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第9話 最弱で最強の
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「ぎゃははははは! 炎に焼かれちまえ!」
勝ち誇ったように哄笑するザーグは、しかし次の瞬間驚愕に目を見開いていた。
「やれやれ、学習しないのかね?」
うんざりとして肩をすくめる俺は、無傷。
それもそのはず。
今まさに俺を飲み込まんと迫っていた炎の渦は、目前で呆気なく消滅してしまったのだから。
「はっ、はは……俺としたことが珍しくミスしちまったか? 魔法の誤作動に救われるたぁ悪運の強いヤツだが、次はねぇぜ! 《ファイア・ランス》ッ!」
呆気にとられていたザーグは、しかしすぐに平静を取り繕い、再び詠唱をする。
刹那、形成された炎の槍が一直線に俺めがけて肉薄してくる。
なるほどな。
先程の《ファイア・トルネード》しかり、起動は恐ろしく速い。1年生にしては大したものだ。が――
「温いな」
「なっ!?」
驚愕に目を見開くザーグの目は、またしてもろうそくの火を吹き消すがごとく消えていく炎の槍に、釘付けになる。
「魔法に込める術式の練度も、熱量も、お前のその心の在り方も、何もかもが温すぎる。ただ起動が速いだけで天才だと驕り、それ以上の鍛錬を積んでこなかったか?」
「っるっせぇ! 勇者パーティを追い出された落ちこぼれの荷物持ちが、偉そうに語るんじゃねぇよ! 《ファイア・トルネード》、《ファイア・トルネード》、《ファイアトルネード》ォオオオオオオオッ!」
激高したのは、図星を突かれたことへの意趣返しか。
ザーグは我武者羅に魔法を連発する。
幾つもの炎の渦が容赦なく俺へと殺到するが――悉くが、俺に届かない。
まるで、見えない穴に吸い込まれていくがごとく、圧倒的な熱がかき消えていく。
「ぜぇっ、ぜぇっ! ……な、何をした。何をしやがったぁああああああああああっ!」
事ここに至り、自分の魔法が届かないことをようやく認めたザーグが、半狂乱で叫んだ。
「おいおい。俺が巷でどういうふうに言われてるか、知ってるだろ?」
「あぁっ!? 収納魔法しか使えない、ただの落ちこぼれ……、……おい、待てよ。まさかテメェッ!?」
何かに気付いたらしく、ザーグは顔を青くする。
「お、俺の魔法を、全部収納しやがったってのか!?」
「大正解。花丸やるよ、自称優等生」
俺は、愕然とするザーグに、ニヤリと笑いかけるのだった。
「なるほど。そういうことだったのね」
不意に、端で見ていたアイラが呻くように呟いた。
「あなたへ向けて放った《インフェルノ・ブラスター》……上級魔法に当たるあの攻撃を至近距離で浴びて無傷なんて、おかしいとは思っていたのよ。よほど強力な魔法障壁でも私クラスのウィザードになると、粉々に消し飛ばすくらい造作もないのだし。でも……防いだのではなく、そもそも飲み込んだのであれば辻褄が合うわね」
「一人で納得してるとこ悪いが、魔法障壁を貫通してくるような攻撃を平然と生身に撃ってくるのはどうかと思うよマジで」
なんで俺の幼馴染みはこんなにも凶暴なのだろうか。
「ふ、ふざけんな。聞いたことねぇぞ! 収納魔法で他の魔法を食うだなんて!」
ザーグは、わなわなと震えながら俺を睨みつける。
「普通、収納魔法は、ただ剣やポーションを異空間へ隔離しておくだけの、しょうもない魔法だろうが! 第一、異空間と繋がるゲートを開く時の大きさや角度、座標を計算しなけりゃならねぇ。戦闘しながらそれを複数同時に起動するなんて、脳の処理能力がパンクしちまうだろ! それに、魔法を丸ごと隔離するようなふざけた量を収納できるわけが――」
「ま、普通は無理だわな」
俺は、淡々とした調子で答えた。
