ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

文字の大きさ
50 / 61
第3章 狐の嫁入り、夢か現か

第50話 少女の思惑

しおりを挟む
 ――音を立てて、屋上に続く扉を開け放つ。
 そこは、あまりにも別世界じみていた。昼と夜をない交ぜにしたような、混沌渦巻く空と空気の色彩。
 その空の下、紫色の魔法陣が燦然と輝いている。

 教室から見上げた空の色は、確かに青かった。
 しかし、魔法陣に近づいた今、その色すら認識を曖昧に歪めていく。ひょっとしたら、シャルとミリーさんが見ている景色とも違うかもしれない。
 宇宙空間で上下左右の感覚を失うように、現実と虚構の境がわからなくなるような光景が広がっている。
 でも――

「来たぞ……」

 一歩、屋上の床を踏みしめる。
 魔法陣の中心。その下に、一人の少女がいた。
 銀の混じる金髪。黒瞳《こくどう》の中心に諦念と憎悪を宿し、少女は部外者である僕達を睨みつける。
 その背後に、白銀の靄がクジャクの羽のように――否。九つに分かれた尻尾のように揺れていた。

「何をしようとしているのかはわからない。君が、何を思ってこんなことをしているのかも」

 そんな少女へ向け、僕は言葉を投げかける。
 思えば、最初から不思議な子だった。性格はマイペース。その黒い瞳にどんな感情を宿しているのか、まったくもってわからない。
 そのミステリアスな雰囲気が人気で、学校のアイドル的存在に担ぎ上げられていることもあって。

 そんなとき、彼女は嬉しかったのか? 悲しかったのか? それとも……恨んでいたのか?
 何一つわからない。いや、違う。

 不思議な少女なんだなと思って、それ以上の追求を怠っていた。
 誰かが、気付かなければいけなかった。少女の抱えるものが、どれほど重たいのかを。彼女の中のなにかが決定的に歪んで、壊れてしまう前に。
 だから――

「間に合わなかったけど、せめてここで止める」

 僕は、目の前の少女を――九条梨狐さんを見据えて、そう覚悟を決めた。
 風が、屋上を吹き流れていく。しばしの間、吸い込まれそうな黒い瞳を見据えていた僕は、彼女の唇が動くのに気付いた。
 
「……どうやって。どうやって、こんなに早くここへ来たの?」

 チャーミングな太い眉をしかめて、梨狐さんが問いかけてくる。

「私の生み出した捏造世界は、皆が皆都合の良い夢を見られるように調節されてた。それに――学校中に幻想風景を張って、簡単には屋上に来られないようにしていたのに」
「前者については、僕も戻ってこられたのは奇跡だと思う。実際、シャルとミリーさんがいなかったら、今も幸せな夢を見たままだった」

 僕は、左右両隣に並ぶ二人を見つつ、そう答える。
 よく、現実に戻ってこられたなと今でも思う。それほどまでに、あの空間は幸せで満ちていて、虚構とわかった今でも名残惜しい。
 でも――

「けど、梨狐さんが生み出したあの世界には、僕が一番大切にしているものが欠けていた。その違和感が、僕を現実に引き戻してくれた。君が生み出した世界がどんなに理想的で幸せでも、ここにある現実がもっと幸せなら……戻ってこない理由がない」
「っ!」

 梨狐さんは忌々しげに歯噛みする。
 あの空間は、どこまでも幸せで、優しくて――空っぽだった。とりあえず笑いあっている親友。とりあえずいてくれる思いを寄せてくれる人。とりあえずクラスメイトに囲まれている空間。

 そこに、背景もストーリーもない。だから、幸せだけで思い出がない。
 僕が抱きしめていたい幸せは、シャルとミリーさんと、命がけで勝ち取ったものだ。その重みが、薄っぺらい幻想に負けるわけもない。

「……じゃあ、後者は」

 梨狐さんは、鋭い瞳で僕を見据えつつ、学校中に張り巡らせた幻想の罠を破った理由を聞いてくる。
 あれは幻想で作られた迷路だ。そう簡単には突破できない。でも――

「視覚は騙せても、教室の配置まで全部変えてるわけじゃない。見えてる景色と現実が違うだけ。なら、」

 僕は人差し指を軽く振るう。
 すると、僕の背後を追い越して、バレーボールくらいの大きさの水玉が踊るように回った。
 《水流操作》の権能で浮かべている、生物室前の水槽の水だ。

「やりようはある」
「……そう。水を操って自分の前に進ませ、障害物を察知して避けながら来たってわけ」

 ミリーさんは、諦めたように嘆息する。

「そろそろ、こっちも聞かせてくれないかな? どうして、こんなことをしているのか。お遊びってわけじゃないでしょ?」
「そうだね。私の幻想を二重で打ち破ったんだし、それくらいのことは伝えてもいいよ」

 案外あっさりと、梨狐さんは首肯し、真っ黒な瞳を僕に向けて言った。

「復讐。――ありきたりだけど、それが私がこうしてここにいる理由だよ」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...