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第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第38話 彷徨の0
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――ダンジョン、55階層。
一流冒険者が数人のパーティを組んでようやく攻略に挑める難易度を誇る、ダンジョンの下層。
そうであるにも関わらず――僕とシャル、それからミリーさんは、控えめに言って大暴れしていた。
「《ファイア・ボール》、《ウォーター・ボール》!」
両の掌から、火球と水球を飛ばす。
それらが、暗い洞窟の奥から迫る二体のサソリ型モンスター――Bランクモンスター“イビル・サソリ”を、軽々と吹き飛ばした。
一応、扱いとしては初級魔法だが、今では威力が桁違いになっている。
ミリーさんと契約を交わしたことで人外の域にまで到達しつつある現状(ゆえに、ファモスさんを倒しきらなかったことでレベルアップしていないのは感謝しかない)、ただの水鉄砲レベルの攻撃が戦車の一撃くらいになってしまう。
ここは慎重に、最小威力を見極めて――
僕は、奥の方から迫り来る数十匹のサソリを見据える。
「む! 奥の方からサソリの群れがくるのじゃ!」
「猪口才ですね! 絆さんの進軍の邪魔をするなど、愚の骨頂です」
そう言って、僕の前に躍り出た二人は必殺攻撃を放つ。
そう、必殺攻撃を。
「《バーニング・ブレス》!」
「“スクリュー・ビット・ドライバー”!」
《バーニング・ブレス》は言わずもがな、シャル達ドラゴンの代名詞たる攻撃技だ。
対し、“スクリュー・ビット・ドライバー”は、周囲の水を集めて巨大な回転する槍に変化させる、《水流操作》の権能をフル活用した必殺技……らしい。
なんでもミリーさんの母親がよく使う攻撃らしく、詳細は僕でも知らない。
ただ、あの人が使うってだけでえげつない技なのは理解できる。
結果――世界から一瞬音が消えた。
遅れて、凄まじい音と衝撃波が咲き乱れる。超高熱の火線と水のドリルが、洞窟を一直線に突き抜けていく。
そして――その通った道筋には、何も残されていなかった。
ただ、左半分は不自然な形に壁や天井が削り取られて水浸しになっており、右半分は岩と土がグツグツと煮えたぎっているだけで――
「ってちょっと待て! どう考えてもやりすぎだよっ!」
僕は思わずそう突っ込まずにはいられなかった。
「ふん、妾の旦那様の行く手を遮るから、当然の報いじゃ」
「そうです。絆くんの行く手を阻む者など、この世界にいてはなりません」
「君達、昨日まで喧嘩してたよね? なんでこんなときだけ一致団結してるの!?」
事ここにいたり、変な意味で共感し合っている二人に、こちらとしては戦慄するしかない。
一応、“イビル・サソリ”はBランクの危険なモンスター。
高い実力を持つ冒険者でも苦戦し、死者も出る強力な魔物なのだが――当然、塵すら残さずこの世から消失している。
そう、塵すら残さず。
「一応確認をとっておくけど、僕達はお小遣い稼ぐためにここにきたんだよ」
「そうじゃろうな。じゃから、まとめて討伐したじゃろう?」
「ほう。じゃあ聞くが、その討伐をしたという証拠はどう提示するんだ?」」
「何を当たり前のことを。モンスターの身体の一部か、ドロップするアイテムを――あ」
そこまで言って、自分が何をしたのか気付いたらしい。
「そうだね。モンスターの身体どころか、ドロップアイテムすら粉微塵になって消えたね」
僕は、笑顔を貼り付けたまま二人に凄む。
シャルとミリーさんは、「やっちまった」という顔で、脂汗をダラダラ垂らしているのだった。
――。
「――一応こんなものか」
二時間ほどかけて、55階層を散策した僕は、アイテムやら討伐証明部位を詰めた革袋を揺らしつつ、そう呟いた。
「そうじゃのう」
「これだけあれば、今日も美味しい夕ご飯が作れそうです」