確かに収納魔法はただのポケットだ。魔力を消費して異空間にものを収納する、コストだけがかかるザコ魔法。荷物持ちとしてしか需要のない、チンケな魔法。
それでも。
「たとえばの話だがな。天運に恵まれず、七つも属性があるのにたった一属性しか習得できず。しかも、その属性の中でもたった一つの魔法しか扱うセンスのなかった人間が、死にものぐるいでその魔法だけを極め続けてきたら、どうなると思う? なあ、生まれ持った力に頼る哀れな優等生よぉ」
「っ!」
ザーグの顔から、血の気が引いていく。
そして――俺はさっき言った。俺の生徒を傷つけた落とし前は、払って貰うぞと。
「う、うわぁああああああああああッ!」
ザーグはもう、恥も外聞も捨てて、一目散に逃げ出そうとする。しかし、彼の身体はその場から動かなかった。
「は、な、何がどうなって――なぁ!?」
足下を見たザーグは、目を見開いて硬直する。
既にザーグの足下には異空間へのゲートを展開して、足首の辺りまで沈めている。つまり、彼はもうその場所から一歩たりとも動けない。
「く、クソが! 調子に乗るなよ! テメェがどれだけ収納魔法に長けていようが、所詮しまったものを取り出すだけの魔法だ! 攻撃力はねぇだろ!」
「それを言われてしまうと耳が痛ぇな。確かにこれは、攻撃には不向きの魔法だ。だが、お前はもう自分で絶望的な答えを導いちまったぞ?」
「あ? 何を言って――」
その瞬間、轟ッ! と音を立てて、世界が赤く染まった。
俺が頭上に掲げた手――その先から、煌々と輝く炎の球体が燃えている。その炎の色は、ややくすんだ赤黒い炎。そう――ザーグの放つ炎の色に、ものすごく酷似していて。
「ま、まさか――お前!」
「つーわけで、ザーグだっけ? お前が俺と生徒達へ放った分、全部まとめてお前に返すわ」
「や、やめろ――」
顔面蒼白にして震え上がるザーグの制止を聞かず、俺はそのまま火球を解き放った。
巨大な赤い閃光が、ザーグへ向かって迫っていき――
「やめてぇええええええええええっ!」
ザーグの悲鳴と、盛大な爆音がアンサンブルするのだった。
勝ち誇ったように哄笑するザーグは、しかし次の瞬間驚愕に目を見開いていた。
「やれやれ、学習しないのかね?」
うんざりとして肩をすくめる俺は、無傷。
それもそのはず。
今まさに俺を飲み込まんと迫っていた炎の渦は、目前で呆気なく消滅してしまったのだから。
「はっ、はは……俺としたことが珍しくミスしちまったか? 魔法の誤作動に救われるたぁ悪運の強いヤツだが、次はねぇぜ! 《ファイア・ランス》ッ!」
呆気にとられていたザーグは、しかしすぐに平静を取り繕い、再び詠唱をする。
刹那、形成された炎の槍が一直線に俺めがけて肉薄してくる。
なるほどな。
先程の《ファイア・トルネード》しかり、起動は恐ろしく速い。1年生にしては大したものだ。が――
「温いな」
「なっ!?」
驚愕に目を見開くザーグの目は、またしてもろうそくの火を吹き消すがごとく消えていく炎の槍に、釘付けになる。
「魔法に込める術式の練度も、熱量も、お前のその心の在り方も、何もかもが温すぎる。ただ起動が速いだけで天才だと驕り、それ以上の鍛錬を積んでこなかったか?」
「っるっせぇ! 勇者パーティを追い出された落ちこぼれの荷物持ちが、偉そうに語るんじゃねぇよ! 《ファイア・トルネード》、《ファイア・トルネード》、《ファイアトルネード》ォオオオオオオオッ!」
激高したのは、図星を突かれたことへの意趣返しか。
ザーグは我武者羅に魔法を連発する。
幾つもの炎の渦が容赦なく俺へと殺到するが――悉くが、俺に届かない。
まるで、見えない穴に吸い込まれていくがごとく、圧倒的な熱がかき消えていく。
「ぜぇっ、ぜぇっ! ……な、何をした。何をしやがったぁああああああああああっ!」
事ここに至り、自分の魔法が届かないことをようやく認めたザーグが、半狂乱で叫んだ。
「おいおい。俺が巷でどういうふうに言われてるか、知ってるだろ?」
