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第7話 フィオネとザーグ
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《三人称視点》
「そ、それは――ッ!」
フィオネは直ぐさま反論に移ろうとして、
「えぇ? なに必死になってんだよ。そんなんじゃ、自分たちが無能って認めてるようなもんだぞ? 本当に優秀なら、俺如きの言葉なんて余裕で聞き流せるもんなぁ?」
「っ!」
即座にザーグに言いくるめられ、唇を噛みしめる。
ザーグの後ろに控えるDクラスの生徒達の、嘲笑に満ちた視線がフィオネを突き刺す。
――学校の落ちこぼれ。
それが、フィオネの所属する1年Fクラスに下された、学校全体の評価だった。
七つある属性のうち、生まれつき一つしか使えない者。魔法制御の才能に乏しい者。単純に成績不振の者。様々な理由から、無能と判断された者達が集うクラス。
なまじプライドが高く、他者を見下しがちなウィザード達が、優越感を得るためだけに、学園側が意図的に作り上げたクラス。要するに、掃き溜め。
生まれつき才能がある者や、学園に来て才能を発揮し始めている者はいいだろう。
だが――ただの天運でウィザードとしての才能が乏しく、それでも努力を惜しまない者も少なくないFクラスの者達からしたら、どうだろうか?
「ってなわけで、お前等そこ退いてくんね? これから俺達ユーシューなDクラスは、模擬戦術祭の練習すんの」
「そ、そんな横暴が通じるとお思いですの!?」
唇を噛みしめるだけだったフィオネは、たまらず食って掛かる。
模擬戦術祭の練習場所は、各クラスに決まった場所が割り当てられている。それを侵害するというのは、Fクラスとしても受け入れがたい話であった。
「あ?」
だが、ザーグは面白く無さそうな顔をした。
そして、次の瞬間。
「《ファイア・ストーム》」
無造作に右腕を構えて、呪文を唱えた。
それこそ、道端に転がる石ころを蹴飛ばすような、そんな調子で。火属性の中級魔法を、人へ向かって。
「なっ!? 《ウィンド・――》」
泡を食って、フィオネが対抗呪文を唱えるが――彼女の呪文が完成するよりも前に、ザーグの呪文が容赦なくフィオネの身体に直撃した。
「きゃぁああああああッ!」
赤黒い炎の渦がフィオネの身体を容赦なく包み込み、後方へ吹き飛ばす。
全身に火傷を負ったフィオネは、そのまま地面を転がった。
「フィオネちゃん!」
いつもはおっとりとしているサラも、慌ててフィオネの方へ駆け寄って抱き起こす。
「フィオネちゃんしっかり!」
「けほっ、平気、ですわ」
フィオネは親友を安心させるように言うが、そんなはずはない。
魔法耐性の高い制服はボロボロに焼け、肌色がところどころから見えてしまっている。
顔や手足は火傷と煤だらけ。今すぐにでも、治療か回復魔法が必要な状態だった。
「ったく生意気な女だなテメーはよぉ」
ザーグは、自分のしたことに対する罪悪感を欠片も見せず、耳の奥をほじりながら吐き捨てる。
「お前等のクラスにもちゃんと練習場所は割り当てられている。だがな、お前だって失点だろ。A~EクラスとFクラス。人数は変わらねぇのに、お前等のクラスに割り当てられた面積だけ圧倒的に少ねぇことに」
「っ!」
「それってつまりさぁ……」
ザーグは薄汚く笑いながら、言った。決定的な一言を。
「学校側がお前等なんて必要無いって判断してる、ってことだろ?」
「あ……」
その瞬間、フィオネの頭が真っ白になった。
――お前の代わりなどいくらでもいる。お前である必要無い――
忘れ去ろうとしていた在りし日の記憶が、ノイズ混じりにフィオネの頭の中に現れて――
「……それでも、私は」
「あん?」
低い声で呟いたフィオネに対し、ザーグは眉根をよせる。
「私は、こんな場所で立ち止まるわけには――!」
「ふぃ、フィオネちゃん! その身体で動いたら!」
悲痛な声を上げるサラを無視して、フィオネは立ち上がる。
「ここは私達Fクラスの領分ですわ! 邪魔者は引っ込んでいてくださいまし!」
「はっ! 俺に喧嘩売ろうってか! いいぜ、買ってや――」
「《ウィンド・カッター》!」
先手必勝。
フィオネは先程の不意打ちに対する意趣返しでもするかのように、先んじて呪文を唱える。
突き出した右手に、風邪の刃が収束していって――
「はっ、遅ぇ! 《ファイア・バレット》!」
が、フィオネの呪文が完成するよりも圧倒的に早く、後出しのザーグの呪文が完成した。
火の弾丸が高速で飛翔し、フィオネの左肩を容赦なく貫通する。
「っぁああああああああッ!」
フィオネはたまらず肩を押さえて蹲る。
起動しかけていた魔法は、とっくに霧散してしまった。
「はっ、遅ぇ。遅すぎるぜ。やっぱテメェ、才能欠片もねぇんだな」
嘲るように見下ろすザーグの前で、フィオネは悔しさに涙を呑むしかない。
(どうしてですの? どうして、私は……)
何もできないのか?
