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第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙
第29話 決着の刻
しおりを挟む『ヒヒィイイイイイインッ!』
大気を震撼させる嘶きと共に、超高威力の稲妻が弾ける。
頑丈なはずのダンジョンは、その猛威に耐えきれず次々と崩壊していく。このままでは、ダンジョンが内側から崩壊してもなんら不思議ではない。
“最強種”を“最強種”たらしめるケルピーの攻撃。
しかし――
「やあっ!」
ミリーさんが、気迫と共に水を操る。
側を流れる川から大量の水が供給され、雷撃から僕達を護る盾となる。
「今です、絆さん!」
「ああ!」
水の盾の背後から飛び出し、《竜翼》を羽ばたかせて一気に接近する。
と、雷がダメなら今度は得意の水攻撃と言わんばかりに、水の礫つぶてを無数に放ってきた。
「き、絆さん!」
「大丈夫! ……ぶつけ本番だけど、必ず成功させる! 《水流操作》!」
僕は、気合いと共に権能を起動する。
――成功するという、確信があった。僕にはその才能があるとか、そういう自惚れではない。
ただ、命がけでミリーを助け、そして、すぐ側で彼女の覚悟と覚醒を目の当たりにしていたから。
彼女の叶えた奇跡に触発された今、不可能なんてものは存在しない。
刹那、僕の意志に応じて、川の水が生き物の如くうごめく。
それらもまた、虹色の輝きを含んだ水の礫となり、ケルピーの放つ水の礫と真っ向から衝突、相殺する。
「いけぇえええええええ!」
全ての礫を叩き落とし、更に肉薄していく。
荒れ狂う雷はすべて、ミリーさんが《水流操作》で無効化してくれている。相手の水攻撃も、僕の水攻撃で無効化している。
あとは、このいろんな意味で親バカな最強種の目を覚ますのみ。
『ヒュォオオオオオオオオオッ!』
喉の奥から絞り出すような声と共に、真正面に迫った僕を見据えるケルピー。
大きく開いた口の先端に魔法陣が生まれる。水色と黄金色が混ざった、恐ろしく高度な魔法陣だ。
「水と雷の、複合魔法!?」
今までにない魔力の昂ぶり。
間違いなく、このバカ最強種の放てる最強にして最大の必殺技。こんなのを放たれれば、ダンジョンにどれほどの被害が出るか想像も付かない。
――無理だ。
そう、思っていたと思う。昔の、ちっぽけで臆病な自分なら。
いろんなものを見てきた。
こんなちっぽけな人間1人を助けるために、身体を張ったドラゴンの少女を。
自分自身と向きあい、殻を破った人魚の少女を。
なら、今度は――
「僕が見せる番だ!」
――起動。《バーニング・ブレス》。
ドラゴンのみが放つことのできる、最強の火属性魔法。
今この場にはいないけど。
確かに、シャルとの絆を感じさせるその魔法を、迷いなく最大威力で解き放つ。
「いっけぇえええええええッ!」
刹那、お互いの顔の正面に展開された積層型魔法陣から、魔力の奔流が解き放たれた。
紫電纏う水の柱と、全てを灰燼に帰す紅炎が、真っ向から衝突する。
「っぁあああああああああああっ!」
おそらく、ミリーさんとの契約で底力が上がっていなければ、一瞬で押し負けていただろう。
人間をやめかけているステータスで、尚拮抗。
余波だけで周囲の壁や天井が吹き飛んでいく、そんな中で。
少しずつ、僕の攻撃がケルピーの魔法を押し返し、推し込み、そして――ついに、攻撃が届く。
『ヒィイイイイイインッ!?』
絶叫と共に炎に包まれるケルピーの身体。
その巨体がぐらりと傾ぎ、ゆっくりと倒れていく。
「はぁっ……はぁっ……か、勝った」
肩で息をしつつ、僕は地面に倒れ伏すケルピーを見つける。
と、不意に視界が霞んだ。限界を超えて身体を酷使したからだろう。危機が去ったことで、安心したのも大きい。
意識が暗転し、重力に従って身体が落ちていく。
「絆さん!」
驚いたようなミリーの声が聞こえて、不意に身体がひんやりと冷たくて、柔らかい何かに包まれる。
先程嗅いだばかりの、女の子特有の甘い香りが意識の向こう側で香っている
ような気がして――
「本当に、ありがとうございます。絆さん……」
そんな、子守歌を歌うような優しげな声が、遠くで聞こえたような――そんな気がした。
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