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第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第44話 運命の朝
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《絆視点》
――あっという間に休日は過ぎ、月曜日の朝。
今日も一日がいつも通りに始まる。そう、いつも通りの朝が。
「おはようなのじゃ、旦那様!」
ソファに寝転がった僕に目の前に、シャルの元気な姿が飛び込んでくる。
「ああ、おはよう。ところでシャル」
「なんじゃ?」
「当たり前のように起きたら僕に抱きついてるけど、ベッドを譲った意味が全くないんだが?」
よくもまあ、狭いソファの上で僕を抱き枕にしつつ器用に寝られるものだ。
そこだけは呆れを通り越して感心する。
「うむ、まあ妾の身体は自動的に旦那様に吸い寄せられるようにできておるからの。一定以上離れると、「くっ、身体が……疼く! 衝動を抑えられぬ! か、身体が勝手に!」となるからな」
「ファンタジー的なその見た目で言われると、痛いロリっ子が中二病に目覚めたようにしか聞こえないよ」
朝からテンションの高いドラゴン娘へ、小さく嘆息しつつ、
「それにしても、狭いと思うのならベッドに寝ればいいのじゃ。妾と旦那様なら、ギリギリ1人用ベッドでも2人寝転がれるんじゃし」
「いや、それはちょっと……」
口ごもる僕に、シャルは首を傾げる。
理屈ではないのだ、こういうのは。添い寝をするにしても、ベッドで添い寝というのはハードルが高すぎる。
と、そのとき。
「あ、目覚めたんですね。おはようございます」
キッチンの方から、ミリーさんが顔を出す。
何やらキッチンの方から良い匂いが漂っているから、朝食を作っていてくれたのだろう。いろいろと頭が上がらない。
「朝食の準備ができています。ゆっくりでいいので、着替えてきてくださいね」
「ああ……ってわけでシャル」
「なんじゃ?」
「そこをどいてくれ」
「むぅ。妾をくっつけたまま着替えればよかろう」
「無茶言うな!」
唇を尖らせるシャルに、思わずそう突っ込んでいた。
――。
着替えや支度を終え、朝食を食べ終えた僕は、玄関で靴を履いていた。
お見送りにシャルとミリーさんが出てきてくれている。改めて、この歳で妻から「行ってらっしゃい」をされるとは思わなかったな。
そんな風に思っていると、ミリーさんが不意に声をかけてきた。
「絆さん、これを――」
「ん?」
振り返った僕に、ミリーさんはあるものを差し出してきた。
可愛らしい柄の包みに入った、四角い物体――って、これはまさか!
「愛妻弁当……だと!?」
「はい。ちょっと、気合い入れて作ってみました」
驚く僕の前で、照れくさそうに頬を掻くミリーさん。
サイズ的に二段弁当だろう。あまり大食漢ではない僕には少し多いのだが、その理由は――
「上段はミリー、下段は妾が愛を込めて作ったのじゃ! ……と言っても、ミリーにちっとばかし手伝って貰ったがな」
胸を張ってそう述べるシャル。
そんな2人を見て、僕は
「あれ、絆くん!?」
「なんで泣いておるのじゃ!? 泣くほど嫌だったかの!?」
ミリーさんとシャルが、慌てふためく。
それを見て、僕は自分の目尻から涙が伝っていることに気付いた。
「いや、なんでもない。嬉し涙だよ」
いろいろとあって親とは疎遠であり、弱さ故に友達もできなかった。
そんな僕が、こんな素敵なプレゼントを貰えたのだ。この日、このときのことは一生忘れまい。
何があっても、絶対に。
「ありがとう、2人とも。大事に食べるよ」
「そうしてください」
「残したら許さぬぞ!」
苦笑し、「行ってきます」と告げて玄関を出る。
