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第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙
第30話 母は強し(物理)
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――沈んでいた意識が浮上する。
二日連続でボロッボロになって気を失う羽目になるとは……
そんな風に胡乱な頭で考えながら目を覚ます。
「お? 起きたかの?」
目の前に、少女の安堵したような表情があった。
後頭部に当たる柔らかい感触。どうやら、僕は膝枕をされているらしかった。
「……シャル」
「おおそうじゃぞ。旦那様の愛する妾じゃ」
そう言ってはにかむ竜少女ことシャル。
ケルピーの攻撃で下層の方へ落ちていった記憶があるが、どうやら無事だったらしい。一安心といったところか。
「すまぬな。とんだ醜態を曝してしまった」
ふと、シャルが表情を悲痛に歪める。
「シャル?」
「旦那様が命がけで戦っておるというのに、なんの力にもなれなかった。お主の伴侶を名乗っておきながら、妾は自分が情けない。何が最強種のドラゴンじゃ。愛する人1人、戦場に置き去りにして……!」
そう語るシャルの手は、震えていた。
唇を強く噛みしめているからか、自身の八重歯で唇が切れ、血が滴っている。
「気にしなくていいよ」
気付けば僕は、シャルの頭に手を乗せていた。
掌に伝わる、繊細な髪の毛の柔らかな感触。
すごく嬉しかった。
こんなにも僕を思ってくれる存在が身近にいることが。
「僕はずっと、シャルに支えられてる。昨日、僕を守ってくれたときからずっと。君との絆に助けられてる。たとえ、離ればなれになったって、それはずっと変わらない」
「だ、旦那様ぁ……」
シャルは目に涙を溜め、僕のお腹に顔を埋めてきた。
「ぐえっ!」
――もちろん、鋼鉄より硬い角を僕のお腹に思いっきり押しつける形で。
「ちょ、死ぬ! マジで死ぬ!」
そう言いつつも、なんだかんだでされるがままのあたり、僕はもしかしたら彼女に甘いのかもしれない。
――。
「そういえば、ここどこだ?」
改めて僕は、辺りを見まわす。
周囲は滝や湖で固められた、広い階層だ。ここは、深層――73階層。“人魚”が収めている区画だったような――
と、そのとき。
ゾクリと、背筋に冷たいものを感じた。
今までぼんやりとした意識の中にいたから気にしていなかったが、この空間、とんでもない殺気に満ちてるぞ!?
慌てて飛び起きた僕の目の前に飛び込んで来たのは、3人の“最強種”の存在。
あたふたしてる1人は、ミリーさん。もう1人はミリーさんの母親で……もう1人は。
「って、ケルピー!?」
ミリーさんの父親であるケルピーだ。
どうやら理性は戻っているらしい。
しかし、何やら様子が変である。お屋敷の前の石畳みで、正座しているし――しかもあんな小さかったか?
「――で、あなた。自分が何をしたのか……わかっているのよね?」
ゾクリ。
身の毛もよだつほどの殺気が、人魚母からケルピーに向けて放たれている。
表情は満面の笑みだが――目は全く笑っていない。
“最強種”を“最強種”たらしめる、暗黒のオーラが背後に漂っている。
「あ、あの母さん。俺はただ、あの子が苦しめられているのを察知して、助けに――」
「ふ~ん。へ~? それで自分の愛する妻を下層まで突き落とし、挙げ句の果てに自分の娘を泣かせた愚か者は、一体誰だったかしらねぇ?」
「え、いや、あの……」
「それで、まさか「愛する気持ちが暴走しただけだから許してほしい」なんて、寝言をほざいて許されるなんて……思ってないわよねぇ?」
人魚母の声のトーンが、数段下がる。それに伴って滲み出る、漆黒のオーラ。
「は、はい。オモッテナイデス」
更に小さくなっていくケルピーの身体。
「あ、あのお母さん! 私は、その……あ、あんまり気にしてないから、その辺で」
間に入ってなんとか仲裁しようとしているミリーだが、完全にぶち切れた母親にその声は届かない。
「何か、言い残すことはあるかしら?」
「え、えと……俺の骨は、どうか拾っていただけると」
「うふっ、却下♡」
刹那、ズドドドドドドド……ッ!
