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第3章 狐の嫁入り、夢か現か

第49話 術者の下へ

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「あ、あれって……!」

 学校上空に展開される魔法陣の禍々しい光に、僕は思わず息を飲む。
 明らかに、普通じゃない。そして、さっきまでは確かにあんなに目立つ魔法陣が見えていなかった。

「どんな世界を見たのかは知らぬが、この大規模な儀式魔法を悟られないための幻想世界じゃろうな」

 シャルが、忌々しげにそう吐き捨てる。
 刻一刻と完成へ向けて外縁部が構築されていく魔法陣。あれがどんな効果を持つものなのか、詳しいことは何一つわからない。ただ、放たれるオーラは明らかに“負”の感情を滲ませたものだ。

 もし、これを起動しているのが妖狐すら凌ぐ、幻術系スキルの申し子たる九尾の狐ならば――

「世界の一つ、丸ごと現実が塗り替えられかねない!」
「じゃろうな」
「そう思います」

 歯噛みする僕に、シャルとミリーさんは神妙な面持ちで頷く。
 状況は一刻を争うと見た。

「行こう二人とも!」

 必然、僕は教室を飛び出した。
 この場にいる人々は、僕等を除いて全員が幻術の中にある。対処できるのは、僕等しかいない。

「で、旦那様はこの仕掛け人がどこにいると睨んでおる?」

 廊下を走りながら、シャルがそう問いかけてくる。
 ちなみにミリーさんは、《水流操作》ので空気中の水分を操り、空中を泳ぐようにしてついて来ている。
 僕は、シャルに振り返りつつ、

「決まってる。あんな大規模な魔法陣を展開するのに、陣が見えない場所なんてことは有り得ない。だから――」

 僕は、迷うこと無く指を上へ向けた。

「屋上だ!」
「わかったのじゃ! ……お、早速階段が見えたのう!」

 シャルは光明が見えたとばかりに、僕を追い越して階段の方へ急ぐ。
 しかし、僕はその光景に違和感を覚えていた。それも、強烈な違和感を。

「……おかしい。学校の内装、

 普段、学校の構造など詳しく見るものではないが、流石に1年も通えば大体の配置は覚える。その記憶と、目の前の光景がどうにも噛み合わなくて――まさか!?

「シャ――」
「! シャル! ダメ!」

 僕の呟きからいち早くを察知したミリーさんが吠える。
 が、僅かに忠告が遅かった。

 ばんっ! と音を立てて、階段を駆け上がろうとしたシャルの身体が止まる。まるで、透明な何かに行く手を遮られるように。

「ぶえっ、な、なんじゃ……」

 そのまま膝から崩れ落ちるシャルに追いついた僕は、階段の方へ手を伸ばす。すると、何もないはずなのに手が、確かな感触を捉える。

「やっぱり。ここは教室の壁だ」

 壁のある場所の視界を歪めて、あたかも階段があるかのように見せかける。
 相手が幻術使いであるなら、ただ見えている景色を錯覚させるだけという、脳に干渉しない当たり前の手段を使ってくる可能性を考慮してしかるべきだった。

「くっ。記憶の改ざんや集団幻覚を無意識下レベルまで平然とやってのけるから、こんな単純な手を使ってくる可能性を失念してた!」

 人は、あまりにも強大な力を見たとき、自然と小さなものを見落とす。
 完全に一杯食わされた感じだった。

「シャル、大丈夫?」
「くっ……なんてことをしてくれるのじゃ!」

 シャルは怒りに拳を握りしめ、思いっきり腕を横に振るう。が――

「待って! 生物室脇には――!」

 が、忠告も虚しくシャルの腕は風を切ってフルスイングし――がしゃぁあああん!
 ガラスの割れ砕ける音と共に、今まで幻術で隠されていたザリガニの水槽が破壊される。当然、割れた穴から水が飛び出し、シャルに直撃。忽ち濡れ鼠になってしまう。

「――あ」

 僕は、あまりにもあんまりな光景に、言葉を失っていた。シャルの肩の上で呑気にハサミを振るうザリガニが羨ましくてしょうが無い。
 まあ、一秒後にはこんがりソテーされていても仕方ないくらい、危ない橋を渡っていることにザリガニは気付いてないだろうが。

「あ、あの……シャル?」
「――やる」
「え?」
「天井ごと《バーニング・ブレス》で吹き飛ばしてやる! そうすれば幻覚なんぞ関係ないわぁああああああああ!」
「やめて落ち着いて! そんなことしたらいろいろ被害がぁあああああああ!」
「そうですよシャル! 落ち着いてください! なんの罪も無い生徒を消し炭にしてしまいます!」

 暴れるシャルを、ミリーさんと二人でなんとか取り押さえるのだった。

――。

「ゆ、許さん。こんな悪辣な罠を仕掛けるなんて……性悪すぎるじゃろ!」
「(ほとんど自爆しただけですけどね)」
「(ミリーさん、シーッ!)」

 ジト目で辛辣な台詞を吐くミリーさんに、僕は人差し指を口に当ててジェスチャーする。

「で、結局どう攻略するんじゃ、旦那様」
「う~ん。そうだな」

 僕だって、なんでもかんでも学校の配置や間取りを覚えているわけではない。
 なんとなくの階段の場所ならわかるが、それだけだ。道中、怪我をしないとも限らない。
 僕は少しの間思案して。ふと、それに気付く。シャルの髪から未だ垂れる、水滴に。

「旦那様? どうしたんじゃ、妾のことをじっと見て」
「――案外、楽に攻略できるかも」
「唐突にチョロい女だと思われた!?」

 シャルの絶叫が、辺りに木霊した。
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