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第5話 ラッキースケベと不穏な気配
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「……へ?」
「……あ」
そのとき、時間が止まった。
暴発した魔法は、いくばくか威力を落とす形となり、そして真正面では無く下から上へと吹き上げた。
俺の目は、とある一点に釘付けにされている。
風が吹き上げたことで、花弁のように広がったフィオネのスカートの――その中身へと。
「ッ!?」
ようやく理解が追いついたフィオネが、慌ててスカートを抑えるが、もう遅い。
「……見ましたの?」
「え、えぇとぉ……」
俺は、俯いたままプルプルと震える少女から目を逸らしつつ、頬を掻く。
「その歳でウサギさん柄は、ちょっと……なぁ?」
「~~~~ッ!!」
顔を真っ赤にしたフィオネが、俺の前に突進してきて、全力全開の鉄拳が俺の頬に炸裂した。
――。
「いて、いててて……もっと優しくしろって」
「動かないで、じっとしててちょうだい」
授業終了後、昼休みだというのに、保健室に直行した俺はたまたま居合わせたアイラに、手当を受けていた。
保健の先生は、どういうわけかこの場にいないので、今は俺とアイラの二人きりだ。
脱脂綿に吸い込ませた消毒液が、腫れあがった頬に触れる度、ピリピリとした痛みが走る。
「ったくよぉ、アイツめ。本気で殴りやがって」
「女子生徒のパンツを盗み見た上、お子様呼ばわりしたんだから、自業自得よ。まったく」
どこか不機嫌そうに、アイラが呟く。
「お子様呼ばわりは俺が悪いが、見ちまったのは不可抗力だろ。どう考えても」
「どうかしらね。正直、初対面でパンツを見られた私とアンタの出会いを考えると、全く擁護できないわ」
「そうだっけ? お前、よくそんな昔のこと覚えてんな。俺との出会いとか覚えてる必要なんて、ないだろうに」
「それだけ衝撃的な出会いをすれば当然でしょうが! むしろあんたは、純粋無垢な乙女を穢した事実に、もう少し罪悪感を持て!!」
顔を真っ赤にして叫ぶアイラ。しかし、怒りの他に照れの感情があることに、俺は気付かない。
「しっかし、俺も嫌われたもんだな。クラスの連中も、妙に冷たい気がするし」
治療が終わり、いくばくか腫れの引いた頬を撫でながら、俺はため息をつく。
「仕方ないのかもね。Fクラスは、少し事情が特殊だもの」
治療道具を救急箱にしまい直しながら、アイラがそう呟く。
「事情が特殊?」
「ええ。彼等……特に、フィオネさんにとっては、いろいろと我慢ならないのよ。あなた、実力に反比例して世の中の評判が最悪でしょう? だから、あなたは特に受け入れがたいのかもしれないわね」
「俺が受け入れがたい? まあ、《収納魔法》しか使えないザコが、魔法学校の講師なんて、ふざけんなって言いたい気持ちはわかるが……」
自分たちは優秀なのに、こんなザコに教鞭を執らせるなど、バカにするな。と、そう言いたいのだろう。
高慢な魔法使いの卵がそう思うのは、至極当然なことだ。
しかし、そんな俺の考えを否定するように、アイラは首を横に振った。
「それだけじゃないのよ。あのクラスは――」
苦々しい表情を浮かべつつ、アイラが何か言おうとした、そのときだった。
ドォオオオオンッ!