凄まじい音と共に漆黒の水が数万の槍と化して、ケルピーの身体を四方八方から串刺しにする。
「ひぃいいいいいいいん!」
断末魔に重なる、水の槍が突き刺さる音。
そんな終末じみた光景を前に。
「の、のう旦那様……わ、妾、最強種としてそこそこ強い気でいたのじゃが……ど、どど、どうやら世界を知らなかったようじゃ」
「き、きき、奇遇だね。ぼ、僕も同じ事思ったよ」
僕とシャルは、抱き合ってガタガタと震えるのだった。
二日連続でボロッボロになって気を失う羽目になるとは……
そんな風に胡乱な頭で考えながら目を覚ます。
「お? 起きたかの?」
目の前に、少女の安堵したような表情があった。
後頭部に当たる柔らかい感触。どうやら、僕は膝枕をされているらしかった。
「……シャル」
「おおそうじゃぞ。旦那様の愛する妾じゃ」
そう言ってはにかむ竜少女ことシャル。
ケルピーの攻撃で下層の方へ落ちていった記憶があるが、どうやら無事だったらしい。一安心といったところか。
「すまぬな。とんだ醜態を曝してしまった」
ふと、シャルが表情を悲痛に歪める。
「シャル?」
「旦那様が命がけで戦っておるというのに、なんの力にもなれなかった。お主の伴侶を名乗っておきながら、妾は自分が情けない。何が最強種のドラゴンじゃ。愛する人1人、戦場に置き去りにして……!」
そう語るシャルの手は、震えていた。
唇を強く噛みしめているからか、自身の八重歯で唇が切れ、血が滴っている。
「気にしなくていいよ」
気付けば僕は、シャルの頭に手を乗せていた。
掌に伝わる、繊細な髪の毛の柔らかな感触。
すごく嬉しかった。
こんなにも僕を思ってくれる存在が身近にいることが。
「僕はずっと、シャルに支えられてる。昨日、僕を守ってくれたときからずっと。君との絆に助けられてる。たとえ、離ればなれになったって、それはずっと変わらない」
「だ、旦那様ぁ……」
シャルは目に涙を溜め、僕のお腹に顔を埋めてきた。
「ぐえっ!」
――もちろん、鋼鉄より硬い角を僕のお腹に思いっきり押しつける形で。
「ちょ、死ぬ! マジで死ぬ!」
そう言いつつも、なんだかんだでされるがままのあたり、僕はもしかしたら彼女に甘いのかもしれない。
――。
「そういえば、ここどこだ?」
改めて僕は、辺りを見まわす。
周囲は滝や湖で固められた、広い階層だ。ここは、深層――73階層。“人魚”が収めている区画だったような――
と、そのとき。
ゾクリと、背筋に冷たいものを感じた。
今までぼんやりとした意識の中にいたから気にしていなかったが、この空間、とんでもない殺気に満ちてるぞ!?
慌てて飛び起きた僕の目の前に飛び込んで来たのは、3人の“最強種”の存在。
あたふたしてる1人は、ミリーさん。もう1人はミリーさんの母親で……もう1人は。
「って、ケルピー!?」
ミリーさんの父親であるケルピーだ。
どうやら理性は戻っているらしい。
しかし、何やら様子が変である。お屋敷の前の石畳みで、正座しているし――しかもあんな小さかったか?
「――で、あなた。自分が何をしたのか……わかっているのよね?」
ゾクリ。
身の毛もよだつほどの殺気が、人魚母からケルピーに向けて放たれている。
表情は満面の笑みだが――目は全く笑っていない。
“最強種”を“最強種”たらしめる、暗黒のオーラが背後に漂っている。
「あ、あの母さん。俺はただ、あの子が苦しめられているのを察知して、助けに――」
「ふ~ん。へ~? それで自分の愛する妻を下層まで突き落とし、挙げ句の果てに自分の娘を泣かせた愚か者は、一体誰だったかしらねぇ?」
「え、いや、あの……」
「それで、まさか「愛する気持ちが暴走しただけだから許してほしい」なんて、寝言をほざいて許されるなんて……思ってないわよねぇ?」
人魚母の声のトーンが、数段下がる。それに伴って滲み出る、漆黒のオーラ。
「は、はい。オモッテナイデス」
更に小さくなっていくケルピーの身体。
「あ、あのお母さん! 私は、その……あ、あんまり気にしてないから、その辺で」
間に入ってなんとか仲裁しようとしているミリーだが、完全にぶち切れた母親にその声は届かない。
「何か、言い残すことはあるかしら?」
「え、えと……俺の骨は、どうか拾っていただけると」
「うふっ、却下♡」
刹那、ズドドドドドドド……ッ!
凄まじい音と共に漆黒の水が数万の槍と化して、ケルピーの身体を四方八方から串刺しにする。
「ひぃいいいいいいいん!」
断末魔に重なる、水の槍が突き刺さる音。
そんな終末じみた光景を前に。
「の、のう旦那様……わ、妾、最強種としてそこそこ強い気でいたのじゃが……ど、どど、どうやら世界を知らなかったようじゃ」
「き、きき、奇遇だね。ぼ、僕も同じ事思ったよ」
僕とシャルは、抱き合ってガタガタと震えるのだった。
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