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第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙
第25話 暴走
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『ヒヒィィイインッ!』
嘶きが、ダンジョン全体を振るわせる。
一見すると馬の鳴き声だが、その質は桁違いだった。
声だけで、周囲の壁がガラガラと崩れ去り、“ライト・バグ”の群れが危機を察知して次々と自爆していく。
幸い、僕等の近くにいた“ライト・バグ”はまるで状態異常でも喰らったかのように地面に落ちて行動不能になっているから、爆発に巻き込まれることはなかったが――
「マジか……」
僕は、壁を割って現れたそのモンスターを前に、戦慄していた。
大きさはこの間相対した“キング・サイクロプス”より一回り小さい程度。しかし、感じる威圧感は比べものにならない。
全身のデザインは馬に酷似している。青白い肌に、筋肉質な身体。ブルーメタリックの立派な毛並み。
尻尾は馬というよりも魚の尾ひれに近い。
最強種“ケルピー”。
そして――人魚母の旦那にして、ミリーさんの父親。
「ま、マズいのう。これは!」
僕の隣に並んだシャルが、脂汗を垂らしつつ呟く。
「あ、あなた! 娘は無事よ! 正気に戻って!!」
人魚母が叫ぶが、赤い目を光らせたケルピーの怒りが収まる様子はない。
ダメだ。完全に理性を失って暴走状態に入っているらしい。
娘が危うく殺されかけたことを察したのだから、無理もないのかもしれないが――
「とにかく、なんとかするのじゃ! コヤツに暴れられたら、死者が何人出るかわからぬぞ!!」
シャルが矢継ぎ早に言い、魔力を解放しようとして――
『ヒヒィイインッ!』
再びケルピーが嘶く。と同時に、ケルピーの額に巨大な魔法陣が展開され、バチバチと稲妻が弾ける。
そして――極大の雷が放たれた。
世界が、明滅する。
耳元で爆竹を鳴らしたような爆音が脳を揺らし、いくつもの雷撃が弾ける。
その稲妻はダンジョン内を駆け抜け、地面をことごとく舐め上げた。
地面も、壁も、大地震が来たかのようにグラグラと揺れ、地面や天井が砕ける。
「なっ!」
僕は、明滅する視界の中で見た。
僕のすぐ横の地面が崩落し、シャルと人魚母が真っ暗な穴に落ちていくのを。
「シャル!」
「旦那様! 今、そちらへ飛んで――」
シャルが翼を広げたが、その瞬間、崩落してきた天井が穴を塞いでしまう。
「シャルッ!!」
必至に叫ぶが、天井の分厚い岩で塞がれた穴の向こうから、声が返ってくることはなかった。
そして――雷鳴が止む。
黒い煙が晴れたこの場所には、恐怖からか気を失って股間を濡らしているケンちゃんと、ミリーさん。そして、僕だけが残されていた。
「嘘……でしょ?」
全身を駆け巡る怖気《おぞけ》。
目の前には、無傷のケルピー。
頼みの綱のシャルはこの場にいないし、強力な“最強種”である人魚母も奈落の底に消えていった。
残されたのは、中途半端な力しかない僕と、箱入り娘のミリーさん。
そして――ケンちゃん……は、恐怖失禁してなくてもどのみち戦力にならないから関係ない。
「この状況、どうしろと?」
理性を失ったケルピーの前に、娘の声が届く――とも思えない。
僕は、ピンチな状況に歯噛みした。
嘶きが、ダンジョン全体を振るわせる。
一見すると馬の鳴き声だが、その質は桁違いだった。
声だけで、周囲の壁がガラガラと崩れ去り、“ライト・バグ”の群れが危機を察知して次々と自爆していく。
幸い、僕等の近くにいた“ライト・バグ”はまるで状態異常でも喰らったかのように地面に落ちて行動不能になっているから、爆発に巻き込まれることはなかったが――
「マジか……」
僕は、壁を割って現れたそのモンスターを前に、戦慄していた。
大きさはこの間相対した“キング・サイクロプス”より一回り小さい程度。しかし、感じる威圧感は比べものにならない。
全身のデザインは馬に酷似している。青白い肌に、筋肉質な身体。ブルーメタリックの立派な毛並み。
尻尾は馬というよりも魚の尾ひれに近い。
最強種“ケルピー”。
そして――人魚母の旦那にして、ミリーさんの父親。
「ま、マズいのう。これは!」
僕の隣に並んだシャルが、脂汗を垂らしつつ呟く。
「あ、あなた! 娘は無事よ! 正気に戻って!!」
人魚母が叫ぶが、赤い目を光らせたケルピーの怒りが収まる様子はない。
ダメだ。完全に理性を失って暴走状態に入っているらしい。
娘が危うく殺されかけたことを察したのだから、無理もないのかもしれないが――
「とにかく、なんとかするのじゃ! コヤツに暴れられたら、死者が何人出るかわからぬぞ!!」
シャルが矢継ぎ早に言い、魔力を解放しようとして――
『ヒヒィイインッ!』
再びケルピーが嘶く。と同時に、ケルピーの額に巨大な魔法陣が展開され、バチバチと稲妻が弾ける。
そして――極大の雷が放たれた。
世界が、明滅する。
耳元で爆竹を鳴らしたような爆音が脳を揺らし、いくつもの雷撃が弾ける。
その稲妻はダンジョン内を駆け抜け、地面をことごとく舐め上げた。
地面も、壁も、大地震が来たかのようにグラグラと揺れ、地面や天井が砕ける。
「なっ!」
僕は、明滅する視界の中で見た。
僕のすぐ横の地面が崩落し、シャルと人魚母が真っ暗な穴に落ちていくのを。
「シャル!」
「旦那様! 今、そちらへ飛んで――」
シャルが翼を広げたが、その瞬間、崩落してきた天井が穴を塞いでしまう。
「シャルッ!!」
必至に叫ぶが、天井の分厚い岩で塞がれた穴の向こうから、声が返ってくることはなかった。
そして――雷鳴が止む。
黒い煙が晴れたこの場所には、恐怖からか気を失って股間を濡らしているケンちゃんと、ミリーさん。そして、僕だけが残されていた。
「嘘……でしょ?」
全身を駆け巡る怖気《おぞけ》。
目の前には、無傷のケルピー。
頼みの綱のシャルはこの場にいないし、強力な“最強種”である人魚母も奈落の底に消えていった。
残されたのは、中途半端な力しかない僕と、箱入り娘のミリーさん。
そして――ケンちゃん……は、恐怖失禁してなくてもどのみち戦力にならないから関係ない。
「この状況、どうしろと?」
理性を失ったケルピーの前に、娘の声が届く――とも思えない。
僕は、ピンチな状況に歯噛みした。
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