ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

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第3章 狐の嫁入り、夢か現か

第45話 いつも通りの朝、変わらぬ日常

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 月曜日。週の初めは、どことなく憂鬱な気分になる。
 それでも、僕は学校が嫌い、というわけでもない。

 校門を抜け、2年B組の――自分の教室の靴箱へと移動し、上履きへと履き替える。

「よぉ、絆!」

 不意に後ろから軽薄な声と共に、背中を思い切り叩かれる。
 
「いっ!?」

 その痛みと衝撃に歯を食いしばりつつ、僕は後ろを振り返った。
 そこにいたのは、髪をややくすんだ金髪に染めた、少しばかり目つきの悪い少年だ。
 
「何するんだよ、寛人ひろと
「スキンシップだってスキンシップ。そんな顔すんなよ。俺とお前の仲じゃねぇか」

 ヘラヘラと軽薄に笑いながら、僕の友人――刈谷寛人《かりやひろと》が肩に腕を回してきた。

 刈谷寛人。
 2年B組。僕が1年の時から仲のいい親友で、やたらと絡んでくる。
 サッカー部所属で人望も厚い。おまけに――

「あ、寛人。絆くん、おはよう」

 不意に、後ろから甘い声が投げかけられる。
 長い黒髪の、落ち着いた見た目の少女が、振り返った先にいた。
 彼女の名は浅井夢。2年A組で、弓道部所属。
 頭も良く、見た目も可愛い。その上で――

「夢さん、おはよう」
「おっす夢。あっぶねぇ……危うく可愛さで天に召されるとこだったわ」
「もう。朝っぱらからからかって……」

 夢の登校に気付いた寛人が、真面目な顔でバカを言うものだから、夢は呆れたように嘆息する。だが、そう言いつつも本人は満更でもなさそうで。

――要するに、僕の親友は彼女持ちなのだ。
モテた経験のない僕には、羨ましい限りと言うべきか。

「まったく……なぜお前にこんな素敵な彼女ができて、僕にはできないのか」
「おいおい。いっくら魅力的でも、俺の夢はやらんぞ?」
「安心しなよ。NTRの趣味は僕にもないって」
「わっかんねぇぞ。お前みたいな、優しくて人畜無害そうなヤツに限って、実はとんでもない本性を隠してたり――」
「親友のはずなのに信頼されて無さそうでちょっとショックなんだけど!?」

 鋭いツッコミを入れてしまう僕に、寛人は「悪い悪い」と、腹を抱えて笑う。

「お前にもそのうち彼女の1人くらいできんだろ」
「だといいけど」

 僕は肩をすくめてみせる。
 そんな、いつも通りの他愛もない会話を経て、今日も一日が始まる。

――。

「おはよう」

 寛人と共に教室に入ると、何人かの生徒が「おはよう」と返事を返してくれる。
 そんな仲、1人の女子生徒がパタパタと近寄ってきて。
 
「おっはー絆! あとついでに……誰だっけ?」
「寛人だ寛人! 同じクラス……っていうか、隣の席だろ! 悲しくなるわ!」
「ごめんごめん、冗談だって。そんな本気にしなさんな」

 睨みつけるのをあっけらかんとした態度で流した少女は、元気いっぱいに微笑んだ。
 小森亜実こもりあみ。2年生から同じクラスになった、小柄でいつも溌剌としている少女だ。

 ボブカットの髪に、くりりとした大きな瞳。小柄な背と大きな態度が特徴の、クラスのムードメーカー的存在。
 そんな彼女は、やたらと僕や寛人に突っかかってくる。
 特に寛人に関しては対応がテキトーで、よく痴話げんかをしている。夢さんという彼女がいるのに、けしからんヤツだ。

「ったくよぉ。お前はいつもいつも、人の神経を逆なでするようなこと言いやがって」
「神経が魚で……? どういう意味?」
「お前の脳内で意味の変換がおかしくなってるよ! いい加減勉強しろ! この赤点常習犯! 期末試験まであと一ヶ月なんだぞ!」
「え~。一ヶ月あれば余裕だって」

 いろいろと楽観的すぎることを言う亜実さんに、寛人は「付き合ってられない」とばかりに嘆息する。

「まったく、あとで後悔しても知らんからな」
「おとといきやがれ」
「親切を仇で返しやがった!?」

 なんてヤツだ、とブツブツ呟きながら、寛人は自分の席へ行ってしまう。
 さて、僕もぼちぼち自分の席に行って支度を――

「あ、あのさ。絆」
「ん?」

 不意に亜実さんに呼び止められる。
 自身の人差し指を付き合わせながら、「あの……その」と歯切れ悪く次の言葉を探っていた。

「どうしたの?」
「その、さっきの期末試験のことなんだけど、さ」
「うん」
「よかったら、う、ウチに勉強……教えてくれないかなって」

 上目遣いで、不安そうに聞いてくる亜実さん。

「いいよ」
「ほ、ほんと!?」

 とたん、パッと表情を明るくする亜実さん。
 
「ただ、僕もそんなに勉強得意じゃないけど。それでもよければ」
「ううん大丈夫。ウチより頭悪い人間なんて、この世にいないから!」
「それは自慢することじゃないと思うんだけど……」

 そんな僕のツッコミに、しかし亜実さんはやたら嬉しそうにニヤニヤしている。
 そんなに次のテストを乗り越える算段がついたのが嬉しいんだろうか。

「じゃあ、よろしくね! 絆!」

 満面の笑みで微笑むと、亜実さんは軽くスキップしながら自身の机に向かっていき――

「コイツと隣なの忘れてた! この野郎! 良い気分が台無しじゃんか!」
「ああん? 知るかよ! そりゃこっちの台詞だわ!」

 たちまち言い争いを始める亜実さんと寛人。
 そんな二人を見つつ、今日もいつも通りの日常が始まる。
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