宿をご利用ください。従業員一同(2名)、心より歓迎いたします」

 私はエプロンの端を摘まんで、小さく礼をする。
 
「ありがとう。また、いつか……」

 悟くんは、名残惜しそうに笑いながらそう言って私の側を離れる。
 当宿をチェックメイトして、ホームに立っている彼の母親のところへ向かうのだ。

「あ、そうでしたお客様」

 私は悟くんを呼び止める。
 振り向いて小首を傾げる悟くんへ、

「宿泊料金9400円、お支払いお願いいたします」
「え!? 金とんの!?」

 そりゃあ、商売だしお金はとります。
 ただ、うちの宿は少し特殊で。本人の意図せぬままにお客さんがやって来ることの方が多い。

 だから私は、にっこりと微笑んで、

「冗談です。またのご利用を」

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