ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

文字の大きさ
38 / 61
第3章 狐の嫁入り、夢か現か

第38話 彷徨の0

しおりを挟む
 ――ダンジョン、55階層。
 一流冒険者が数人のパーティを組んでようやく攻略に挑める難易度を誇る、ダンジョンの下層。
 そうであるにも関わらず――僕とシャル、それからミリーさんは、控えめに言って大暴れしていた。

「《ファイア・ボール》、《ウォーター・ボール》!」

 両の掌から、火球と水球を飛ばす。
 それらが、暗い洞窟の奥から迫る二体のサソリ型モンスター――Bランクモンスター“イビル・サソリ”を、軽々と吹き飛ばした。

 一応、扱いとしては初級魔法だが、今では威力が桁違いになっている。
 ミリーさんと契約を交わしたことで人外の域にまで到達しつつある現状(ゆえに、ファモスさんを倒しきらなかったことでレベルアップしていないのは感謝しかない)、ただの水鉄砲レベルの攻撃が戦車の一撃くらいになってしまう。

 ここは慎重に、最小威力を見極めて――
 僕は、奥の方から迫り来る数十匹のサソリを見据える。

「む! 奥の方からサソリの群れがくるのじゃ!」
「猪口才ですね! 絆さんの進軍の邪魔をするなど、愚の骨頂です」

 そう言って、僕の前に躍り出た二人は必殺攻撃を放つ。
 そう、必殺攻撃を。

「《バーニング・ブレス》!」
「“スクリュー・ビット・ドライバー”!」

 《バーニング・ブレス》は言わずもがな、シャル達ドラゴンの代名詞たる攻撃技だ。
 対し、“スクリュー・ビット・ドライバー”は、周囲の水を集めて巨大な回転する槍に変化させる、《水流操作》の権能をフル活用した必殺技……らしい。

 なんでもミリーさんの母親がよく使う攻撃らしく、詳細は僕でも知らない。
 ただ、あの人が使うってだけでえげつない技なのは理解できる。

 結果――世界から一瞬音が消えた。
 遅れて、凄まじい音と衝撃波が咲き乱れる。超高熱の火線と水のドリルが、洞窟を一直線に突き抜けていく。

 そして――その通った道筋には、何も残されていなかった。
 ただ、左半分は不自然な形に壁や天井が削り取られて水浸しになっており、右半分は岩と土がグツグツと煮えたぎっているだけで――

「ってちょっと待て! どう考えてもやりすぎだよっ!」

 僕は思わずそう突っ込まずにはいられなかった。
 
「ふん、妾の旦那様の行く手を遮るから、当然の報いじゃ」
「そうです。絆くんの行く手を阻む者など、この世界にいてはなりません」
「君達、昨日まで喧嘩してたよね? なんでこんなときだけ一致団結してるの!?」

 事ここにいたり、変な意味で共感し合っている二人に、こちらとしては戦慄するしかない。
 
 一応、“イビル・サソリ”はBランクの危険なモンスター。
 高い実力を持つ冒険者でも苦戦し、死者も出る強力な魔物なのだが――当然、塵すら残さずこの世から消失している。
 そう、

「一応確認をとっておくけど、僕達はお小遣い稼ぐためにここにきたんだよ」
「そうじゃろうな。じゃから、まとめて討伐したじゃろう?」
「ほう。じゃあ聞くが、そのという証拠はどう提示するんだ?」」
「何を当たり前のことを。モンスターの身体の一部か、ドロップするアイテムを――あ」

 そこまで言って、自分が何をしたのか気付いたらしい。

「そうだね。モンスターの身体どころか、ドロップアイテムすら粉微塵になって消えたね」

 僕は、笑顔を貼り付けたまま二人に凄む。
 シャルとミリーさんは、「やっちまった」という顔で、脂汗をダラダラ垂らしているのだった。

――。

「――一応こんなものか」

 二時間ほどかけて、55階層を散策した僕は、アイテムやら討伐証明部位を詰めた革袋を揺らしつつ、そう呟いた。

「そうじゃのう」
「これだけあれば、今日も美味しい夕ご飯が作れそうです」

 側にいるシャルとミリーさんが、嬉しそうに頷く。
 ハイランクのモンスターをたくさん刈ったのだ。それなりに稼がせてもらわないと、いろいろ生命の危機だ。

 食費が一瞬で底を尽きるとか、あとはベッドをもう一つ買わなければいけなかったりだとか。
 
「何にせよ、これでまあなんとかなりそうだ」

 僕は上機嫌でそう呟く。
 
「ね、二人ともそう思わない?」

 歩きながらシャル達に問いかけるが、なぜか返事が返ってこない。
 
「二人とも……?」

 不思議に思って振り返った僕は、次の瞬間言葉を失っていた。
 僕の後ろには、誰もいなかったからだ。

「な、ん……」

 半ば絶句する僕の後ろには、二人の代わりに深い霧が立ちこめていた。
 いつも間にか、僕の周囲には真っ白な霧が漂っている。
 55階層は粗方見て回った。なのに、まだこんな場所が残されていたのか。

「一体、何がどうなっているんだ?」

 まるで、狐に摘ままれているような気分だ。
 白い霧の中。前に進んでいるのか、後ろに戻っているのかすらもわからない。
 幸い、二人との繋がりが切れたわけではないことは、《契約》のスキルのお陰でわかるから、そこまで取り乱しはしなかったものの、心細くないと言えば嘘になる。

 少しずつ、不安が胸に押し寄せてきた、そのときだった。
 不意に、白い視界が晴れる。
 現れたのは、色鮮やかな紅葉に満ちた山寺だった。

 日本庭園と言うのだろうか?
 紅葉や銀杏に彩られた深い山の中、目の前には大きな朱色の鳥居がある。
 
「ここは、一体……」
「珍しい、お客が来るなんて」

 不意に、鈴を転がしたような声が聞こえて振り返る。
 そこには、巫女服を身体に纏った、7、8歳くらいの少女がいた。
 しかし、普通の少女と違うのは頭から黄金の耳が。可愛らしいおしりからはフサフサの尻尾が生えていることだ。
 一言で言い表すなら、妖狐だろうか?

「あの……君は誰? というか、ここはどこなの?」
「私はミミ。この神座かみざ神殿で雑用をやってる」
「神座神殿? 55階層に、こんな場所が……」
「55階層?」

 ミミと名乗った少女は、首を傾げてから言った。
 とても、衝撃的なことを。

「ここは55階層なんかじゃない。一言で言うなら、彷徨さまよう旅人――第0階層だよ」
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...