ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

文字の大きさ
8 / 61
第1章 最初の《契約》、竜の少女

第8話 目覚めの衝撃

しおりを挟む
《絆視点》

 ――闇の奥に沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。
 目を開けると、そこは見慣れた天井だった。

 なんてことはない、僕が住んでいるアパートの寝室である。
 締め切ったカーテンの隙間から白い光が差し込んでいる辺り、もう朝なのだろう。
 いつも通りの見慣れた目覚めの光景。しかし、胡乱な意識の中でどうにも違和感を覚えていた。

「あれ……僕、昨日いつ寝たっけ?」

 どうにも記憶が曖昧だ。
 ただし、少なくとも、ダンジョンに飲み込まれてSランクのモンスターと戦った。その記憶が嘘では無いことはわかっている。
 だって、体中が痛いし、昨日起きたことの一部始終は心の奥底に刻まれているから、あれが夢だったなんてことは有り得ない。

 でも――あの後。“ホッピング・デーモン”を倒した後は、どうなったんだっけ?
 その後の記憶が欠けていて、いつ家に帰ってきたかも覚えていない。

「まあ、なんでもいいか。もう一眠り――」

 二度寝しようと、寝返りを打った瞬間――ふにょんと、何かに顔が埋まった。

 ……ん? なんだこの感触。こんな枕買ってたかな?

「あんっ。まったく、旦那様は甘えん坊じゃのう?」
「っ!」

 枕が喋った!? ていうか、この声はまさか――

 眠気が一瞬で吹っ飛び、僕は慌てて飛び退く。
 その瞬間、枕の正体がわかった。
 萌えるような赤い髪と、艶のある黒い角を持つ小柄な少女。
 その少女が、可愛らしいデフォルメされた炎のイラストが描かれた寝間着を着て、僕の隣で寝ていたのだ。
 しかも、僕が顔を埋めたのは、彼女の慎ましやかな胸で――

「なっ、しゃ、シャル!? ――って、うわ!」

 慌てて飛び退き過ぎたせいで、僕はベッドから転がり落ちてしまう。

「まったく。さっきまでぐっすりだったというのに、起きた瞬間騒がしいヤツじゃのう」

 騒がしくせざるを得ない元凶の少女は、僕をあきれ顔で見下ろしつつ、眠そうに欠伸をするのだった。

――。

 なぜか俺の家にいたドラゴンの少女――シャル。
 彼女の口から語られたのは、僕がダンジョンの深層で気を失った後のことだった。
 どうやら僕は、極限状態から解放された事による安堵から、倒れてしまったみたいだ。

 普通、ダンジョンで気を失ったあと、ダンジョンの外に放り出されるなどという機能はない。
 それなのに僕の身体が自宅に戻っていたのは、ひとえにシャルが運んでくれたからだ。
 なんでも、僕と《契約》したことにより僕がどこからやって来たのかをなんとなく認識することに成功。僕がやって来た押し入れの奥の扉から深層に繋がる空間の歪みを発見し、僕をここに連れてきてくれたのだと言う。

 もしあのまま倒れていたら、たちまち強力なモンスターに殺されていただろうから、彼女には感謝してもしきれない。
 よって――

「ふっふっふ。妾をあがたてまつるがよいぞ!」

 ふんぞり返りながら、朝ご飯として焼いた食パンを豪快に齧るシャル。
 何かお礼をさせて欲しいと俺が言うと、「そうじゃな。我は腹ぺこじゃ。ご飯を所望する!」

 と言っていたので、お礼として朝ご飯を献上しているのである。
 ていうか、“最強種”って普通の人間のご飯食べるんだな。
 
「美味しい?」
「うむ、実に美味じゃ! 妾に対する感謝の気持ちが、ひしひしと伝わってくるぞ!」

 そうか。食パンで機嫌をとれるなら、随分と安上がりなドラゴンさんだ。
それはそうと、どうしても気になることがある。

「あのさ、少し気になることがあるんだけど」
「なんじゃ、なんでも言ってみろ」
「モンスターって、僕達の世界に出てこられないよね?」

 そう。それが、さっきから気になっていたことだ。
 ダンジョンの構造上、なぜかモンスターはダンジョンの中でしか生まれないし、生きられない。
 これは、ダンジョンから出たら太陽に焼かれて死滅する――みたいな問題ではなく、ダンジョンの出入り口にバリアでも張ってあるかのように、出ることができないのだ。
 
 だからこそ、僕達ダンジョン冒険者は安心して日常生活を送ることができるわけなのだが――例外が今、俺の前にいるのだ。ハムスターみたいに、口いっぱいに朝ご飯を頬張っている、ドラゴンが。

「うむ、それなんじゃがな」

 口に含んだ朝ご飯を、ごきゅんと凄まじい音を鳴らして一気に飲み込んだシャルは、得意げに答えた。

「人間である旦那様と《契約》したことで、旦那様の世界と行き来できるようになったみたいじゃ。妾も驚きじゃが、旦那様の世界に来たことで何か力が弱体化している、などということもない。その気になれば、ビル? とやらを丸ごと焼き尽くすことも――」
「やめてくださいお願いします」

 Sランクモンスターを灰燼に帰す一撃を現代社会で放たれたら、世界が崩壊する。

「かっかっか。冗談じゃよ」

 師と胃歯を見せて笑いながら、シャルはトーストにのせる用に出したハムをそのまま頬張る。一パック4枚丸ごと食べるのはやめてくれ、明日の分がなくなる。

 とにかく、この第一級危険生物が家にいることは、隠さないとまずそうだ。

「ていうか、昨日から聞きたかったんだけど、その「旦那様」って何なの?」
「ん? なんじゃ今更。そんなの、言葉通りの意味に決まっておろう?」

 シャルはきょとんと首を傾げつつ、何気ない風に言った。
 ――とんでもない一言を。

「おぬしを、生涯の伴侶はんりょと見定めた、ということじゃ」
「はぁ……って、はぁああああああああああっ!?」
 
 僕は、思わず素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...