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第二章 《最凶の天空迷宮編》
第四十一話 異変は唐突に
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「なんで、あんな場所に……あいつは一体、何を考えてるんだ」
「あなたへの嫉妬、畏怖、憤怒、認めたくない羨望、その他もろもろが爆発したんでしょうね。あの人、器は小さいのにプライドだけは高かったもの」
「それは僕も知ってるし、ウッズのとりそうな行動なのはわかるけど……よりによって、どうして《モノキュリー》を選んだんだ」
第一迷宮《モノキュリー》は、一度入ればラスボスを攻略するまで二度と出られない、天空の牙城だ。
かつて挑んだ者は誰一人帰ってこなかったことから、攻略難易度も他の迷宮とは比べものにならないとすら言われている。
矮小なる人間が踏み込んでいい場所ではない。
「きっと、あなた以上の立場に立とうとしたんでしょ。自らの愚かさに溺れて、命を捧げるなんてバカげてる」
「まあ、いいんじゃない? その愚かさを止めてやる義理なんて、僕らにはないんだし」
強いて言うなら、元リーダーだから。くらいしか奴の過ちを正す理由はない。
けれど、そのリーダーに救われた事なんて今まで一度もない。命の危険に曝されてまで助けてやる義理もなければ、殴りに行くだけの価値がある奴でもない。
自業自得。
その言葉だけが似合う、ただの愚者だ。
なのに――あのいけ好かない奴が、死の恐怖に怯える最後の瞬間。そんなものを想像すると、何か心の中心が締め付けられるのを感じた。
「ふふっ、心配?」
心を読んだかのように、エナが顔を覗き込んでくる。
「そんなわけないでしょ」
「嘘。私を助けてくれたときと、おんなじ顔をしてるもの。誰かを助けようとするとき、あなたはいつも苦しそうな表情をするから」
「いつの話をしてるんだよ」
急にエナとの出会いの話をされて、恥ずかしくなる。
僕とエナは、三年前、第二迷宮《ジマーズ》の中層にて、強大なモンスターに襲われていたところを助けたという、ラブコメの主人公もビックリな出会い方をした。
「あなたは昔からそう。Dクラスモンスターにすら苦戦する弱者なのに、誰かが危ないと助けようとする」
「買いかぶりすぎだよ。僕はそんな、ヒーローじみた人間じゃない。ただ、死ぬ間際に恐怖の表情を浮かべて命を散らせる人が、ダンジョンの中に何百人いるのかと思うと、たまらなく苦しくなるだけだ」
「ふーん、そうなんだね」
納得したような顔をしているが、その実見透かされているような気がしてならない。
ウッズのこと、心の奥底に引っかかっているのは、バレているようだ。
けれど……
(やっぱり、心配だからといって《モノキュリー》に行くのはなぁ)
自分の命をかけてまで、殺そうとしてきた相手を迷わず助けようとするほど、僕はお人好しじゃない。それに、今の僕は控えめに言ってウッズとは比較にならないほど強くなっている。
そんな状態の自分に助けられようものなら、あいつのプライドはズタズタに引き裂かれるだろう。
見すてた相手に助けられるなんて、そんなの屈辱以外のなにものでもない。
(助けられても迷惑、か)
一番助けて欲しくない奴に助けられるなんて、向こうが望まない。
こっちだって、表面上は助けたくない気持ちでいっぱいだし、自己満足にすらならない。
(せめて、健闘を祈る)
窓の外に浮かぶ巨大な島の中にいるであろうウッズに想いを馳せる。
僕は、ただ自分を見すてた相手を、今度はこちらからも見限ってやることにした。
どさっ。
突然何か大きいものが倒れる音が聞こえて、僕とエナは反射的にそちらを見る。
そして。
「なっ!?」
「えっ!?」
同時に驚きの声を上げた。
クレアが、冷たい床に倒れ伏していたのだ。
「あなたへの嫉妬、畏怖、憤怒、認めたくない羨望、その他もろもろが爆発したんでしょうね。あの人、器は小さいのにプライドだけは高かったもの」
「それは僕も知ってるし、ウッズのとりそうな行動なのはわかるけど……よりによって、どうして《モノキュリー》を選んだんだ」
第一迷宮《モノキュリー》は、一度入ればラスボスを攻略するまで二度と出られない、天空の牙城だ。
かつて挑んだ者は誰一人帰ってこなかったことから、攻略難易度も他の迷宮とは比べものにならないとすら言われている。
矮小なる人間が踏み込んでいい場所ではない。
「きっと、あなた以上の立場に立とうとしたんでしょ。自らの愚かさに溺れて、命を捧げるなんてバカげてる」
「まあ、いいんじゃない? その愚かさを止めてやる義理なんて、僕らにはないんだし」
強いて言うなら、元リーダーだから。くらいしか奴の過ちを正す理由はない。
けれど、そのリーダーに救われた事なんて今まで一度もない。命の危険に曝されてまで助けてやる義理もなければ、殴りに行くだけの価値がある奴でもない。
自業自得。
その言葉だけが似合う、ただの愚者だ。
なのに――あのいけ好かない奴が、死の恐怖に怯える最後の瞬間。そんなものを想像すると、何か心の中心が締め付けられるのを感じた。
「ふふっ、心配?」
心を読んだかのように、エナが顔を覗き込んでくる。
「そんなわけないでしょ」
「嘘。私を助けてくれたときと、おんなじ顔をしてるもの。誰かを助けようとするとき、あなたはいつも苦しそうな表情をするから」
「いつの話をしてるんだよ」
急にエナとの出会いの話をされて、恥ずかしくなる。
僕とエナは、三年前、第二迷宮《ジマーズ》の中層にて、強大なモンスターに襲われていたところを助けたという、ラブコメの主人公もビックリな出会い方をした。
「あなたは昔からそう。Dクラスモンスターにすら苦戦する弱者なのに、誰かが危ないと助けようとする」
「買いかぶりすぎだよ。僕はそんな、ヒーローじみた人間じゃない。ただ、死ぬ間際に恐怖の表情を浮かべて命を散らせる人が、ダンジョンの中に何百人いるのかと思うと、たまらなく苦しくなるだけだ」
「ふーん、そうなんだね」
納得したような顔をしているが、その実見透かされているような気がしてならない。
ウッズのこと、心の奥底に引っかかっているのは、バレているようだ。
けれど……
(やっぱり、心配だからといって《モノキュリー》に行くのはなぁ)
自分の命をかけてまで、殺そうとしてきた相手を迷わず助けようとするほど、僕はお人好しじゃない。それに、今の僕は控えめに言ってウッズとは比較にならないほど強くなっている。
そんな状態の自分に助けられようものなら、あいつのプライドはズタズタに引き裂かれるだろう。
見すてた相手に助けられるなんて、そんなの屈辱以外のなにものでもない。
(助けられても迷惑、か)
一番助けて欲しくない奴に助けられるなんて、向こうが望まない。
こっちだって、表面上は助けたくない気持ちでいっぱいだし、自己満足にすらならない。
(せめて、健闘を祈る)
窓の外に浮かぶ巨大な島の中にいるであろうウッズに想いを馳せる。
僕は、ただ自分を見すてた相手を、今度はこちらからも見限ってやることにした。
どさっ。
突然何か大きいものが倒れる音が聞こえて、僕とエナは反射的にそちらを見る。
そして。
「なっ!?」
「えっ!?」
同時に驚きの声を上げた。
クレアが、冷たい床に倒れ伏していたのだ。
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