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第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第34話 正妻の座を巡る戦争
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《三人称視点》
――時は遡ること数刻前。
「旦那様、遅いのう」
「そうですね。絆さんがいないと寂しいです」
大人しくアパートのリビングで待っていたシャルとミリーの2人は、そんな風にため息をついていた。
シャルはリビングのカーペットの上でゴロゴロし、ミリーはビニールプールに張った水の上に浮かんでいる。
このビニールプールは、絆が押し入れから引っ張り出したものだ。
「じゃが、そろそろ帰ってくる頃かもしれんのう?」
「どうしてそんなことがわかるんです?」
「なんじゃ、そんなこともわからぬのかの?」
シャルは得意げに鼻を鳴らしながら立ち上がる。
「彼奴が行っている学校とやらは、午後四時には終わるからのう。部活、とやらをやっている生徒はもっと遅いようじゃが、彼奴は帰宅部じゃし」
そう言って、シャルは自慢げにない胸を張って時計を見る。
指し示す時刻は十六時二〇分を回ったあたりだ。
「へ、へぇ……そうなんですか」
ミリーは平静を装いながらも、内心気が気では無かった。
自分が愛して止まない神結絆という少年。その行動パターンを、シャルは細かに把握している。
この際、シャルが親友であるとか、そんなことは二の次だ。
(そ、そういえばシャルは私より絆さんといる期間が長いんでした……その分、私の方が妻として不利なのでは?)
ぐぬぬぬ……と、ミリーは歯噛みする。
実のところ、シャルが絆と知り合ったのは、ミリーと知り合う僅か一日前であり、殆ど差はない。
しかし、ミリーの側はそんなこと知るよしもない。
シャルの方が、絆との距離感では一枚上手と言えるだろう。
が。――再三告げるが、シャルとミリーは、絆と出会ってから過ごした期間にそこまで差があるわけではない。
それなのに、シャルがわざわざマウントをとるのは――
(だ、旦那様に一番近いのは妾なのじゃぞ……! いくら親友と言えど、ここは譲れぬ!)
――シャルの正妻としてのプライド以外のなにものでもなかった。
要するに、彼女は彼女で焦っているのだ。ミリーという、強力なライバルができたことに。
2人とも、絆の妻に立候補したのが2人いることは別に構わないと思っている。
そもそも、彼はどちらかを斬り捨てられるような男ではないことも理解している。これは、優柔不断だからというのもあるが、本人がお人好しすぎることに起因する。
じゃなかったら、彼は妻を自称する女性を2人も居候させるようなことはしない。
しかし、それはそれとして、自分の方が絆に詳しい、愛していると示したい。
そんな思いが先行していたのだ。
「な、なるほど。絆さんがそろそろ帰ってくるのなら、支度をしましょうか」
ミリーは慌てない。
内心の焦りを上手く隠しつつ、極めて冷静に台所へ向かっていく。
「な、何をするつもりじゃ?」
「決まっているでしょう? 夕飯の準備をするんですよ」
「な、なんじゃと!? それは妾が――!」
シャルは駆け出し駆けて、思いとどまる。
記憶に新しいのは、ゲテモノ料理を作った結果、一撃で絆をノックダウンさせてしまったことだ。
(くっ! こやつに包丁を握らせたくない……じゃが、妾の実力では料理など!)
「どうしました? ひょっとして、料理はあまり得意ではない、とか?」
「そ、そんなわけがなかろう! じゃが、今日はおぬしに譲ってやる」
「いいんですか?」
「当たり前じゃろう。妾は毎日、旦那様に愛妻料理を作っておるからのう」
※作ったのは1回だけである。
「妾は既に、旦那様の胃袋をガッチリ掴んでおるから、今更料理などせんよ(フッ)」
※旦那様の胃袋をガッチリ握りつぶして破壊している。
「そ、そそ、そうですか」
だが、素直なミリーは冷や汗をダラダラ流しながらそれを信じてしまう。
「では、私はお洗濯もやっておくので、今日くらいシャルは休んでいてくださいね」
「洗濯じゃと? バカを言うな、もう夕方じゃぞ。今から洗濯など――」
「できますよ。私の権能は《水流操作》。その気になれば、空気中の水分も操れます。絆さんのお陰で、そこまでできるようになりましたから」
「ほ、ほう?」
絆、という単語が出てきたことで、シャルの眉がぴくりと動く。
「ですので、洗浄から脱水、乾燥まで、洗濯機を使うことなくできるんですよ」
「そ、そうか。おぬし、もう洗濯機に改名した方がよくないか?」
「なっ! そ、それならシャルはゴロゴロしてばかりだから、暇ドラに改名した方がいいと思いますよ」
ブチッ。シャルのこめかみに青筋が立つ。
ミリーはミリーで、笑顔が氷のように冷え切っていた。
「……ほう。なるほどのう。そこまで言うのなら、勝負するしかなさそうじゃのう」
シャルの瞳孔が細められ、周囲に炎が浮かび上がる。
「ええ。それは私も思っていました。あなたとは一度、私の伴侶とのことで、しっかり話し合った方がいいと思っていましたので」
私の伴侶、という言葉を強調しつつ、ミリーもまた《水流操作》の権能で、ビニールプールの水を自身の周囲に展開させる。
ゴゴゴゴ……という音が聞こえてきそうなほど、空気が張り詰めていく。
そして、2人同時に叫んだ。
「「どちらが正妻に相応しいか、今ここで勝負じゃ(です)!!」」
FIGHT!
