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第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙

第27話 ミリーの覚醒

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《三人称視点》

「あぐっ!」

 宙を泳いだミリーの身体が、勢いよく地面にぶつかる。
 稲妻が絆を貫いた衝撃で、絆はミリーを離してしまったのだ。

 よろよろと起き上がったミリーは、思わず息を飲む。
 ――絶望的な光景だった。
 堅牢なダンジョンの壁や天井はいくつものクレーターを刻んでボロボロに崩れ、稲妻により焼け焦げている。

 そして、暴走して我を失ったケルピーは、未だ健在。正気に戻る気配もない。
 そんな父の目の前には、ミリーを庇ってボロボロになった名も知らぬ少年がいる。

「私の、せいだ……」

 ミリーは、震える声でそう呟いた。

 自分の娘も傷つけようとしている本末転倒な状況だが、その理不尽を嘆いたところでどうしようもない。
 なにより、ミリーは自分に危険が迫れば怒りっぽいケルピーである父が大暴れすることは知っていた。

 下級のモンスターに石を投げられ、ちょっと怪我をしただけで、父はそのモンスターを巣ごと灰燼に帰したからだ。
 それが今回は、明確な殺意を持って冒険者に危うく殺されそうになった。そんな状況であれば、こうなってしまうことは簡単に想像がつく。

 だから――

「逃げてください! やっぱりこうなったのは私のせいなんです! あなたが傷付く必要なんてない! これは私が招いた――」
「何度も言ってる! 君は何も悪くないんだ!」

 罪悪感に押し潰されそうになっていたミリーに、しかし少年は力強く否定する。
 ボロボロになり、今日初めて出会ったミリーのために命をかけて戦ってくれた人が。

「この状況は絶対なんとかするから、だから君は何も心配しなくていい!」

 今にも倒れそうになりながら、必至に声を張り上げている。
 そんな、底抜けにお人好しの背中が、すごく格好良く思えて。
 だからこそ、心臓を握りつぶすほどに苦しくなる。

 もう、あと一撃でも喰らえば命すら危ない状況だというのに、なんの関わりもないミリーをこれ以上悲しませないように戦う少年のことを思うと、どうしようもない自己嫌悪に陥る。

(私に、もっと力があれば!)

 未だに、まともに起動すらできない固有スキル。
 それが酷くもどかしい。自分は、誇り高き“最強種”のはずなのに。

「お父さんもうやめて! 私は生きてる! その人に助けて貰って生きてるの!! だからやめて! その人だけは殺さないで! お願いッ!」

 ミリーは喉が割れんばかりに叫ぶ。
 そんな叫びも虚しく、ケルピーは絆へ向けて一歩踏み出して――

『ヒヒィイイイイイインッ!』

 高く嘶き、その口に破壊の光を溜めていく。
 先程、絆を穿った雷魔法だ。
 あれを喰らえば、絆はおそらく――

「やめて! お願いだからやめてよぉおおおお!」

 ミリーの叫びは届かない。
 ケルピーの口の正面に展開された魔法陣から、極太の稲妻が放たれ――

「いやぁああああああああああああッ!」

 ミリーの瞳から雫が散り、乾いた地面を叩いた――その刹那。
 小川の水が、叫びに応じた。
 生き物のようにうねり、一直線に稲妻と絆の間に滑り込む。

 水の塊は破壊の光から絆を守り切り、彼の周囲に浮いていた。

「……え」
「これって」

 ミリーと絆の呆けたような声が重なる。
 《水流操作》。
 今まで起動すらできなかった人魚の固有スキルが、ことここに至り覚醒する。
 
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