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第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙

第28話 起死回生の《契約》

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《絆視点》

 ああ、終わった。
 僕は、目の前に迫り来る終末の光を見ながら、そう思った。
 死の間際、妙に時間がゆっくり流れる感覚。ああ、死ぬんだな。そう思ったとき、僕の脳裏に流れるのは、シャルと共に過ごした時間だった。

 これまで、散々バカにされ、苛められてきた記憶ばかりだ。
 いいことなんて、一つもありはしなかった。そう思っていたのに――

 死にたく、ないな。

 あの子を残して逝くのは嫌だと思った。
 あの、どうしようもなくバカで、ウザくて、でも心優しい女の子を残して死ぬなんて。
 それに、酷く遠くに聞こえるミリーさんの声。心配してくれているのがわかった。こんな、なんの力もない僕を、本気で心配してくれている。

 それが、どうしようもなく嬉しくて、同時に辛くて――

 僕の目前で、凄まじい熱量の稲妻が弾ける。
 それが荒波となって、僕を飲み込もうとして――
 
「いやぁああああああああああああッ!」
 
 刹那、少女の願いに奇跡が答える。
 僕と稲妻を隔てるように、水のドームが形成される。半透明の膜は、僕を守る盾となり、雷の猛威を受け付けない。

「……え」

 横を見れば、泣きはらした顔のミリーさん自身が、呆けたような顔を浮かべていた。

「これって」

 間違いない。
 “最強種”人魚の持つ固有スキル《水流操作》の力だ。
 この土壇場で、彼女のそれが解放されたのだ。

「絆さん!」

 空中を泳ぐように駆け寄ってくるミリーさん。

「ミリーさん! ありがとう、君のお陰で僕は――」

 だが、僕の言葉は最後まで続かなかった。
 お礼を言おうとした僕の唇に、柔らかい何かが触れる。
 鼻腔をくすぐる甘い香り。

 一瞬、頭が真っ白になる。
 勢いよく僕に抱きついてきたミリーさんが、そのまま口づけをしたのだ。

「どうして今まで、自分の力が解放されなかったのか……今、やっとわかりました」

 唇を離した少女は、そう言ってはにかむ。
 彼女自身の流す涙もまた、権能によって操られるように虹色の輝きを放ちながら流れ、僕と彼女を包む結界へと吸い込まれていく。

「命をかけて恐怖を脱するための覚悟が。自分の意志で力を使う覚悟がなかったからです」
「ミリーさん……」
「でも、あなたに――絆さんに教えてもらいました。自分の力の意味と、その使い方を。だから、私の前からいなくならないでください!」

 キス――即ち、契約の証。
 かけがえのない、絆の証明。
 少女の願いに応えるように、迅速に身体の中で変化が起こる。

“固有スキル《契約》の権能への接吻せっぷんによる干渉あり。これによって”最強種“人魚との契約を確認。基礎ステータスが大幅に向上。ミリーの固有スキルと魔法が使用可能になりました。”

 そんな音声と共に、ドクンと心臓が高く波打つ。
 レベルが上がったわけではない。しかし、全身に力が漲る感覚。

――

名前:神結絆
種族:限り無く人間に近い何か
 性別:男
 レベル:21

 HP(体力):4290→24000
 MP(魔力):2990→12110
 STR(攻撃力):550→2600
 DEF(防御力):420→2050
 DEX(命中):490→2460
 AGI(敏捷):1960→9990
 LUK(運):460→2090

 魔法:《ファイア・ボール》《バーニング・ブレス》《ウォーター・ボール》NEW!
 固有スキル:《契約》《龍鱗》《龍翼りゅうよく》《龍之鉤爪ドラゴン・クロー》《透視龍眼ドラゴン・アイ》《水流操作》NEW! 《蠱惑之美声ローレライ
 所持アイテム:――
 称号:ドラゴンの夫・愛妻家・人魚姫の騎士

――

 ステータスは、シャルと契約したときと同じく数倍近くに跳ね上がった。
 種族に関してツッコミどころしかないが、今はそんなの知らない。うん、僕は何も見ていない。

『ヒヒィイイイインッ!』

 稲妻を纏わせたケルピーが、高く嘶く。
 自分の娘とどこの馬の骨とも知らない小僧がキスをしたからだろう。理性がないはずなのに、先程よりも恐ろしい力を解き放っている。

「すごい力だね……」
「ごめんなさい。お父さんが暴走して……こうなったらもう、私1人では、止められそうにないです」

 申し訳なさそうにミリーさんが言う。

「わかってるよ。2人でやろうか」

 僕は、ミリーさんの手をとってそう告げる。

「っ! はいっ!」

 ミリーさんは顔を赤らめ、勢いよく頷いた。
 さあ、本当の意味での反撃開始だ。
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