――時は遡ること数刻前。
「旦那様、遅いのう」
「そうですね。絆さんがいないと寂しいです」
大人しくアパートのリビングで待っていたシャルとミリーの2人は、そんな風にため息をついていた。
シャルはリビングのカーペットの上でゴロゴロし、ミリーはビニールプールに張った水の上に浮かんでいる。
このビニールプールは、絆が押し入れから引っ張り出したものだ。
「じゃが、そろそろ帰ってくる頃かもしれんのう?」
「どうしてそんなことがわかるんです?」
「なんじゃ、そんなこともわからぬのかの?」
シャルは得意げに鼻を鳴らしながら立ち上がる。
「彼奴が行っている学校とやらは、午後四時には終わるからのう。部活、とやらをやっている生徒はもっと遅いようじゃが、彼奴は帰宅部じゃし」
そう言って、シャルは自慢げにない胸を張って時計を見る。
指し示す時刻は十六時二〇分を回ったあたりだ。
「へ、へぇ……そうなんですか」
ミリーは平静を装いながらも、内心気が気では無かった。
自分が愛して止まない神結絆という少年。その行動パターンを、シャルは細かに把握している。
この際、シャルが親友であるとか、そんなことは二の次だ。
(そ、そういえばシャルは私より絆さんといる期間が長いんでした……その分、私の方が妻として不利なのでは?)
ぐぬぬぬ……と、ミリーは歯噛みする。
実のところ、シャルが絆と知り合ったのは、ミリーと知り合う僅か一日前であり、殆ど差はない。
しかし、ミリーの側はそんなこと知るよしもない。
シャルの方が、絆との距離感では一枚上手と言えるだろう。
が。――再三告げるが、シャルとミリーは、絆と出会ってから過ごした期間にそこまで差があるわけではない。
それなのに、シャルがわざわざマウントをとるのは――
(だ、旦那様に一番近いのは妾なのじゃぞ……! いくら親友と言えど、ここは譲れぬ!)
――シャルの正妻としてのプライド以外のなにものでもなかった。
要するに、彼女は彼女で焦っているのだ。ミリーという、強力なライバルができたことに。
2人とも、絆の妻に立候補したのが2人いることは別に構わないと思っている。
そもそも、彼はどちらかを斬り捨てられるような男ではないことも理解している。これは、優柔不断だからというのもあるが、本人がお人好しすぎることに起因する。
じゃなかったら、彼は妻を自称する女性を2人も居候させるようなことはしない。
しかし、それはそれとして、自分の方が絆に詳しい、愛していると示したい。
そんな思いが先行していたのだ。
「な、なるほど。絆さんがそろそろ帰ってくるのなら、支度をしましょうか」
ミリーは慌てない。
内心の焦りを上手く隠しつつ、極めて冷静に台所へ向かっていく。
「な、何をするつもりじゃ?」
「決まっているでしょう? 夕飯の準備をするんですよ」
「な、なんじゃと!? それは妾が――!」
シャルは駆け出し駆けて、思いとどまる。
記憶に新しいのは、ゲテモノ料理を作った結果、一撃で絆をノックダウンさせてしまったことだ。
(くっ! こやつに包丁を握らせたくない……じゃが、妾の実力では料理など!)
「どうしました? ひょっとして、料理はあまり得意ではない、とか?」
「そ、そんなわけがなかろう! じゃが、今日はおぬしに譲ってやる」
「いいんですか?」
「当たり前じゃろう。妾は毎日、旦那様に愛妻料理を作っておるからのう」
※作ったのは1回だけである。
「妾は既に、旦那様の胃袋をガッチリ掴んでおるから、今更料理などせんよ(フッ)」
※旦那様の胃袋をガッチリ握りつぶして破壊している。
「そ、そそ、そうですか」
だが、素直なミリーは冷や汗をダラダラ流しながらそれを信じてしまう。
「では、私はお洗濯もやっておくので、今日くらいシャルは休んでいてくださいね」
「洗濯じゃと? バカを言うな、もう夕方じゃぞ。今から洗濯など――」
「できますよ。私の権能は《水流操作》。その気になれば、空気中の水分も操れます。絆さんのお陰で、そこまでできるようになりましたから」
「ほ、ほう?」
絆、という単語が出てきたことで、シャルの眉がぴくりと動く。
「ですので、洗浄から脱水、乾燥まで、洗濯機を使うことなくできるんですよ」
「そ、そうか。おぬし、もう洗濯機に改名した方がよくないか?」
「なっ! そ、それならシャルはゴロゴロしてばかりだから、暇ドラに改名した方がいいと思いますよ」
ブチッ。シャルのこめかみに青筋が立つ。
ミリーはミリーで、笑顔が氷のように冷え切っていた。
「……ほう。なるほどのう。そこまで言うのなら、勝負するしかなさそうじゃのう」
シャルの瞳孔が細められ、周囲に炎が浮かび上がる。
「ええ。それは私も思っていました。あなたとは一度、私の伴侶とのことで、しっかり話し合った方がいいと思っていましたので」
私の伴侶、という言葉を強調しつつ、ミリーもまた《水流操作》の権能で、ビニールプールの水を自身の周囲に展開させる。
ゴゴゴゴ……という音が聞こえてきそうなほど、空気が張り詰めていく。
そして、2人同時に叫んだ。
「「どちらが正妻に相応しいか、今ここで勝負じゃ(です)!!」」
FIGHT!
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