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第4話 最弱無能は教鞭を執る
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一年F組。
生徒数は16名。
魔法学校への入学は、特例を除いて15歳からとなっている。
つまり、教卓に立つ俺の前にいる生徒達は、まだ15歳ということだ。
うん、若さって素晴らしい。
「突然だが、今日から臨時講師を務めることになった、レント=シュノーだ。今後ともよろしく頼む」
「「「「……」」」」
シーン。
誰も返事をしてくれない。あ、あれ? どうなってるんだ?
心なしか、皆の表情が暗い気がするのだが。
とはいえ、ちゃんと教科書は出しているからボイコットというわけでもなさそうだ。
「じゃ、じゃあ授業始めていくぞ」
俺は気を取り直して、転職一日目の仕事を開始した。
――。
「――大前提として、魔法には属性というものがある。火・水・土・風の基本四属性に加えて、光・闇そして無属性の計七つ」
俺は、黒板にカリカリと魔法の基礎を記していく。
ちゃんと板書を写しているあたり、聞く気がないというわけではなさそうだ。なのに、なぜか生徒達の視線が怖い。
中でも怖いのが、一番前に座っている薄緑色のロングヘアーの美少女だった。
名前は確か、フィオネ=ル=サルシークと言ったか。サルシークと言えば、王国でも指折りの大貴族。つまり、彼女はサルシーク家のご令嬢ということになるが……怖い。顔が怖い。
視線の圧に耐えながらも、俺は授業を進めていく。
「――更に、七つの属性のそれぞれに、様々な種類の魔法があるわけだな。例えば火属性なら、初級の《ファイア・トーチ》から上級の《インフェルノ・ブラスター》まで。無属性ならば、《転移魔法》に《収納魔法》、あとは《回復魔法》もそこに当たるな。で、基本的に七つの属性のどれが使えるかは生まれ持った才に依存するため、最初から複数属性を所持する者もいれば、一つしか扱えない者もいる」
例えば俺とか。
「だが、種類については努力とセンス次第でなんとかなる場合が多い。世の中には、一つの属性しか使えずとも、その属性を意のままに操り、超一流のアークウィザードとして名を馳せた偉人も、少ないが全くいないというわけではない」
《収納魔法》しか使えず、悪名を残した俺という偉人(爆笑)もここにいるしな。
「そんなわけで、若い君達は希望を胸に頑張って――」
そこまで言った、そのときだった。
「納得いきませんわ!!」
ばんっ、と。不意に机を叩くようにして立ち上がった少女が、俺を睨みつけてきた。
さっきからやたら俺を敵視してくる、フィオネだった。
「あ? なんだどうした」
「どうしたもこうしたもありません! どうして、あなたのような、魔法使いにあるまじき御方が、我が物顔で教鞭をとっているんですの!?」
なるほど、そうきたか。
ぶっちゃけ、これは予想していたことだ。
将来、国を背負って戦う魔導師や、国の発展のために叡智を捧げる覚悟を決めた魔法使いは、よくも悪くも高慢ちきでプライドがやたら高い者達が多い。
己が知識と技量に誇りを持ち、他者を踏み台にしてでも己の研鑽に努める、それが魔法使いというものだ。
そんなプライドの塊である彼等が、よりにもよって俺のような《収納魔法》しか使えないクズに師事するなど、耐えられないのも頷ける。
とはいえ――
「んなこと言われてもなぁ。正式に講師として雇われている以上、俺はお前等を教え導く義務が生じてるわけで……俺としてもまことに不本意極まりないが、まあ我慢してくれ。えぇと……フィオネ」
「なっ!」
ひらひらと手を振って授業に戻ろうとする俺に対し、フィオネが呆気にとられたように目を見開く。
が、やがてその細い肩がふるふると震えだし――
「呼び捨て? 誇り高きサルシーク家の私に対して、呼び捨て!?」
「……あ」
しまった、つい癖で。
同じ貴族に腐れ縁のヤツがいるから、そのノリで言っちまった。
「すまん、これは――」
謝ろうとした俺は、しかしフィオネが放った言葉に、口を噤むこととなった。
「いつもそう。あなたがたは、私達を惨めにして……どれだけバカにすれば、気が済むんですの!?」
凄絶な怒りの感情だった。
年若い1人のお嬢さまを、歪めてしまった一端を垣間見たような、そんな気がして――しかし、フィオネがこちらへ向けて右手を構えたのを見て、俺は慌てる。
「ちょっ待て! それは流石に――」
慌てる俺の前で、フィオネの右手に魔力の光が宿っていく。
「講師ならば、この程度耐えられるはずでしょう! そうでなければ、あなたのような三流以下の講師など御免ですわ! これに懲りて学園を去ってくださいまし!」
声を荒らげるフィオネの手に魔法陣が展開される。
「いいから落ち着けって! お前、魔法なんて撃ったら――!」
「ご安心なさい、軽いケガで済むよう手加減して差し上げますわ!」
そう告げるフィオネに、俺は大声で告げる。
「バカかお前! 俺のことじゃねぇよ!」
魔法とは、世界の法則に人の意志で無理矢理割り込む行為。
つまり、生半可な状態で起動などできないし、最悪の場合暴発する。例えば、感情が荒れていて、著しく集中力を欠くときなど。
要するに、だ。
「そんな精神状態で魔法なんて撃ったら――」
「え?」
ボンッ! と。
初級風属性魔法、《ウィンド・ブロウ》が暴発を起こし、あらぬ方向へと吹き荒れた。
生徒数は16名。
魔法学校への入学は、特例を除いて15歳からとなっている。
つまり、教卓に立つ俺の前にいる生徒達は、まだ15歳ということだ。
うん、若さって素晴らしい。
「突然だが、今日から臨時講師を務めることになった、レント=シュノーだ。今後ともよろしく頼む」
「「「「……」」」」
シーン。
誰も返事をしてくれない。あ、あれ? どうなってるんだ?