無能なのだろうか?
本当に、あの優秀なウィザードたる母の血を引いているのなら、もう少し世界は私に優しくてもよかったはずなのに。
(魔法を好きになったことが、そもそもの間違いということですの……?)
フィオネの目尻から、一筋の雫が流れ落ちる。
「無能は無能らしく、グラウンドの隅で指をくわえて見ていやがれ」
そんなフィオネへ向け、ザーグは無慈悲に右腕を向け。
「や、やめて!」
咄嗟にフィオネを庇うように前へ出たサラ諸共、魔法で吹き飛ばそうとする。
「《ファイア・トルネード》」
火属性の中級魔法が、容赦なく起動される。
発生した熱風の渦は、サラ諸共満身創痍のフィオネを吹き飛ばそうとして――不意に、その炎の嵐が消えた。
「……は?」
「え?」
「……」
眉根をよせて訝しむザーグ。
サラとフィオネも、何が起きたのかわからず唖然としていた。
そこへ――
「ったくよぉ……派手な爆音が聞こえたと思ったら、こういうことになってやがったのかよ」
気怠げな、男の声がその場に響いた。
いつの間にか、学園の講師服に身を包んだ若い男がいた。
その姿を見た瞬間、サラとフィオネは同時に叫んでいた。
「「れ、レント先生!」」
「そ、それは――ッ!」
フィオネは直ぐさま反論に移ろうとして、
「えぇ? なに必死になってんだよ。そんなんじゃ、自分たちが無能って認めてるようなもんだぞ? 本当に優秀なら、俺如きの言葉なんて余裕で聞き流せるもんなぁ?」
「っ!」
即座にザーグに言いくるめられ、唇を噛みしめる。
ザーグの後ろに控えるDクラスの生徒達の、嘲笑に満ちた視線がフィオネを突き刺す。
――学校の落ちこぼれ。
それが、フィオネの所属する1年Fクラスに下された、学校全体の評価だった。
七つある属性のうち、生まれつき一つしか使えない者。魔法制御の才能に乏しい者。単純に成績不振の者。様々な理由から、無能と判断された者達が集うクラス。
なまじプライドが高く、他者を見下しがちなウィザード達が、優越感を得るためだけに、学園側が意図的に作り上げたクラス。要するに、掃き溜め。
生まれつき才能がある者や、学園に来て才能を発揮し始めている者はいいだろう。
だが――ただの天運でウィザードとしての才能が乏しく、それでも努力を惜しまない者も少なくないFクラスの者達からしたら、どうだろうか?