凄まじい音と振動が、保健室を揺らした。
「な、なんだ?」
俺は、思わず窓の外を見る。
数十メートル離れた場所で、魔法の爆発があったのだろうか? 土煙が立ち上っているのが見える。
「あの方向はグラウンドね」
「誰かが魔法の訓練でもしてるのか?」
「そうだと思うけど……妙な胸騒ぎがするわね」
アイラは眉根をよせて考え込んでいたが、やがて俺の方を向いて。
「とりあえず、行ってみましょう」
「え~めんどくせぇ。俺はここで寝てるからお前が行ってこいよ――」
欠伸を噛み殺して告げる俺の前で、アイラが怪しく笑う。
「ほぅ?」
ボッと、その手に紅炎が宿る。
表情は笑っているが、目だけはまったく笑っていない。
「なるほどね。生徒の身の安全より昼寝が大事、と。なんなら私の手で、永遠の眠りにつかせてあげてもいいわよ?」
「さーて仕事仕事ぉ! 可愛い生徒のために身を粉にして働きますのことよ!」
「……あ」
そのとき、時間が止まった。
暴発した魔法は、いくばくか威力を落とす形となり、そして真正面では無く下から上へと吹き上げた。
俺の目は、とある一点に釘付けにされている。
風が吹き上げたことで、花弁のように広がったフィオネのスカートの――その中身へと。
「ッ!?」
ようやく理解が追いついたフィオネが、慌ててスカートを抑えるが、もう遅い。
「……見ましたの?」
「え、えぇとぉ……」
俺は、俯いたままプルプルと震える少女から目を逸らしつつ、頬を掻く。
「その歳でウサギさん柄は、ちょっと……なぁ?」
「~~~~ッ!!」
顔を真っ赤にしたフィオネが、俺の前に突進してきて、全力全開の鉄拳が俺の頬に炸裂した。
――。
「いて、いててて……もっと優しくしろって」
「動かないで、じっとしててちょうだい」
授業終了後、昼休みだというのに、保健室に直行した俺はたまたま居合わせたアイラに、手当を受けていた。
保健の先生は、どういうわけかこの場にいないので、今は俺とアイラの二人きりだ。
脱脂綿に吸い込ませた消毒液が、腫れあがった頬に触れる度、ピリピリとした痛みが走る。
「ったくよぉ、アイツめ。本気で殴りやがって」
「女子生徒のパンツを盗み見た上、お子様呼ばわりしたんだから、自業自得よ。まったく」
どこか不機嫌そうに、アイラが呟く。
「お子様呼ばわりは俺が悪いが、見ちまったのは不可抗力だろ。どう考えても」
「どうかしらね。正直、初対面でパンツを見られた私とアンタの出会いを考えると、全く擁護できないわ」
「そうだっけ? お前、よくそんな昔のこと覚えてんな。俺との出会いとか覚えてる必要なんて、ないだろうに」
「それだけ衝撃的な出会いをすれば当然でしょうが! むしろあんたは、純粋無垢な乙女を穢した事実に、もう少し罪悪感を持て!!」
顔を真っ赤にして叫ぶアイラ。しかし、怒りの他に照れの感情があることに、俺は気付かない。
「しっかし、俺も嫌われたもんだな。クラスの連中も、妙に冷たい気がするし」
治療が終わり、いくばくか腫れの引いた頬を撫でながら、俺はため息をつく。
「仕方ないのかもね。Fクラスは、少し事情が特殊だもの」
治療道具を救急箱にしまい直しながら、アイラがそう呟く。
「事情が特殊?」
「ええ。彼等……特に、フィオネさんにとっては、いろいろと我慢ならないのよ。あなた、実力に反比例して世の中の評判が最悪でしょう? だから、あなたは特に受け入れがたいのかもしれないわね」
「俺が受け入れがたい? まあ、《収納魔法》しか使えないザコが、魔法学校の講師なんて、ふざけんなって言いたい気持ちはわかるが……」
自分たちは優秀なのに、こんなザコに教鞭を執らせるなど、バカにするな。と、そう言いたいのだろう。
高慢な魔法使いの卵がそう思うのは、至極当然なことだ。
しかし、そんな俺の考えを否定するように、アイラは首を横に振った。
「それだけじゃないのよ。あのクラスは――」
苦々しい表情を浮かべつつ、アイラが何か言おうとした、そのときだった。
ドォオオオオンッ!
凄まじい音と振動が、保健室を揺らした。
「な、なんだ?」
俺は、思わず窓の外を見る。
数十メートル離れた場所で、魔法の爆発があったのだろうか? 土煙が立ち上っているのが見える。
「あの方向はグラウンドね」
「誰かが魔法の訓練でもしてるのか?」
「そうだと思うけど……妙な胸騒ぎがするわね」
アイラは眉根をよせて考え込んでいたが、やがて俺の方を向いて。
「とりあえず、行ってみましょう」
「え~めんどくせぇ。俺はここで寝てるからお前が行ってこいよ――」
欠伸を噛み殺して告げる俺の前で、アイラが怪しく笑う。
「ほぅ?」
ボッと、その手に紅炎が宿る。
表情は笑っているが、目だけはまったく笑っていない。
「なるほどね。生徒の身の安全より昼寝が大事、と。なんなら私の手で、永遠の眠りにつかせてあげてもいいわよ?」
「さーて仕事仕事ぉ! 可愛い生徒のために身を粉にして働きますのことよ!」
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