「あぁっ!? 収納魔法しか使えない、ただの落ちこぼれ……、……おい、待てよ。まさかテメェッ!?」
何かに気付いたらしく、ザーグは顔を青くする。
「お、俺の魔法を、全部収納しやがったってのか!?」
「大正解。花丸やるよ、自称優等生」
俺は、愕然とするザーグに、ニヤリと笑いかけるのだった。
「なるほど。そういうことだったのね」
不意に、端で見ていたアイラが呻くように呟いた。
「あなたへ向けて放った《インフェルノ・ブラスター》……上級魔法に当たるあの攻撃を至近距離で浴びて無傷なんて、おかしいとは思っていたのよ。よほど強力な魔法障壁でも私クラスのウィザードになると、粉々に消し飛ばすくらい造作もないのだし。でも……防いだのではなく、そもそも飲み込んだのであれば辻褄が合うわね」
「一人で納得してるとこ悪いが、魔法障壁を貫通してくるような攻撃を平然と生身に撃ってくるのはどうかと思うよマジで」
なんで俺の幼馴染みはこんなにも凶暴なのだろうか。
「ふ、ふざけんな。聞いたことねぇぞ! 収納魔法で他の魔法を食うだなんて!」
ザーグは、わなわなと震えながら俺を睨みつける。
「普通、収納魔法は、ただ剣やポーションを異空間へ隔離しておくだけの、しょうもない魔法だろうが! 第一、異空間と繋がるゲートを開く時の大きさや角度、座標を計算しなけりゃならねぇ。戦闘しながらそれを複数同時に起動するなんて、脳の処理能力がパンクしちまうだろ! それに、魔法を丸ごと隔離するようなふざけた量を収納できるわけが――」
「ま、普通は無理だわな」
俺は、淡々とした調子で答えた。
確かに収納魔法はただのポケットだ。魔力を消費して異空間にものを収納する、コストだけがかかるザコ魔法。荷物持ちとしてしか需要のない、チンケな魔法。
それでも。
「たとえばの話だがな。天運に恵まれず、七つも属性があるのにたった一属性しか習得できず。しかも、その属性の中でもたった一つの魔法しか扱うセンスのなかった人間が、死にものぐるいでその魔法だけを極め続けてきたら、どうなると思う? なあ、生まれ持った力に頼る哀れな優等生よぉ」
「っ!」
ザーグの顔から、血の気が引いていく。
そして――俺はさっき言った。俺の生徒を傷つけた落とし前は、払って貰うぞと。
「う、うわぁああああああああああッ!」
ザーグはもう、恥も外聞も捨てて、一目散に逃げ出そうとする。しかし、彼の身体はその場から動かなかった。
「は、な、何がどうなって――なぁ!?」
足下を見たザーグは、目を見開いて硬直する。
既にザーグの足下には異空間へのゲートを展開して、足首の辺りまで沈めている。つまり、彼はもうその場所から一歩たりとも動けない。
「く、クソが! 調子に乗るなよ! テメェがどれだけ収納魔法に長けていようが、所詮しまったものを取り出すだけの魔法だ! 攻撃力はねぇだろ!」
「それを言われてしまうと耳が痛ぇな。確かにこれは、攻撃には不向きの魔法だ。だが、お前はもう自分で絶望的な答えを導いちまったぞ?」
「あ? 何を言って――」
その瞬間、轟ッ! と音を立てて、世界が赤く染まった。
俺が頭上に掲げた手――その先から、煌々と輝く炎の球体が燃えている。その炎の色は、ややくすんだ赤黒い炎。そう――ザーグの放つ炎の色に、ものすごく酷似していて。
「ま、まさか――お前!」
「つーわけで、ザーグだっけ? お前が俺と生徒達へ放った分、全部まとめてお前に返すわ」
「や、やめろ――」
顔面蒼白にして震え上がるザーグの制止を聞かず、俺はそのまま火球を解き放った。
巨大な赤い閃光が、ザーグへ向かって迫っていき――
「やめてぇええええええええええっ!」
ザーグの悲鳴と、盛大な爆音がアンサンブルするのだった。
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