側にいるシャルとミリーさんが、嬉しそうに頷く。
ハイランクのモンスターをたくさん刈ったのだ。それなりに稼がせてもらわないと、いろいろ生命の危機だ。
食費が一瞬で底を尽きるとか、あとはベッドをもう一つ買わなければいけなかったりだとか。
「何にせよ、これでまあなんとかなりそうだ」
僕は上機嫌でそう呟く。
「ね、二人ともそう思わない?」
歩きながらシャル達に問いかけるが、なぜか返事が返ってこない。
「二人とも……?」
不思議に思って振り返った僕は、次の瞬間言葉を失っていた。
僕の後ろには、誰もいなかったからだ。
「な、ん……」
半ば絶句する僕の後ろには、二人の代わりに深い霧が立ちこめていた。
いつも間にか、僕の周囲には真っ白な霧が漂っている。
55階層は粗方見て回った。なのに、まだこんな場所が残されていたのか。
「一体、何がどうなっているんだ?」
まるで、狐に摘ままれているような気分だ。
白い霧の中。前に進んでいるのか、後ろに戻っているのかすらもわからない。
幸い、二人との繋がりが切れたわけではないことは、《契約》のスキルのお陰でわかるから、そこまで取り乱しはしなかったものの、心細くないと言えば嘘になる。
少しずつ、不安が胸に押し寄せてきた、そのときだった。
不意に、白い視界が晴れる。
現れたのは、色鮮やかな紅葉に満ちた山寺だった。
日本庭園と言うのだろうか?
紅葉や銀杏に彩られた深い山の中、目の前には大きな朱色の鳥居がある。
「ここは、一体……」
「珍しい、お客が来るなんて」
不意に、鈴を転がしたような声が聞こえて振り返る。
そこには、巫女服を身体に纏った、7、8歳くらいの少女がいた。
しかし、普通の少女と違うのは頭から黄金の耳が。可愛らしいおしりからはフサフサの尻尾が生えていることだ。
一言で言い表すなら、妖狐だろうか?
「あの……君は誰? というか、ここはどこなの?」
「私はミミ。この神座神殿で雑用をやってる」
「神座神殿? 55階層に、こんな場所が……」
「55階層?」
ミミと名乗った少女は、首を傾げてから言った。
とても、衝撃的なことを。
「ここは55階層なんかじゃない。一言で言うなら、彷徨う旅人――第0階層だよ」
一流冒険者が数人のパーティを組んでようやく攻略に挑める難易度を誇る、ダンジョンの下層。
そうであるにも関わらず――僕とシャル、それからミリーさんは、控えめに言って大暴れしていた。
「《ファイア・ボール》、《ウォーター・ボール》!」
両の掌から、火球と水球を飛ばす。
それらが、暗い洞窟の奥から迫る二体のサソリ型モンスター――Bランクモンスター“イビル・サソリ”を、軽々と吹き飛ばした。
一応、扱いとしては初級魔法だが、今では威力が桁違いになっている。
ミリーさんと契約を交わしたことで人外の域にまで到達しつつある現状(ゆえに、ファモスさんを倒しきらなかったことでレベルアップしていないのは感謝しかない)、ただの水鉄砲レベルの攻撃が戦車の一撃くらいになってしまう。
ここは慎重に、最小威力を見極めて――
僕は、奥の方から迫り来る数十匹のサソリを見据える。
「む! 奥の方からサソリの群れがくるのじゃ!」
「猪口才ですね! 絆さんの進軍の邪魔をするなど、愚の骨頂です」
そう言って、僕の前に躍り出た二人は必殺攻撃を放つ。
そう、必殺攻撃を。
「《バーニング・ブレス》!」
「“スクリュー・ビット・ドライバー”!」
《バーニング・ブレス》は言わずもがな、シャル達ドラゴンの代名詞たる攻撃技だ。
対し、“スクリュー・ビット・ドライバー”は、周囲の水を集めて巨大な回転する槍に変化させる、《水流操作》の権能をフル活用した必殺技……らしい。
なんでもミリーさんの母親がよく使う攻撃らしく、詳細は僕でも知らない。
ただ、あの人が使うってだけでえげつない技なのは理解できる。
結果――世界から一瞬音が消えた。
遅れて、凄まじい音と衝撃波が咲き乱れる。超高熱の火線と水のドリルが、洞窟を一直線に突き抜けていく。
