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第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第37話 出会い次第で、世界の見方は…
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――その日の夜。
「う~ん」
僕は、寝苦しさに唸っていた。
季節は初夏。確かに寝苦しくなってくるのだが、なんとなくそれだけじゃない気がする。
思わず寝返りを打とうとするも、まるで金縛りに遭ったように身体が動かない。
「う、ぐ……!」
あまりの寝苦しさに、僕の意識は否応なく覚醒する。
僕のすぐ横に、シャルが寝転がっていた。しかも、僕の身体にその細腕を絡みつけて。
「……マジかよ」
僕は、現状が信じられなくて思わずそうぼやいてしまう。
寝るときはそれぞれ別の場所だった、とかそういう話ではない。
まず大前提として、僕が寝ているのはベッドではない。
一人暮らしの身の上なため、ベッドは一つしかない。よって、今まで僕が使っていたベッドはシャルに譲り、僕はソファで寝ているのだ。
つまり、狭いのである。
いくら僕が男子の平均身長よりやや低く、シャルが小柄であるとはいえ、それでも二人仲良く並んで寝られるだけのスペースなどない。
だというのに、気付いたらシャルが僕の横に寝ていた。
スペースがないのにどうしてそんな芸当ができたかといえば、これまた単純明快で、シャルがガッチリ僕に抱きついているからだ。
半ば身体が外にはみ出していると言うのに、腕の力でホールドすることで、半分宙に浮いたまま寝るという凄まじい芸当を披露している。
「……マジ、かよ」
もう一度同じ事を呟いてから、僕は小さくため息をつく。せっかく気を遣ってソファで寝たというのに、これでは意味がないではないか。
だが。
「むにゃ……旦那様ぁ」
幸せそうに寝言を話すシャルを見ていると、なんだかそれもどうでもよくなってしまった。
「む……そこは妾と一緒に、ラブ&バーニングブレスで仕留めるのじゃ。夫婦としての共同作業……Zzz」
この子、一体なんの夢見てるんだ?
ウェディングケーキに入刀する感覚でバーニングブレス撃ってないか?
まあ、それはともかく。
「喉渇いたし、水飲みに行くか」
僕はなんとかシャルの拘束を解くと、お姫様抱っこしてベッドに寝かせる。
それから、水道に向かおうとして――ふと気付く。
ベランダに続く窓が開いていることに。
時分はすっかり真夜中で、空には星が瞬いている。
そんな星空の下、手すりに手を掛けて空を見上げるミリーさんの姿があった。
「ビックリした。眠れないの?」
「絆さん。いえ、そういうわけじゃないんですが……こういう景色って、珍しくて」
そう語るミリーさんの綺麗な瞳は、ガラス玉のように星空を映し出している。
ちなみに、ミリーさんの寝床はお風呂場である。床で眠ることもできるが、やっぱり浴槽に水を張って眠る方が落ち着くらしい。
「私は今まで、ダンジョンの奥底にいましたから。お母さんの縄張りより外には出たこともなかったし、ましてダンジョンの外に出られるなんて……綺麗なんですね、外の世界って」
「……そうだね」
僕は、少し迷ってから頷いた。
本当は、汚いことばかりだ。人間として生きている以上、この世界にはどす黒い悪意が渦巻いている。
少なくとも僕は、その悪意に虐げられて生きてきた。
だから、僕はこの世界がそんなに好きじゃない。
でも、だけど。
僕は、ちらりとミリーさんの横顔を盗み見る。
汚れを知らない、だけどほんの少しまえへ一歩を踏み出した、確かな勇気を持つ少女を。
その少女の、ガラス玉のように澄んだ光彩を、濁らせないようにと配慮したわけじゃない。
嫌いなこの世界も、この子と一緒に見ている今だけは、不思議と好きでいられる気がしたからだ。
出会い次第で、世界の見方は変わる。
それを、僕はたった今知った。
――。