心なしか、皆の表情が暗い気がするのだが。
とはいえ、ちゃんと教科書は出しているからボイコットというわけでもなさそうだ。
「じゃ、じゃあ授業始めていくぞ」
俺は気を取り直して、転職一日目の仕事を開始した。
――。
「――大前提として、魔法には属性というものがある。火・水・土・風の基本四属性に加えて、光・闇そして無属性の計七つ」
俺は、黒板にカリカリと魔法の基礎を記していく。
ちゃんと板書を写しているあたり、聞く気がないというわけではなさそうだ。なのに、なぜか生徒達の視線が怖い。
中でも怖いのが、一番前に座っている薄緑色のロングヘアーの美少女だった。
名前は確か、フィオネ=ル=サルシークと言ったか。サルシークと言えば、王国でも指折りの大貴族。つまり、彼女はサルシーク家のご令嬢ということになるが……怖い。顔が怖い。
視線の圧に耐えながらも、俺は授業を進めていく。
「――更に、七つの属性のそれぞれに、様々な種類の魔法があるわけだな。例えば火属性なら、初級の《ファイア・トーチ》から上級の《インフェルノ・ブラスター》まで。無属性ならば、《転移魔法》に《収納魔法》、あとは《回復魔法》もそこに当たるな。で、基本的に七つの属性のどれが使えるかは生まれ持った才に依存するため、最初から複数属性を所持する者もいれば、一つしか扱えない者もいる」
例えば俺とか。
「だが、種類については努力とセンス次第でなんとかなる場合が多い。世の中には、一つの属性しか使えずとも、その属性を意のままに操り、超一流のアークウィザードとして名を馳せた偉人も、少ないが全くいないというわけではない」
《収納魔法》しか使えず、悪名を残した俺という偉人(爆笑)もここにいるしな。
「そんなわけで、若い君達は希望を胸に頑張って――」
そこまで言った、そのときだった。
「納得いきませんわ!!」
ばんっ、と。不意に机を叩くようにして立ち上がった少女が、俺を睨みつけてきた。
さっきからやたら俺を敵視してくる、フィオネだった。
「あ? なんだどうした」
「どうしたもこうしたもありません! どうして、あなたのような、魔法使いにあるまじき御方が、我が物顔で教鞭をとっているんですの!?」
なるほど、そうきたか。
ぶっちゃけ、これは予想していたことだ。
将来、国を背負って戦う魔導師や、国の発展のために叡智を捧げる覚悟を決めた魔法使いは、よくも悪くも高慢ちきでプライドがやたら高い者達が多い。
己が知識と技量に誇りを持ち、他者を踏み台にしてでも己の研鑽に努める、それが魔法使いというものだ。
そんなプライドの塊である彼等が、よりにもよって俺のような《収納魔法》しか使えないクズに師事するなど、耐えられないのも頷ける。
とはいえ――
「んなこと言われてもなぁ。正式に講師として雇われている以上、俺はお前等を教え導く義務が生じてるわけで……俺としてもまことに不本意極まりないが、まあ我慢してくれ。えぇと……フィオネ」
「なっ!」
ひらひらと手を振って授業に戻ろうとする俺に対し、フィオネが呆気にとられたように目を見開く。
が、やがてその細い肩がふるふると震えだし――
「呼び捨て? 誇り高きサルシーク家の私に対して、呼び捨て!?」
「……あ」
しまった、つい癖で。
同じ貴族に腐れ縁のヤツがいるから、そのノリで言っちまった。
「すまん、これは――」
謝ろうとした俺は、しかしフィオネが放った言葉に、口を噤むこととなった。
「いつもそう。あなたがたは、私達を惨めにして……どれだけバカにすれば、気が済むんですの!?」
凄絶な怒りの感情だった。
年若い1人のお嬢さまを、歪めてしまった一端を垣間見たような、そんな気がして――しかし、フィオネがこちらへ向けて右手を構えたのを見て、俺は慌てる。
「ちょっ待て! それは流石に――」
慌てる俺の前で、フィオネの右手に魔力の光が宿っていく。
「講師ならば、この程度耐えられるはずでしょう! そうでなければ、あなたのような三流以下の講師など御免ですわ! これに懲りて学園を去ってくださいまし!」
声を荒らげるフィオネの手に魔法陣が展開される。
「いいから落ち着けって! お前、魔法なんて撃ったら――!」
「ご安心なさい、軽いケガで済むよう手加減して差し上げますわ!」
そう告げるフィオネに、俺は大声で告げる。
「バカかお前! 俺のことじゃねぇよ!」
魔法とは、世界の法則に人の意志で無理矢理割り込む行為。
つまり、生半可な状態で起動などできないし、最悪の場合暴発する。例えば、感情が荒れていて、著しく集中力を欠くときなど。
要するに、だ。
「そんな精神状態で魔法なんて撃ったら――」
「え?」
ボンッ! と。
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