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第二章 《最凶の天空迷宮編》

第四十二話 クレアの真実

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「どうした、クレア!」



 咄嗟に彼女の元まで走っていき、背中を揺する。

 が、返事の代わりに、小刻みに息を吐くだけだ。

  顔からは血色が失せており、一瞥いちべつしただけで重篤な状態であることがわかった。



「まずいわね。口がきけない程に弱ってる」



 エナも、険しい表情でクレアの首筋に触れる。



「前兆はあったけど、やっぱり体調が悪かったんだ」



 村長と別れるときも、違和感はあったが……ここまでだったとは。

 何か、大きな病気だろうか。



「とにかく、早く医者に診せないと!」



 焦る心を落ち着かせるように無理矢理深呼吸をする。

 そのときだった。



『その必要はない』



 突如として、頭の中に声が聞こえてきた。



「誰だ!」



 反射的に声を出すが、すぐに気付いた。

 誰かはわからないが、この声には確かに聞き覚えがあった。



(この声……さっき、ラスボスを倒したときにも聞いた)



「クレアを医者に診せる必要はないって、どういうこと?」

『言葉通りの意味だ。彼女を医者に診せたところで治らない』

「治らないだって?」



 淡々とした回答に、思わず眉をひそめて――



「ちょ、ちょっとエランくん。誰と話してるの?」



 そのとき、エナが心配そうに顔をしかめながら聞いてきた。

 どうやら、エナの頭の中にこの声は届いていないらしい。

 絶対、空気と話す変な奴だと思われた。けれど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。



「エナには聞こえない声と話してる……みたい」

「え? それってどういう――」

「ワケは後でちゃんと話すよ」



 一言そう断ってから、深く息を吸って不可思議な声の主に問うた。



「あんた、一体何者なんだ? どうして、クレアを医者に診せても意味ないことを知ってるんだ?」

『俺か。そうだな、あえて言うなら報復者リタリエイターといったところか。クレアのことはよく知っている。なんせ、家族みたいなものだからな』

「……は?」



 わからない。

 言ってることが曖昧で、何も聞きたいことを返してくれない。

 ただ一つわかったことは、声色と一人称から、声の主が男であることくらいだ。



「医者に診せても意味がないってのは、それほど重い病気ってことなのか?」

『いや、違う。自然の摂理に則って、身体が拒絶反応を起こしているだけだ。水から上がった魚が地上で生きられないのと同じように、クレアは地上では生きられない。彼女は、人間じゃないんだ』

「え? は……えぇえええええっ!?」



 突拍子もない話に、腰が抜けるほど驚いた。

 側で倒れているクレアを凝視する。

 こうして見ても、普通の女の子となんら変わらない。ただ、苦しそうに息をする彼女の顔を見ると、この世界で生きられないという言葉の説得力が、否応なく僕を殴りつけた。



「この世界で生きられないなら、どうすればいいんだ?」

『簡単なことだ。いきられる場所に再び戻せばいい。だから、俺のいる第一迷宮ファースト・ダンジョン《モノキュリー》へ来い』

「なっ! 《モノキュリー》だって?」

『ああ。《モノキュリー》は、全てのダンジョンのもとになった、いわゆる起源オリジンだ。一度外界に出てダメージを負ったクレアの身体を治すには、エネルギーの強い《モノキュリー》が最適だ。水から上がって酸欠状態の魚を戻すなら、より酸素が多い水の方がいいだろう? それに、お前は俺に直接会っていろいろ聞きたいんじゃないか?』

「っ!」



 不意打ちで図星を付かれ、歯噛みする。

 声の主の言う通りだ。僕は、クレアが人間じゃない理由をちゃんと知りたい。



 思えば、彼女のステータスがエラー表示になっていたり、外の世界を見たことがないような様子を見せていたりしたが、最悪な形で納得する形となった。



 けれど、まだ納得できていないことが多すぎる。

 人間じゃないなら、彼女は何者なのか。彼女の家族を名乗った声の主は、一体何なのか。

 直接会って、話を聞く必要がある。



「わかった。望み通り《モノキュリー》へ行く」

『ふっ。お前ならそう答えると思っていた。待っているぞ』



 声の主は満足げに鼻を鳴らして――それっきり声をかけてくることはなかった。
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