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第3章 狐の嫁入り、夢か現か

第46話 これは何ら変わりのない日常で…

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「いいかお前達。現代文は日本語だからってタカを括ってると、偉い目にあうぞ。何せ、日常生活で一番使うのが日本語だ。それを間違えてみろ。赤っ恥を掻くことになるんだ」

 小綺麗な時で黒板をびっしり埋めながら、現代文担当の30代男教師――黒部先生が熱心に語っている。
 基本的にノリの良い先生だが、とにかく舌が回り続けることで有名であり、現代文の時間はマシンガントークが止まらない。

 それをBGMにぼんやりと思考に更ける。
 刺激が欲しい。
 窓の外を流れる雲を見ながら、ふとそんなふうに物思う。

 人並みに普通の人生を過ごしてした。
 そこそこ勉強とスポーツを頑張り、友人とそこそこ楽しく過ごし……まだ彼女はできていなけど。

 そんな感じで日々を浪費する高校生は、ときたま思うものだろう。
 人並み外れた経験がしたい。何か、退屈な日常を吹き飛ばす刺激を得たいと。
 
 と、何気なく向けた横に向けた視線に、亜実さんが映る。
 どうやら彼女も僕の方を見ていたらしく、慌てて目を逸らしたが、もう一度こちらを振り向き笑顔で小さく手を振ってきた。

 僕も負けじと彼女に手を振り返そうとし――ソレに気付いて、さっとあげかけていた手を下ろす。
 そんな僕の反応を見て、亜実さんは不思議そうに首を傾げ――

「――おいこら、授業中に誰と交信してんだ」

 ぶっきらぼうな声と共に、いつの間にか亜実さんの近くに迫っていた黒い影――黒部先生の手が振り下ろされる。
 その手に持っていた現代文の教科書が亜実さんの頭に直撃し。

「ぎゃん!」

 亜実さんは可愛らしい悲鳴をあげていた。
 
「ちょっと先生! 今の一撃で脳……のう? 脳なんとかがいっぱい死にました! これ以上ウチの頭が悪くなったらどう責任とってくれるんですか!」
「脳細胞だ脳細胞。既に手遅れなレベルで重症だろうが」

 突っかかる亜実さんに対し、呆れ顔で応じる黒部先生。

「あ、そうだ。お前ちゃんと定期テストの赤点補習来いよ。先生との約束だからな?」
「ちょ! まだテスト期間に入ってすらいないのに、赤点採る前提で話進めるのやめてくださいよぉ!」

 赤点常習犯の亜実さんは、半べそを掻きながら食って掛かる。
 二人の繰り広げる漫才に、教室中がどっと笑いに包まれる。
 四時間目の現代文の授業は、そうして過ぎていった。

――。

「お、チャイムが鳴ったな。今日の授業はここまで。約一名、追加で補習をしておきたいヤツがいるが……先生は平等主義者だからな。ソイツに配慮して勘弁してやる」
「ウチのこと散々みんなの前でディスった時点で、配慮もクソもないですよね!?」

 亜実さんのツッコミをいなして颯爽と教室を後にする黒部先生。
 とたん、教室中が喧噪に包まれた。

「終わったぁ!」
「お昼だお昼!」
「うわ! 弁当忘れた!」
「学食行こーぜ!」

 半数近い生徒が慌ただしく教室を出ていく。目的地はおそらく学食や購買だろう。
 残りの半分は、弁当片手に友人同士で机をくっつけている。

「おーす絆。飯食おうぜー!」
「ウチも混ぜて~」

 教科書をしまう僕の方へ、寛人と亜実さんが寄ってくる。

「いいけど、彼女はほっといていいの?」
「夢か? あいつは今日、友達と食べるって言ってたぞ」
「そっか」
「なんだよ。ひょっとして悪いとか思ってんのか?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべて、寛人が俺の頬を突いてくる。

「安心しろよ。俺だって、夢と同じくらいお前のことは大切に思ってんだぜ? あらやだ! これって告白かしら!?」

 冗談めかして頬に手を添える寛人。相変わらず調子のいいヤツだ。
 と、そんな寛人をジト目で見ていた亜実さんが一言。

「……キモ」
「ああん? テメェもう一度言ってみろや」
「キショすぎて吐きそう」
「もう一度言ってんじゃねぇよ! しかも火力増してるわ!」

 弁当片手に舌戦を繰り広げる二人に、僕は苦笑する。
 いつもの光景だ。学校に来てから変わらない、僕のいつもの光景。
 それに苦笑しつつ、僕は自分の鞄に手を突っ込んで――

「あれ?」

 違和感とともに掴んだそれを、引っ張り出す。
 それは、弁当箱を包んだ可愛らしい包みだ。これ自体は私物だから別に驚きはしないのだが――

「どうした? って、うわ。やけに大きな弁当だな。二段弁当か?」
「ほんとだ。絆って小食なのに。間違ってお父さんのお弁当持ってきちゃった?」

 寛人と亜実さんは、その弁当の大きさに気付いてそう問いかけてくる。
 僕はアパートで一人暮らしをしているから、父親の弁当を間違えて持ってきたわけでもなければ、母親が作ってくれたわけでもない。
 故に、こんなボリューミーな弁当を持ってきた理由は、一つしかない。

「ははっ。

 どこか記憶が曖昧だけど、口にすればそうとしか考えられないを、そう告げた。

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