その後、喉を潤した僕はソファに戻って寝たのだが。
翌朝、寝苦しさに起きるとシャルがいつの間にか抱きついてきていたことは、また別の話だ。
「う~ん」
僕は、寝苦しさに唸っていた。
季節は初夏。確かに寝苦しくなってくるのだが、なんとなくそれだけじゃない気がする。
思わず寝返りを打とうとするも、まるで金縛りに遭ったように身体が動かない。
「う、ぐ……!」
あまりの寝苦しさに、僕の意識は否応なく覚醒する。
僕のすぐ横に、シャルが寝転がっていた。しかも、僕の身体にその細腕を絡みつけて。
「……マジかよ」
僕は、現状が信じられなくて思わずそうぼやいてしまう。
寝るときはそれぞれ別の場所だった、とかそういう話ではない。
まず大前提として、僕が寝ているのはベッドではない。
一人暮らしの身の上なため、ベッドは一つしかない。よって、今まで僕が使っていたベッドはシャルに譲り、僕はソファで寝ているのだ。
つまり、狭いのである。
いくら僕が男子の平均身長よりやや低く、シャルが小柄であるとはいえ、それでも二人仲良く並んで寝られるだけのスペースなどない。
だというのに、気付いたらシャルが僕の横に寝ていた。
スペースがないのにどうしてそんな芸当ができたかといえば、これまた単純明快で、シャルがガッチリ僕に抱きついているからだ。
半ば身体が外にはみ出していると言うのに、腕の力でホールドすることで、半分宙に浮いたまま寝るという凄まじい芸当を披露している。
「……マジ、かよ」
もう一度同じ事を呟いてから、僕は小さくため息をつく。せっかく気を遣ってソファで寝たというのに、これでは意味がないではないか。
だが。
「むにゃ……旦那様ぁ」
幸せそうに寝言を話すシャルを見ていると、なんだかそれもどうでもよくなってしまった。
「む……そこは妾と一緒に、ラブ&バーニングブレスで仕留めるのじゃ。夫婦としての共同作業……Zzz」
この子、一体なんの夢見てるんだ?
ウェディングケーキに入刀する感覚でバーニングブレス撃ってないか?
まあ、それはともかく。
「喉渇いたし、水飲みに行くか」
僕はなんとかシャルの拘束を解くと、お姫様抱っこしてベッドに寝かせる。
それから、水道に向かおうとして――ふと気付く。
ベランダに続く窓が開いていることに。
時分はすっかり真夜中で、空には星が瞬いている。
そんな星空の下、手すりに手を掛けて空を見上げるミリーさんの姿があった。
「ビックリした。眠れないの?」
「絆さん。いえ、そういうわけじゃないんですが……こういう景色って、珍しくて」
そう語るミリーさんの綺麗な瞳は、ガラス玉のように星空を映し出している。
ちなみに、ミリーさんの寝床はお風呂場である。床で眠ることもできるが、やっぱり浴槽に水を張って眠る方が落ち着くらしい。
「私は今まで、ダンジョンの奥底にいましたから。お母さんの縄張りより外には出たこともなかったし、ましてダンジョンの外に出られるなんて……綺麗なんですね、外の世界って」
「……そうだね」
僕は、少し迷ってから頷いた。
本当は、汚いことばかりだ。人間として生きている以上、この世界にはどす黒い悪意が渦巻いている。
少なくとも僕は、その悪意に虐げられて生きてきた。
だから、僕はこの世界がそんなに好きじゃない。
でも、だけど。
僕は、ちらりとミリーさんの横顔を盗み見る。
汚れを知らない、だけどほんの少しまえへ一歩を踏み出した、確かな勇気を持つ少女を。
その少女の、ガラス玉のように澄んだ光彩を、濁らせないようにと配慮したわけじゃない。
嫌いなこの世界も、この子と一緒に見ている今だけは、不思議と好きでいられる気がしたからだ。
出会い次第で、世界の見方は変わる。
それを、僕はたった今知った。
――。
その後、喉を潤した僕はソファに戻って寝たのだが。
翌朝、寝苦しさに起きるとシャルがいつの間にか抱きついてきていたことは、また別の話だ。
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