「ってなわけで、お前等そこ退いてくんね? これから俺達ユーシューなDクラスは、模擬戦術祭の練習すんの」
「そ、そんな横暴が通じるとお思いですの!?」
唇を噛みしめるだけだったフィオネは、たまらず食って掛かる。
模擬戦術祭の練習場所は、各クラスに決まった場所が割り当てられている。それを侵害するというのは、Fクラスとしても受け入れがたい話であった。
「あ?」
だが、ザーグは面白く無さそうな顔をした。
そして、次の瞬間。
「《ファイア・ストーム》」
無造作に右腕を構えて、呪文を唱えた。
それこそ、道端に転がる石ころを蹴飛ばすような、そんな調子で。火属性の中級魔法を、人へ向かって。
「なっ!? 《ウィンド・――》」
泡を食って、フィオネが対抗呪文を唱えるが――彼女の呪文が完成するよりも前に、ザーグの呪文が容赦なくフィオネの身体に直撃した。
「きゃぁああああああッ!」
赤黒い炎の渦がフィオネの身体を容赦なく包み込み、後方へ吹き飛ばす。
全身に火傷を負ったフィオネは、そのまま地面を転がった。
「フィオネちゃん!」
いつもはおっとりとしているサラも、慌ててフィオネの方へ駆け寄って抱き起こす。
「フィオネちゃんしっかり!」
「けほっ、平気、ですわ」
フィオネは親友を安心させるように言うが、そんなはずはない。
魔法耐性の高い制服はボロボロに焼け、肌色がところどころから見えてしまっている。
顔や手足は火傷と煤だらけ。今すぐにでも、治療か回復魔法が必要な状態だった。
「ったく生意気な女だなテメーはよぉ」
ザーグは、自分のしたことに対する罪悪感を欠片も見せず、耳の奥をほじりながら吐き捨てる。
「お前等のクラスにもちゃんと練習場所は割り当てられている。だがな、お前だって失点だろ。A~EクラスとFクラス。人数は変わらねぇのに、お前等のクラスに割り当てられた面積だけ圧倒的に少ねぇことに」
「っ!」
「それってつまりさぁ……」
ザーグは薄汚く笑いながら、言った。決定的な一言を。
「学校側がお前等なんて必要無いって判断してる、ってことだろ?」
「あ……」
その瞬間、フィオネの頭が真っ白になった。
――お前の代わりなどいくらでもいる。お前である必要無い――
忘れ去ろうとしていた在りし日の記憶が、ノイズ混じりにフィオネの頭の中に現れて――
「……それでも、私は」
「あん?」
低い声で呟いたフィオネに対し、ザーグは眉根をよせる。
「私は、こんな場所で立ち止まるわけには――!」
「ふぃ、フィオネちゃん! その身体で動いたら!」
悲痛な声を上げるサラを無視して、フィオネは立ち上がる。
「ここは私達Fクラスの領分ですわ! 邪魔者は引っ込んでいてくださいまし!」
「はっ! 俺に喧嘩売ろうってか! いいぜ、買ってや――」
「《ウィンド・カッター》!」
先手必勝。
フィオネは先程の不意打ちに対する意趣返しでもするかのように、先んじて呪文を唱える。
突き出した右手に、風邪の刃が収束していって――
「はっ、遅ぇ! 《ファイア・バレット》!」
が、フィオネの呪文が完成するよりも圧倒的に早く、後出しのザーグの呪文が完成した。
火の弾丸が高速で飛翔し、フィオネの左肩を容赦なく貫通する。
「っぁああああああああッ!」
フィオネはたまらず肩を押さえて蹲る。
起動しかけていた魔法は、とっくに霧散してしまった。
「はっ、遅ぇ。遅すぎるぜ。やっぱテメェ、才能欠片もねぇんだな」
嘲るように見下ろすザーグの前で、フィオネは悔しさに涙を呑むしかない。
(どうしてですの? どうして、私は……)
何もできないのか?
無能なのだろうか?
本当に、あの優秀なウィザードたる母の血を引いているのなら、もう少し世界は私に優しくてもよかったはずなのに。
(魔法を好きになったことが、そもそもの間違いということですの……?)
フィオネの目尻から、一筋の雫が流れ落ちる。
「無能は無能らしく、グラウンドの隅で指をくわえて見ていやがれ」
そんなフィオネへ向け、ザーグは無慈悲に右腕を向け。
「や、やめて!」
咄嗟にフィオネを庇うように前へ出たサラ諸共、魔法で吹き飛ばそうとする。
「《ファイア・トルネード》」
火属性の中級魔法が、容赦なく起動される。
発生した熱風の渦は、サラ諸共満身創痍のフィオネを吹き飛ばそうとして――不意に、その炎の嵐が消えた。
「……は?」
「え?」
「……」
眉根をよせて訝しむザーグ。
サラとフィオネも、何が起きたのかわからず唖然としていた。
そこへ――
「ったくよぉ……派手な爆音が聞こえたと思ったら、こういうことになってやがったのかよ」
気怠げな、男の声がその場に響いた。
いつの間にか、学園の講師服に身を包んだ若い男がいた。
その姿を見た瞬間、サラとフィオネは同時に叫んでいた。
「「れ、レント先生!」」
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