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第3話 魔法講師になりました
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――炎の赤が視界から消え失せ、魔力の残滓が辺りに漂う。
周囲の客達は、何が起きたのか理解が追いついていないといった表情で、俺達の方を眺めている。
あ、口を開けたまま固まってる客のフォークから、ステーキが落ちた。
「――ふぅん。ザコ中のザコ。私と違って劣等生、ねぇ?」
俺に向けて手をかざしたまま、アイラは眉を吊り上げる。
「っぶねぇ……」
思わず安堵の息を吐く俺に向かって、アイラは告げた。
「なんでそんなあなたが、位階7のアークウィザードたる私の上級魔法を喰らって無傷なのか、甚だ疑問だわ」
納得いかない、とでも言いたげなアイラに向かって俺は吠えた。
「おいテメェ! いきなり人様に向かって上級魔法ブッパってどういう神経してんだ!? たまたまこっちの魔法が間に合ったからいいものの、凶暴すぎんだろ! そんなんだから顔は可愛いくせにモテねぇんだよ!」
「なっ……か、かわ……じゃなくて、私だってモテるわよ! だけど、す、好きな人がいるから全部フッてるの!」
「ほ~う、お前に思い人がいるってのか。どいつだ、言ってみろよ」
そう言うと、なぜかアイラは顔を赤くして。
「い、言えるわけないでしょ!? ていうか、アンタだけには絶対言えない!」
「なるほど、つまり俺には気付かれたくない相手と……そうか。お前、そんなに俺のこと」
「え? な、なによ……い、今更気付いたって遅いというか、その……」
モジモジするアイラの肩をポンと叩くと、アイラはビクリと身体を震わして。
「そんなに俺が信用できないか。いやぁ、悪かった。俺としてはいき遅れで男っ気のないお前にようやく春が来たのかと思うと嬉しいんだが、お前が俺を信用してくれないなら仕方ない。お前が誰かを好きになるとか恐ろしいこともあるもんだが、俺は影ながら応援――」
「《インフェルノ・ブラスター》」
「きょわぁああああああああっ!」
殺し屋の目で容赦なく上級魔法をブッパするアイラの攻撃を、慌てて防御する俺であった。
――。
それから一週間後。
臨時講師として働く手続きが無事に済んだ俺は、講師として初出勤の朝を迎えた。
「ふむ。ここがファーニル魔法学校か」
俺は、正門を入ってすぐに見える校舎をまじまじと見つめ、そんな風に呟いた。
――まあ、来たことあるんだけどな。ていうか、母校だがな。
卒業してから早四年。当然ながら、貴族の屋敷みたいな大仰なデザインの校舎も、中央にそびえる時計塔も、まるで変わっていない。
そのことに懐かしさを覚えながら、俺は教師用の昇降口から中へ入った。
先日通達された俺の担当するクラスは、一年F組だったはずだ。
「はぁ~、階段上り下りするのしんどい」
なんだって一年の教室は5階にあるんだよ。遠すぎだろ。一年だから一階でいいじゃん。
悪態をつきつつ最上階の五階へ上がった俺は、更に一番奥の教室に当たるF組へと足を運ぶ。
と、そこまでの道中に講師用のローブに身を包んだ初老の男が見えた。
この学校の先輩教師かな。まあ、これから授業があるんだろうし邪魔はしないでおこう。
「おやおや、誰かと思えばそこにいるのは、仕事がなくて左遷された可哀想なお人ではありませんか。いやはや、例のクラスの新任となるのがどれほどの疫病神かと思えば――っておい貴様! 聞いておるのか!?」
無言を貫いて通り過ぎようとした俺の方を向いて、汚い唾を飛ばしてくる初老の教師。
はて? 一体誰に話してるんだ?
俺は後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
「貴様しかおらんじゃろうが、レント=シュノー! まったく、誇り高き位階《ランク》8のアークウィザードたるわし――ハーゲチャ=ビーンの言葉を無視するとは、良い度胸――」
「そうですかそれは失礼しましたでは俺はこれで」
「ちょぉおおおおっと待てい! まだ話は終わっておらぬわ!!」
通り過ぎようとした俺の前を塞ぐように、でっぷりした腹で通せんぼしてくる先輩教師。
「はぁ。俺急いでるんですが、通してくれませんかね禿げちゃびん先輩」
「やかましい! 変な渾名で呼ぶな!」
ゼエゼエと肩で息をする禿げちゃびん先輩。
「くっ、まあよい。貴様、噂は聞いたぞ。勇者パーティに入っておきながら役立たずで追い出された無能らしいな」
「まあ、そうですね」
「貴様のようなクズが誇り高き我が学園で働くなど言語道断。すぐに根を上げるじゃろうが、まあ精々頑張ることだ」
「はぁ……」
「まあ、無能は無能らしく、せいぜいお似合いの場所で頑張っていろ。まあ、Dクラスはワシそっくりで優秀じゃから、高みの見物をしとるがの」
お似合いの場所で頑張っていろ、という言葉にひっかかる。
この学校は、王国でも有数の優秀な学校。俺みたいな無能にお似合いの場所がある、などとこの底意地の悪そうな人が言うとは思えないのだが。何か事情でもあるのだろうか?