大切な2人の顔をしっかりと見届けてから、僕は弁当を抱えなおして、晴れやかな気分で学校へと向かうのだった。
――あっという間に休日は過ぎ、月曜日の朝。
今日も一日がいつも通りに始まる。そう、いつも通りの朝が。
「おはようなのじゃ、旦那様!」
ソファに寝転がった僕に目の前に、シャルの元気な姿が飛び込んでくる。
「ああ、おはよう。ところでシャル」
「なんじゃ?」
「当たり前のように起きたら僕に抱きついてるけど、ベッドを譲った意味が全くないんだが?」
よくもまあ、狭いソファの上で僕を抱き枕にしつつ器用に寝られるものだ。
そこだけは呆れを通り越して感心する。
「うむ、まあ妾の身体は自動的に旦那様に吸い寄せられるようにできておるからの。一定以上離れると、「くっ、身体が……疼く! 衝動を抑えられぬ! か、身体が勝手に!」となるからな」
「ファンタジー的なその見た目で言われると、痛いロリっ子が中二病に目覚めたようにしか聞こえないよ」
朝からテンションの高いドラゴン娘へ、小さく嘆息しつつ、
「それにしても、狭いと思うのならベッドに寝ればいいのじゃ。妾と旦那様なら、ギリギリ1人用ベッドでも2人寝転がれるんじゃし」
「いや、それはちょっと……」
口ごもる僕に、シャルは首を傾げる。
理屈ではないのだ、こういうのは。添い寝をするにしても、ベッドで添い寝というのはハードルが高すぎる。
と、そのとき。
「あ、目覚めたんですね。おはようございます」
キッチンの方から、ミリーさんが顔を出す。
何やらキッチンの方から良い匂いが漂っているから、朝食を作っていてくれたのだろう。いろいろと頭が上がらない。
「朝食の準備ができています。ゆっくりでいいので、着替えてきてくださいね」
「ああ……ってわけでシャル」
「なんじゃ?」
「そこをどいてくれ」
「むぅ。妾をくっつけたまま着替えればよかろう」
「無茶言うな!」
唇を尖らせるシャルに、思わずそう突っ込んでいた。
――。
着替えや支度を終え、朝食を食べ終えた僕は、玄関で靴を履いていた。
お見送りにシャルとミリーさんが出てきてくれている。改めて、この歳で妻から「行ってらっしゃい」をされるとは思わなかったな。
そんな風に思っていると、ミリーさんが不意に声をかけてきた。
「絆さん、これを――」
「ん?」
振り返った僕に、ミリーさんはあるものを差し出してきた。
可愛らしい柄の包みに入った、四角い物体――って、これはまさか!
「愛妻弁当……だと!?」
「はい。ちょっと、気合い入れて作ってみました」
驚く僕の前で、照れくさそうに頬を掻くミリーさん。
サイズ的に二段弁当だろう。あまり大食漢ではない僕には少し多いのだが、その理由は――
「上段はミリー、下段は妾が愛を込めて作ったのじゃ! ……と言っても、ミリーにちっとばかし手伝って貰ったがな」
胸を張ってそう述べるシャル。
そんな2人を見て、僕は
「あれ、絆くん!?」
「なんで泣いておるのじゃ!? 泣くほど嫌だったかの!?」
ミリーさんとシャルが、慌てふためく。
それを見て、僕は自分の目尻から涙が伝っていることに気付いた。
「いや、なんでもない。嬉し涙だよ」
いろいろとあって親とは疎遠であり、弱さ故に友達もできなかった。
そんな僕が、こんな素敵なプレゼントを貰えたのだ。この日、このときのことは一生忘れまい。
何があっても、絶対に。
「ありがとう、2人とも。大事に食べるよ」
「そうしてください」
「残したら許さぬぞ!」
苦笑し、「行ってきます」と告げて玄関を出る。
大切な2人の顔をしっかりと見届けてから、僕は弁当を抱えなおして、晴れやかな気分で学校へと向かうのだった。
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