そして――その通った道筋には、何も残されていなかった。
ただ、左半分は不自然な形に壁や天井が削り取られて水浸しになっており、右半分は岩と土がグツグツと煮えたぎっているだけで――
「ってちょっと待て! どう考えてもやりすぎだよっ!」
僕は思わずそう突っ込まずにはいられなかった。
「ふん、妾の旦那様の行く手を遮るから、当然の報いじゃ」
「そうです。絆くんの行く手を阻む者など、この世界にいてはなりません」
「君達、昨日まで喧嘩してたよね? なんでこんなときだけ一致団結してるの!?」
事ここにいたり、変な意味で共感し合っている二人に、こちらとしては戦慄するしかない。
一応、“イビル・サソリ”はBランクの危険なモンスター。
高い実力を持つ冒険者でも苦戦し、死者も出る強力な魔物なのだが――当然、塵すら残さずこの世から消失している。
そう、塵すら残さず。
「一応確認をとっておくけど、僕達はお小遣い稼ぐためにここにきたんだよ」
「そうじゃろうな。じゃから、まとめて討伐したじゃろう?」
「ほう。じゃあ聞くが、その討伐をしたという証拠はどう提示するんだ?」」
「何を当たり前のことを。モンスターの身体の一部か、ドロップするアイテムを――あ」
そこまで言って、自分が何をしたのか気付いたらしい。
「そうだね。モンスターの身体どころか、ドロップアイテムすら粉微塵になって消えたね」
僕は、笑顔を貼り付けたまま二人に凄む。
シャルとミリーさんは、「やっちまった」という顔で、脂汗をダラダラ垂らしているのだった。
――。
「――一応こんなものか」
二時間ほどかけて、55階層を散策した僕は、アイテムやら討伐証明部位を詰めた革袋を揺らしつつ、そう呟いた。
「そうじゃのう」
「これだけあれば、今日も美味しい夕ご飯が作れそうです」
側にいるシャルとミリーさんが、嬉しそうに頷く。
ハイランクのモンスターをたくさん刈ったのだ。それなりに稼がせてもらわないと、いろいろ生命の危機だ。
食費が一瞬で底を尽きるとか、あとはベッドをもう一つ買わなければいけなかったりだとか。
「何にせよ、これでまあなんとかなりそうだ」
僕は上機嫌でそう呟く。
「ね、二人ともそう思わない?」
歩きながらシャル達に問いかけるが、なぜか返事が返ってこない。
「二人とも……?」
不思議に思って振り返った僕は、次の瞬間言葉を失っていた。
僕の後ろには、誰もいなかったからだ。
「な、ん……」
半ば絶句する僕の後ろには、二人の代わりに深い霧が立ちこめていた。
いつも間にか、僕の周囲には真っ白な霧が漂っている。
55階層は粗方見て回った。なのに、まだこんな場所が残されていたのか。
「一体、何がどうなっているんだ?」
まるで、狐に摘ままれているような気分だ。
白い霧の中。前に進んでいるのか、後ろに戻っているのかすらもわからない。
幸い、二人との繋がりが切れたわけではないことは、《契約》のスキルのお陰でわかるから、そこまで取り乱しはしなかったものの、心細くないと言えば嘘になる。
少しずつ、不安が胸に押し寄せてきた、そのときだった。
不意に、白い視界が晴れる。
現れたのは、色鮮やかな紅葉に満ちた山寺だった。
日本庭園と言うのだろうか?
紅葉や銀杏に彩られた深い山の中、目の前には大きな朱色の鳥居がある。
「ここは、一体……」
「珍しい、お客が来るなんて」
不意に、鈴を転がしたような声が聞こえて振り返る。
そこには、巫女服を身体に纏った、7、8歳くらいの少女がいた。
しかし、普通の少女と違うのは頭から黄金の耳が。可愛らしいおしりからはフサフサの尻尾が生えていることだ。
一言で言い表すなら、妖狐だろうか?
「あの……君は誰? というか、ここはどこなの?」
「私はミミ。この神座神殿で雑用をやってる」
「神座神殿? 55階層に、こんな場所が……」
「55階層?」
ミミと名乗った少女は、首を傾げてから言った。
とても、衝撃的なことを。
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