まあ、そんなことよりもだ。
「禿げちゃびん先輩そっくりで優秀……」
俺は、改めて禿げちゃびん先輩を見る。
太っていて寸胴で短足。丸い顔は綺麗に脂ぎっていて、日々磨き上げている頭がきらりと輝いている。
「がははははは――おい、貴様。何をそんな哀れむような目で見ている? おいやめんか、Dクラスに向かって手を合わせて拝むんじゃない!!」
Dクラスの優秀な生徒達は、もう手遅れのようだ。
周囲の客達は、何が起きたのか理解が追いついていないといった表情で、俺達の方を眺めている。
あ、口を開けたまま固まってる客のフォークから、ステーキが落ちた。
「――ふぅん。ザコ中のザコ。私と違って劣等生、ねぇ?」
俺に向けて手をかざしたまま、アイラは眉を吊り上げる。
「っぶねぇ……」
思わず安堵の息を吐く俺に向かって、アイラは告げた。
「なんでそんなあなたが、位階7のアークウィザードたる私の上級魔法を喰らって無傷なのか、甚だ疑問だわ」
納得いかない、とでも言いたげなアイラに向かって俺は吠えた。
「おいテメェ! いきなり人様に向かって上級魔法ブッパってどういう神経してんだ!? たまたまこっちの魔法が間に合ったからいいものの、凶暴すぎんだろ! そんなんだから顔は可愛いくせにモテねぇんだよ!」
「なっ……か、かわ……じゃなくて、私だってモテるわよ! だけど、す、好きな人がいるから全部フッてるの!」
「ほ~う、お前に思い人がいるってのか。どいつだ、言ってみろよ」
そう言うと、なぜかアイラは顔を赤くして。
「い、言えるわけないでしょ!? ていうか、アンタだけには絶対言えない!」
「なるほど、つまり俺には気付かれたくない相手と……そうか。お前、そんなに俺のこと」
「え? な、なによ……い、今更気付いたって遅いというか、その……」
モジモジするアイラの肩をポンと叩くと、アイラはビクリと身体を震わして。
「そんなに俺が信用できないか。いやぁ、悪かった。俺としてはいき遅れで男っ気のないお前にようやく春が来たのかと思うと嬉しいんだが、お前が俺を信用してくれないなら仕方ない。お前が誰かを好きになるとか恐ろしいこともあるもんだが、俺は影ながら応援――」
「《インフェルノ・ブラスター》」
「きょわぁああああああああっ!」
殺し屋の目で容赦なく上級魔法をブッパするアイラの攻撃を、慌てて防御する俺であった。
――。
それから一週間後。
臨時講師として働く手続きが無事に済んだ俺は、講師として初出勤の朝を迎えた。
「ふむ。ここがファーニル魔法学校か」
俺は、正門を入ってすぐに見える校舎をまじまじと見つめ、そんな風に呟いた。
――まあ、来たことあるんだけどな。ていうか、母校だがな。
卒業してから早四年。当然ながら、貴族の屋敷みたいな大仰なデザインの校舎も、中央にそびえる時計塔も、まるで変わっていない。
そのことに懐かしさを覚えながら、俺は教師用の昇降口から中へ入った。
先日通達された俺の担当するクラスは、一年F組だったはずだ。
「はぁ~、階段上り下りするのしんどい」
なんだって一年の教室は5階にあるんだよ。遠すぎだろ。一年だから一階でいいじゃん。
悪態をつきつつ最上階の五階へ上がった俺は、更に一番奥の教室に当たるF組へと足を運ぶ。
と、そこまでの道中に講師用のローブに身を包んだ初老の男が見えた。
この学校の先輩教師かな。まあ、これから授業があるんだろうし邪魔はしないでおこう。
「おやおや、誰かと思えばそこにいるのは、仕事がなくて左遷された可哀想なお人ではありませんか。いやはや、例のクラスの新任となるのがどれほどの疫病神かと思えば――っておい貴様! 聞いておるのか!?」
無言を貫いて通り過ぎようとした俺の方を向いて、汚い唾を飛ばしてくる初老の教師。
はて? 一体誰に話してるんだ?
俺は後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
「貴様しかおらんじゃろうが、レント=シュノー! まったく、誇り高き位階《ランク》8のアークウィザードたるわし――ハーゲチャ=ビーンの言葉を無視するとは、良い度胸――」
「そうですかそれは失礼しましたでは俺はこれで」
「ちょぉおおおおっと待てい! まだ話は終わっておらぬわ!!」
通り過ぎようとした俺の前を塞ぐように、でっぷりした腹で通せんぼしてくる先輩教師。
「はぁ。俺急いでるんですが、通してくれませんかね禿げちゃびん先輩」
「やかましい! 変な渾名で呼ぶな!」
ゼエゼエと肩で息をする禿げちゃびん先輩。
「くっ、まあよい。貴様、噂は聞いたぞ。勇者パーティに入っておきながら役立たずで追い出された無能らしいな」
「まあ、そうですね」
「貴様のようなクズが誇り高き我が学園で働くなど言語道断。すぐに根を上げるじゃろうが、まあ精々頑張ることだ」
「はぁ……」
「まあ、無能は無能らしく、せいぜいお似合いの場所で頑張っていろ。まあ、Dクラスはワシそっくりで優秀じゃから、高みの見物をしとるがの」
お似合いの場所で頑張っていろ、という言葉にひっかかる。
この学校は、王国でも有数の優秀な学校。俺みたいな無能にお似合いの場所がある、などとこの底意地の悪そうな人が言うとは思えないのだが。何か事情でもあるのだろうか?
まあ、そんなことよりもだ。
「禿げちゃびん先輩そっくりで優秀……」
俺は、改めて禿げちゃびん先輩を見る。
太っていて寸胴で短足。丸い顔は綺麗に脂ぎっていて、日々磨き上げている頭がきらりと輝いている。
「がははははは――おい、貴様。何をそんな哀れむような目で見ている? おいやめんか、Dクラスに向かって手を合わせて拝むんじゃない!!」
Dクラスの優秀な生徒達は、もう手遅れのようだ。
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