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第1章 最初の《契約》、竜の少女

第8話 目覚めの衝撃

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《絆視点》

 ――闇の奥に沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。
 目を開けると、そこは見慣れた天井だった。

 なんてことはない、僕が住んでいるアパートの寝室である。
 締め切ったカーテンの隙間から白い光が差し込んでいる辺り、もう朝なのだろう。
 いつも通りの見慣れた目覚めの光景。しかし、胡乱な意識の中でどうにも違和感を覚えていた。

「あれ……僕、昨日いつ寝たっけ?」

 どうにも記憶が曖昧だ。
 ただし、少なくとも、ダンジョンに飲み込まれてSランクのモンスターと戦った。その記憶が嘘では無いことはわかっている。
 だって、体中が痛いし、昨日起きたことの一部始終は心の奥底に刻まれているから、あれが夢だったなんてことは有り得ない。

 でも――あの後。“ホッピング・デーモン”を倒した後は、どうなったんだっけ?
 その後の記憶が欠けていて、いつ家に帰ってきたかも覚えていない。

「まあ、なんでもいいか。もう一眠り――」

 二度寝しようと、寝返りを打った瞬間――ふにょんと、何かに顔が埋まった。

 ……ん? なんだこの感触。こんな枕買ってたかな?

「あんっ。まったく、旦那様は甘えん坊じゃのう?」
「っ!」

 枕が喋った!? ていうか、この声はまさか――

 眠気が一瞬で吹っ飛び、僕は慌てて飛び退く。
 その瞬間、枕の正体がわかった。
 萌えるような赤い髪と、艶のある黒い角を持つ小柄な少女。
 その少女が、可愛らしいデフォルメされた炎のイラストが描かれた寝間着を着て、僕の隣で寝ていたのだ。
 しかも、僕が顔を埋めたのは、彼女の慎ましやかな胸で――

「なっ、しゃ、シャル!? ――って、うわ!」

 慌てて飛び退き過ぎたせいで、僕はベッドから転がり落ちてしまう。

「まったく。さっきまでぐっすりだったというのに、起きた瞬間騒がしいヤツじゃのう」

 騒がしくせざるを得ない元凶の少女は、僕をあきれ顔で見下ろしつつ、眠そうに欠伸をするのだった。

――。

 なぜか俺の家にいたドラゴンの少女――シャル。
 彼女の口から語られたのは、僕がダンジョンの深層で気を失った後のことだった。
 どうやら僕は、極限状態から解放された事による安堵から、倒れてしまったみたいだ。

 普通、ダンジョンで気を失ったあと、ダンジョンの外に放り出されるなどという機能はない。
 それなのに僕の身体が自宅に戻っていたのは、ひとえにシャルが運んでくれたからだ。
 なんでも、僕と《契約》したことにより僕がどこからやって来たのかをなんとなく認識することに成功。僕がやって来た押し入れの奥の扉から深層に繋がる空間の歪みを発見し、僕をここに連れてきてくれたのだと言う。

 もしあのまま倒れていたら、たちまち強力なモンスターに殺されていただろうから、彼女には感謝してもしきれない。
 よって――

「ふっふっふ。妾をあがたてまつるがよいぞ!」

 ふんぞり返りながら、朝ご飯として焼いた食パンを豪快に齧るシャル。
 何かお礼をさせて欲しいと俺が言うと、「そうじゃな。我は腹ぺこじゃ。ご飯を所望する!」

 と言っていたので、お礼として朝ご飯を献上しているのである。
 ていうか、“最強種”って普通の人間のご飯食べるんだな。
 
「美味しい?」
「うむ、実に美味じゃ! 妾に対する感謝の気持ちが、ひしひしと伝わってくるぞ!」

 そうか。食パンで機嫌をとれるなら、随分と安上がりなドラゴンさんだ。
それはそうと、どうしても気になることがある。

「あのさ、少し気になることがあるんだけど」
「なんじゃ、なんでも言ってみろ」
「モンスターって、僕達の世界に出てこられないよね?」

 そう。それが、さっきから気になっていたことだ。
 ダンジョンの構造上、なぜかモンスターはダンジョンの中でしか生まれないし、生きられない。
 これは、ダンジョンから出たら太陽に焼かれて死滅する――みたいな問題ではなく、ダンジョンの出入り口にバリアでも張ってあるかのように、出ることができないのだ。
 
 だからこそ、僕達ダンジョン冒険者は安心して日常生活を送ることができるわけなのだが――例外が今、俺の前にいるのだ。ハムスターみたいに、口いっぱいに朝ご飯を頬張っている、ドラゴンが。

「うむ、それなんじゃがな」

 口に含んだ朝ご飯を、ごきゅんと凄まじい音を鳴らして一気に飲み込んだシャルは、得意げに答えた。

「人間である旦那様と《契約》したことで、旦那様の世界と行き来できるようになったみたいじゃ。妾も驚きじゃが、旦那様の世界に来たことで何か力が弱体化している、などということもない。その気になれば、ビル? とやらを丸ごと焼き尽くすことも――」
「やめてくださいお願いします」

 Sランクモンスターを灰燼に帰す一撃を現代社会で放たれたら、世界が崩壊する。

「かっかっか。冗談じゃよ」

 師と胃歯を見せて笑いながら、シャルはトーストにのせる用に出したハムをそのまま頬張る。一パック4枚丸ごと食べるのはやめてくれ、明日の分がなくなる。

 とにかく、この第一級危険生物が家にいることは、隠さないとまずそうだ。

「ていうか、昨日から聞きたかったんだけど、その「旦那様」って何なの?」
「ん? なんじゃ今更。そんなの、言葉通りの意味に決まっておろう?」

 シャルはきょとんと首を傾げつつ、何気ない風に言った。
 ――とんでもない一言を。

「おぬしを、生涯の伴侶はんりょと見定めた、ということじゃ」
「はぁ……って、はぁああああああああああっ!?」
 
 僕は、思わず素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。
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