姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一

文字の大きさ
47 / 153
第一章 《英雄(不本意)の誕生編》

第47話 生徒会副会長の実力

しおりを挟む
《三人称視点》



 ――舞台は地上に戻り、エルザがたった1人、絶望的な状況に抗っている頃。



 突如として召喚獣の群れが現れた第一円形闘技場は、どよめきの渦中にあった。



「な、なんだコイツ等は!」「召喚獣? なんで急に地面から現れたんだ!?」「落ち着けよ。どうせあれだろ? 俺達のような決勝戦に参加できない人間用に、学校側が用意したサプライズだろ?」「そうなのかな? だとしても、唐突過ぎない?」「じゃあ、なんなんだよ!」



 観客席に座っていた生徒達は、口々にそんなことを話している。

 そんな生徒達の間を縫い、リクスは一直線に出口へ向けて駆けだしていた。

 まるで、何か大事な使命に突き動かされているかのように。



「リクスくん! どこに行くんですか!?」



 遠ざかっていくリクスを呼び止めるフランだったが、その声はリクスに届かない。

 フランの叫びを遮るように、空に舞い上がった召喚獣の一つ――真っ黒なドラゴンが咆哮したからだ。



『ゴォアアアアアアアッ!』



 ドラゴンの口から放たれた衝撃波が大気をビリビリと震わせる。

 その勢いのままに巨大な翼を広げ、ドラゴンはフラン達の方へと高速で肉薄していった。



「く、来る!」



 フランとサルムは慌てて戦闘態勢を取る。

 ドラゴンの真っ赤な瞳がフラン達を射貫き、圧倒的な体躯で突進していく。

 必然、フランとサルムの額に冷や汗が浮かび、心臓の鼓動が加速度的に増していく。



「ちょっと下がってて、一年生ズ」



 と、緊張の糸を切るかのように、フランの前にエレンが躍り出た。

 その手には、陽光を跳ね返す抜き身の剣が握られていて――



「風魔よ、鋭き風刃を放て――“エア・ブレード”」



 中級風属性魔法“エア・ブレード”の呪文を唱えつつ、手にした剣を斜め上に切り上げた。

 その所作に一切の淀みはなく、く、そして鋭い。
 
 風の魔力を纏った斬撃が、迫り来るドラゴンの身体を金剛石よりも硬い鱗ごと、まるで果物でも斬るかのように真っ二つに切り裂いた。



『グガ……』



 研ぎ澄まされた刃に切り裂かれたドラゴンは、断末魔をあげる間もなく絶命し、真っ黒な灰となって消えていく。



「よし」



 エレンは小さく頷いて、剣についた血糊を払った。



「す、凄い……ドラゴンを、一撃で倒すなんて」

「うん、流石は騎士団の副団長だ」



 フランとサルムは、たった一閃でドラゴンを切り払ったエレンの背中を見て、戦慄と驚嘆に狩られていた。



 が、感心している場合ではない。

 見れば、残ったゴーレムや大型の動物が観客席に押し寄せていた。



「わ、私達も戦わなきゃ!」

「いや、君達は弟くんを追ってくれ!」



 詠唱のいらない初級魔法“ファイア・ボール”を連射して、召喚獣を片っ端から退けながら、エレンがフラン達に指示を出す。



「ど、どうしてですか? ここで召喚獣を食い止めた方が……」

「短い時間で考えたんだけどね、さっき誰かが言ったように学校側のサプライズイベントだって可能性は捨てきれない。現れた召喚獣のうち、ドラゴンやグリフィンみたいな強いヤツは数体だけ。あとは、中級の召喚魔法で生み出す雑魚ばかりだ。英雄を育てるための王国最高レベルの学校に襲撃するにしては、あまりにも戦力が足りない上に、杜撰すぎる」



 そう分析するわりに、エレンの表情にはどこか鬼気迫るものがあった。

 

「じゃあ、これは誰かの襲撃ではないってことですか?」

「そうでないとは言い切れない。いや、むしろウチ達のような英雄を目指すものは、常に最悪の状況を想定して動くべきだ。この学校を襲うなんていうバカげた発想は、普通思い浮かばない。本気で攻めるにしたって、戦力も明らかに足りない。であれば、今の状況が指し示すのは……裏で何らかの思惑が動いてるってことさ」

「つまりこれは、陽動……ただのカモフラージュってことですか?」

「理解が早くて助かるよ、そういうことさ」



 エレンはこくりと頷いた。

 そこで、フランも気付く。これが陽動だとしたら、リクスが真っ先にこの会場から飛び出した理由に。



「もしかしてリクスくんは、この裏で何かよからぬことが起きてると気付いて……?」

「おそらくその通りだよ。弟くんは、誰よりも早くその可能性に思い至ったからこそ、それを止めるために駆けだしたんだ。本当に、末恐ろしい少年だよね」

「す、凄い……リクスくん」



 フランも、そばで聞いていたサルムも、リクスの行動に舌を巻いていた。

 いきなり召喚獣が飛び出してきて、誰もが状況の理解に追いつかない中、瞬時にこの状況が陽動だと気付いて、本命を探るために迷いなく駆けだした。

 一体、どういう脳みその回転速度をしているのだろう?



「これが、英雄たる人の能力なんだ……」



 フランは、近くて遠い存在であるリクスのことを考えながら、呆けたように呟いた。



 もちろんリクスは、姉が副校長と接触するのを阻止するために、召喚獣の登場をガン無視して駆けだしただけなのだが――本人のあずかり知らぬところで、またしても株が上がっているのだった。



「これでわかっただろう? 君達は弟くんと共に、裏で動いている思惑の阻止を頼みたい。できるかい?」

「はい! 精一杯頑張ります」

「僕も。リクスには大きな借りがあるので」



 フランとサルムは、力強く頷くと、リクスの消えていった道順を追って駆けだした。



「頼んだよ、若き英雄達……」



 その姿を、どこか眩しそうに見送ったエレンは、“ファイア・ボール”による足止めをやめ、剣を両手で持ち直した。

 “身体強化ブースト”で強化した肉体で、疾風のごとく観客席を駆け降り、剣を振るう。



 迅速で振り抜かれた剣は、すれ違いざま、10体の大型動物を切り裂いた。

 切り裂かれたそばから、召喚獣達の身体が崩れて消えていく。

 残心もそこそこに振り返り、エレンは観客席にいる生徒達へ向かって叫んだ。



「みんな聞け! この状況が学校側の意図したものなのか、そうでないのか、判断が付かない。故に、自分の身を守りつつ、安全な場所へ移動するように! これは、生徒会副会長としての命令だ!」



 凜とした覇気を纏う声が、会場にいる生徒達の耳に届く。生徒達は、その号令に突き動かされるように、出口へ向けて移動を開始した。

 それを確認したエレンは、再び剣を構え、まだまだ勢いのとまらない召喚獣の群れを見据えた。



「さて、始めるか」



 不敵に笑ったエレンは、地面を蹴って召喚獣の群れに突っ込んでいった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

処理中です...